1.はじめに
株式会社ASIA Linkでは、2025年3月卒業予定の外国人留学生(以下、留学生とする)を対象に中小企業への応募に関するアンケート調査を実施した。
中小企業は日本の全企業数の99.7%を占めている。2023年12月に公表された出入国在留管理庁の「令和4年における留学生の日本企業等への就職状況について」によれば、従業員数300人以下の中小規模の企業に就職した留学生は全体の68.6%を占めており、その数は少なくない。彼らがどのような動機付けで中小企業へ応募したのか、その理由を明らかにすることで、中小企業が採用活動を行う際の一助となることを目的に調査を実施した。
2.調査概要
・調査期間:2024年9月8日~2024年10月1日
・調査機関(調査主体):株式会社ASIA Link
・調査対象:2025年3月卒業予定の外国人留学生
・サンプリング:ASIA Linkに登録している2025年3月卒業予定の外国人留学生696名及び教職員を通じてアンケートに協力してくれた留学生
・有効回答数:86名
・調査方法:Web上のアンケートフォームのリンクをメール送