株式会社ASIA Linkは、毎年7月に「教職員のための外国人留学生就職支援研修会」というイベントを主催しています。
今年(2024年)は7月27日に開催し、留学生の就職支援に関わっている、または興味関心のある教職員93名の方々にお申込みをいただきました。
教職員の方々には、参加申し込みの際、応募フォームの中でアンケートへの回答にご協力いただきました。
ご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。
アンケート結果をまとめたレポートを、以下に掲載いたします。
■アンケート回答者の人数と属性
【有効回答数】91名
【属性】大学職員34名、大学教員19名、専門学校教員7名、日本語学校職員9名、日本語学校教員12名、その他機関・フリーランス教師等10名
【アンケート実施期間】2024年4月-7月
■アンケートの目的
今回のアンケートは、外国人留学生のキャリアに関わる認識について、留学生自身による認識と比較して、教職員による認識がどのようなものかを調査するために行いました。
留学生向けのアンケートについては、株式会社ディスコ(現:株式会社キャリタス)が2023年8月に発行したキャリタスリサーチ「2024年卒 外国人留学生の就職活動状況に関する調査」を参照しました(以下キャリタス2023と表記)。この中に留学生のキャリア思考が窺える質問項目が含まれているため、今回の教職員向けアンケートでは、キャリタス2023から以下の6つの質問項目及び選択肢を使用し、教職員の方々に回答いただきました。
1.日本での就職を希望する理由
2.日本で就職する際に不安に感じること
3.日本で働きたい年数
4.就職先企業を選ぶ際に重視する点
5.就職先企業選びへの影響度合い
6.働き方についての考え
■教職員向けアンケート結果
1.留学生が日本での就職を希望する理由は何だと思われますか。最も強い理由だと思うものを一つだけ選んでください。
※()内の数字は有効回答数。以下の設問も同様。
※キャリタス2023は複数回答だが、回答選択肢のすべては公開されておらず、回答をいくつ選択できるのかも公開されていない。そのため、今回の教職員向けアンケートでは単一回答とした。以下の設問も同様。
教職員アンケートでは1位に「将来のために日本での勤務経験が必要だから」がランクイン。一方、留学生アンケートでは6位でした。
また、留学生の1位「生活環境に慣れているから」は、教職員のほうは6位。
教職員は留学生の長期的キャリアを意識している一方、留学生はキャリアのスタート地点を意識している表れとも読み取れます。
あるいは別の見方をすれば、戦略的なキャリア形成をめざす留学生は、日本での留学や就職を目指さなくなっている(他国へ流れている)のかもしれません。
2.留学生が日本で就職する際に不安に感じることは何だと思われますか。最も強いと思うものを一つだけ選んでください。
5年前(2019年)のキャリタスリサーチの20卒留学生調査では、同じ質問の回答として「希望する仕事ができるのか」が2位にランクインしていました(24卒は4位)。24卒は売り手市場を背景に、不本意な就職先への懸念が減少傾向にあると言えるのかもしれません。
あるいは、自分の日本語力や職場の人間関係を不安視する留学生の傾向からは、仕事内容や今後のキャリアよりも、まずは日本企業の組織に馴染んで安心して働けることを重視する人が増えているという見方もできます。
3.留学生は日本で働きたい年数をどのように考えていると思われますか。
この質問項目は、教職員と留学生とで大きな差が出ました。24卒留学生は半数が「日本でできるだけ長く働きたい」を選択していますが、教職員のほうは約2割であり、最も多いのは「5年くらい」で3割の教職員が選択しました。
キャリタス2023の留学生回答者属性が、中国人留学生がボリュームゾーンであることも影響している可能性があります。
4.留学生が就職先企業を選ぶ際に重視する点は何だと思われますか。最も強いと思うものを一つだけ選んでください。
教職員は仕事内容の魅力とそれに見合う給与・待遇を重視するだろうと考えているのに対し、留学生は企業の将来性と給与・待遇の良さをリンクして考えている可能性があります。
5.留学生が就職先企業を選ぶ際に、以下の①~③の3つの項目がどの程度影響すると思われますか。
この項目は、とくに「①仕事を通して成長できること」の結果に両者の差が見られました。
「仕事を通して成長」「多様性のある職場環境」の教職員の数値は、キャリタス2023の日本人学生対象のアンケート結果と同じ傾向を示しました。
6.留学生は働き方についてどのように考えていると思われますか。以下の①と②それぞれについてお答えください。
①については、教職員が留学生を専門職志向と捉えているのに対し、留学生の結果はジョブローテーション希望者も半数近いとの結果でした。キャリタス2023の回答者属性が、理系よりも文系が多いことも影響している可能性があります。②の教職員結果は、キャリタス2023の日本人学生対象の結果と同じ傾向でした。
■おわりに
キャリタス2023の調査対象者は大学・大学院生であるのに対し、今回のアンケートに回答いただいた教職員の方々は、大学所属は58%でした。日々向き合っている留学生の所属や属性によっても、今回のアンケート結果は大きく変わる可能性があると感じました。
一方で、留学生の就職支援に関わるそれぞれの立場の大人たちにも事情があります。留学生の卒業後の進路を決めていかなければならないという、職務上の責任もあるでしょう。または、教育者として長期的なキャリアの視点で留学生を導きたいという想いもあるかもしれません。もちろん、我々のような就職支援会社もしかりです。
私たちは留学生に向き合うとき、彼らの言葉を、私たちの「聞きたいように」理解・認識していないだろうか、ということを自らに問いながら、就職支援をしていく必要があると思います。キャリアはその人自身のものであり、本来そこには上も下もなければ、正解も不正解もありません。私たちの常識や理想のレンズで見ることなく、留学生一人一人のより良い職業人生のスタートに伴走していきたいと、改めて感じました。
(文責:株式会社ASIA Link 小野朋江)