日本で就職する外国人留学生は、この10年間で4倍近くに増えました(*1)。それに伴い、留学生が在籍する大学・専門学校・日本語学校等の教育機関における、就職支援の役割・存在意義も高まっています。
大学や専門学校のキャリアセンターでは、留学生を専門に担当する教職員を配置するところも増えてきました。また、日本語学校でも、就職専門のコースを新たに設置したり、就職に関わる授業を取り入れる等の動きが増えています。
一方、就職支援の強化の動きと並行して高まってきたのが、「キャリア教育」の動きです。2011年に文部科学省の審議会報告等の中で「キャリア教育」という言葉が初めて登場してから、文部科学省と厚生労働省が主導する形で、各教育機関ではキャリア教育の取り組みが進められてきました。
しかし、文部科学省や厚生労働省が公開している、キャリア教育に関わるテキストや事例集等は、基本的に日本に住む日本人が対象として想定されており、留学生に対するキャリア教育は、各教育機関が試行錯誤しながら進めているのが現状と言えます。
この度ASIA Linkでは、留学生の就職支援を行っている教職員の方々に、キャリアデザインを意識した就職指導や、キャリアデザインの授業の現状と課題について、アンケート調査を行いました(*2)。
ご協力いただいた皆様に感謝申し上げます。
アンケート結果を以下に掲載いたします。
*1)出典:出入国在留管理庁(2023年12月)「令和4年における留学生の日本企業等への就職状況について」
*2)ASIA Linkが2024年7月27日に主催した「教職員のための外国人留学生就職支援研修会」の申込フォームから参加申込みをいただいた教職員93名の中で、申込フォーム内のアンケート項目(回答は任意)に記入いただた内容から、文章をほぼそのまま抽出。アンケート実施期間は2024年4月-7月。
【1】留学生への就職支援をする際、キャリアデザイン(仕事と生き方の人生設計)を意識して、指導されていますか。どのような方法を取っているかも含め、教えてください。
- 留学生向けのキャリアデザイン科目(就職・進学)を担当しているため、その授業ではライフキャリアとビジネスキャリアについて意識した授業を行っている。ビジネスキャリアについては、就職活動や職場で必要となる一般的な日本語学習とキャリアデザインを絡めた構成で進めている。(大学教員)
- なぜ日本で働きたいのか、自分目線ではなく世の中目線で何を実現したいのか、ということについて、業界選び、企業選びの段階から話し合い、エントリーシートの添削時や面接練習時においても常に確認するようにしている。(大学職員)
- かなり意識して支援している。新卒の時点で転職や中長期のキャリアを意識した選択をする学生も多く、不確実性が高まる中で自分が仕事を通じて発揮したいこと、追い求めたい価値、をより明確にした支援が求められるようになってきたと感じている。特に海外キャリア学会で得た知見を基にLifelong Careerの観点を入れたワークショップを開発し、実施、効果測定のデータをためている。(大学職員)
- 「ビジネス日本語」を担当しているが、初回の授業で「キャリアプラン」のワークシートに記入してもらったり、キャリアとは何かについて議論したりしている。ただ仕事だけではなく、生活基盤などを含めた広い意味でのキャリアデザインを意識した教育実践を行なっている。(大学教員)
- 意識している。母国や第三国でのキャリア形成も含めて、長期的な視点でキャリアプランニングしてもらっている。(大学職員)
- ビジネス実務授業の中で、実際に日本企業等で働く日本人や外国籍の社会人とキャリア形成についてディスカッションしてもらい、リアリティギャップを減らすよう努めている。(専門学校教員)
- 5年後、10年後はどのようになっていたいか、そのために今何をすることが必要か、ということを考えさせている。(日本語学校職員)
- 本人や家族の将来のイメージと日本の会社のあり様のすり合わせが大事だと思っている。(大学教員)
- 非漢字圏の学生との初回面談では、キャリアデザインについて深く考えていない学生も多く、漠然と5年くらい日本で働いてという回答を得ることが多い。面談でどのような仕事が良いのか、どのくらいの期間を働きたいのか、その後についてどうするのかを質問しながらデザインしていく方法をとっている。(日本語学校職員)
- 日本で定住して働くか、将来は海外に行く(戻る)かで分かれると考える。日本での定住を目指す方は、日本の企業文化や慣習に慣れること、人間関係を良くするということは重要な要素と思われる。一方で海外でキャリアステップしていく場合はこの限りではないと考える。この場合はより自身のスキルを高め経験値を獲得することに重きを置くケースが多いと考えるので、そういった環境に身を置けるかどうかを企業選択の際にアドバイスしている。(大学職員)
- 日本語レベルが高いクラスの学生には人生設計についても多少話すが、ほとんどの学生とは日本語面接の練習や内定が決まってビザが取れるかどうかを優先して話をしている。(日本語学校教員)
- 仕事のイメージが持てない学生が多いので、仕事を選ぶときに最も重視するものは何か、それは何のためかを各自で考える時間を取ったうえで、雇用保険、年金制度の話をして「どこで」「どのように」生活したいと思っているか考える必要があると説明する。(大学教員)
- ハーバード式Design Your Lifeアプローチを参考にしている。(大学教員)
- 自分にとって大切な「譲れないもの」を探すところから指導を始めている。そこから、どこで住みたいか、どんな生活をしたいか、といった具体的にイメージしやすいことを聞き、その後、仕事や自分の将来について話しを聞くようにしている。(大学職員)
【2】キャリアデザインの授業を実践されている教職員の方は、留学生の反応や、その後の変化について教えてください。
- 将来の方向性について考えずに留学している留学生や低学年の留学生は(国内外の就職や進学に関わりなく)自身のキャリアへの意識化ができるようになっていると思う。また、すでに方向性を意識している留学生については、詳細なキャリアデザインと理想を実現するための具体的な方策を考えるよい機会になっているのではないかと思う。(大学教員)
- 本国独自の就活制度を理解すると進みが早いと感じる。(大学職員)
- 3つの変化がある。①日本の就職活動が面倒くさい→変化:自己、他者、社会を知る過程 ②大手企業に入りたい→変化:業務内容や自身の成長なども視野に ③給与や待遇を第一義に考える→変化:他の要素にも目を配り、より広く捉える(大学教員)
- 母国で、内発的キャリアについて考える慣習がない留学生もいるので、自己理解の必要性については、日本式就活の特徴をとっかかりにしながら、じっくり理解してもらうようにしている。(大学職員)
- 日本企業の独特さや就職活動の方法を知ることで、リアルな自分自身のイメージが作れるようになると感じている。(大学教員)
- わかりやすく伝え、やるべきことを設定することで、短期的なモチベーションはあがると思う。(大学職員)
- 留学生自らが考える習慣が身につき、就職活動を積極的に行う学生が増えた。(日本語学校教員)
- キャリアデザインというほどではなく、進路指導として、授業内にどんな仕事をしたいのかということを深める時間を設けることがある。しかし、これからのことが何もわからない、働きたいけどビザがもらえれば仕事は何でもいいということを聞く。自分で決めている人もいるが、何もない、という人へどう関わっていけば良いのか、悩むことが多い。(日本語学校教員)
- 自身の将来設計について「わからない」「迷う」という実態は変わらないと感じている。(大学教員)
- 知らないから考えられない、という学生が減少したように思う。(専門学校教員)
- キャリアセンターとの深い接点ができるので、相談しやすくなり、就職活動を持続的に行え、何かあると面談に来るようになっている。(大学職員)
【3】キャリアデザインを含めて就職支援をする際、留学生特有の難しさがあれば教えてください。
- 企業が求める日本語能力と学生自身の日本語力に差がある。留学生との意識の差がある。必要な時期に必要なプログラムを設定しても留学生の意識が低い。全体に向けたガイダンスの後に「日本で就職したい」と相談に来る。(大学職員)
- 日本の学生と同じスケジュールで動くことができない。同様に情報にアクセスできない。卒業前に就職活動をしていないと特定活動ビザが出ないというアナウンスに気が付かない。就職活動の大変さが予想できていない。(大学教員)
- 背景や経験が多様であり、日本国内の社会状況、労働環境、就職活動についての前提知識にばらつきがあり、先輩等から聞いて様々なことを知っていても、偏った情報やステレオタイプな知識があるため、留学生それぞれに適した情報提供を一様に行うということが難しいように思われる。また、教育機関によって異なると思うが、教育現場と支援現場の連携が容易ではないと感じている。(大学教員)
- ①大学での専攻と仕事が直結することが前提となっているため、企業選びを含めて視野が狭くなっていること ②自分の理想や思い込みが強く、アドバイスをなかなか聞き入れてもらえないこと ③日本語力が不足しているが、本人にその自覚がないこと(大学職員)
- 本学の場合には100か国以上の国から入学してきており、それぞれの国で受けたSecondary Educationでの「キャリア教育」の内容が違っていたり、そもそも「キャリアをデザインする」という概念がない国もある。その中で大学が提供する「キャリア教育」や「就職支援」の最初の足並みをそろえることに苦労している。(大学職員)
- 学位取得を最終的なゴールにして留学する学生が増えており、多様化するキャリア志向への対応が必要だと感じる。英語トラック留学生の日本就活支援の難しさは昨年に引き続き大きな問題。(大学職員)
- 本学の場合は英語のみの講義で卒業できるコースが充実しているため、ほとんど日本語を話せない学生で、且つ日本で就職を希望する(日系企業、外資系企業問わず)就職支援が毎年発生していて、その学生たちとマッチングする受け入れ企業の開拓が最も困難な要素となっている。(大学職員)
- 日本特有の就職活動に対応する点については今も抵抗や疑問を感じている方が多く、途中から自己流で活動する方も少なくない。(大学教員)
- 大学院レベルで入学した留学生は、日本の社会文化を理解せずに、また、日本的なキャリア教育を受けずに理想だけで就活を開始しているため、現実が見えるまでに時間がかかり実質的な就活の開始が遅れている。(大学職員)
- 日本語学校では目標を決めて勉強している学生は少なく、漠然として、仕事をしたいから経済学部に行きたいという学生が多い。もしくは、今は全く考えていないという学生もいる。(日本語学校教員)
- ①外国人社員のキャリアパスが見えないことに対する不安 ②特に中国の一人っ子の場合、出身国にいる両親の扶養に対する不安 ③ビジネスコミュニケーション能力 ④特に女性の場合は、結婚や出産、育児によるキャリアへの影響(大学教員)
- ①自分の在留資格の期限から逆算して、ある程度日本語力に自信がついてから就職活動を始めるので、就職活動できる期間に限りがあること ②留学生が日本で働くか帰国するか揺れ動いていること ③外的なやりたいこと(マーケティング、海外業務など)と価値観(興味・関心)の擦り合わせ(日本語学校職員)
- ①インターンシップ、就職活動のスタートが遅い傾向 ②留学生向けの学内イベント告知を何度しても届かない様子、そのために苦戦している ③学内のイベントへの参加率、キャリアサポートセンターの利用が不足している(大学職員)
- 授業、アルバイト、課外活動などで多忙なこともあり、知識を得ても実践するところまで行くのは、それまでの留学生の個人の経験、素養、日本語能力によるところが大きいと感じる。(大学職員)
- 言葉が流暢でも相手のロジックが理解できないと本当に理解することは難しいと感じる。支援者側も学生の母国のキャリアパスについて理解して支援することが大事。(他機関職員)
- キャリアについて今まで考えてきたことがない。日本語力の低い学生は授業の内容を理解できない。自分のやりたいことに対して技術・人文知識・国際業務の在留資格がおりない可能性がある。(専門学校教員)
- 就職活動自体が伝わりにくい(大学教員)
- 結果がでないことや、自文化との狭間でいつもせめぎあいがある。(日本語学校教員)
- 英語コース履修者の日本語力の低さ(大学職員)
- 言語能力以上に、職場の文化への適応や自己アイデンティティの問題が現れるように感じている。(大学教員)
- 早期から採用活動が行われるなど、日本独特の就職活動への理解と、日本語があまりできない学生への指導。(大学職員)
- 多くの留学生が「日本に就職すること・住む事」を「譲れないもの」として認識している場合も結構あるので、その場合に「もう一つ別の譲れないもの」を探すのが大変。(大学職員)
- 日本人ならとりあえず見習い的な補助業務から始めたりすることもできる場合でも、在留資格の縛りにより職務内容が限定されてしまうため、即戦力になりえるかどうかが重要視されてしまう印象がある。新卒、未経験の学生は大変だと思う。(専門学校教員)
- 学校が手配していた人材会社の面接を受けながらも、実は自分でも(教員には言わずに勝手に)ネットや友人の紹介などで知った人材会社に登録していた、といったケース。結局そちらの会社を通して就職したが、手数料として合計30万円近く支払うことになった。学校の先生よりも同じ国の人の方を信用してしまう。(日本語学校職員)
- 長期的に希望する勤務地を含め、キャリアプランを考えられていない方が多いと思う。(大学職員)
- 帰国するという選択肢があり、日本での就職の本気度を測りかねることがある。(大学職員)
- 日本語学校の卒業は3月のため、4月入社が望ましいが、4月採用は新卒または第二新卒を求められるケースが多く、就職活動をする上で二の足を踏んでしまう学生がいるように思う。もう少し条件面で緩やかになればありがたい。また中途採用の場合、日本語学校を退学しなければならなくなり、中途採用が多くなると日本語学校側は経営的には厳しくなる。(日本語学校教員)
- まず日本独特の就職活動についての知識理解がなく、そこを伝えることからスタートしている。特にスケジュール感や採用方法の違い(ジョブ型ではなくポテンシャル)は強く伝えているが、それをふまえた自己PRを完成させるのに時間がかかる。N1を持っている学生でも、話してみるとコミュニケーションがスムーズでないことがあり、N2でもコミュニケーションスキルが高いと感じることがあるが、企業からは基準としてN1を求められてしまう。N1の学習に時間をかけるよりは、ビジネス日本語や就活対策に時間をかけたほうが良いように思う。(大学職員)
いかがでしたでしょうか。
教職員の方々が創意工夫をしながら、キャリアデザインを意識した就職支援に向けて、様々な取り組みを行っている様子がわかります。
一方で、留学生特有の難しさや課題も多いことがわかりました。
産官学の連携も含め、今後さらに留学生のキャリア支援の仕組みの発展が望まれます。
(文責:ASIA Link 小野)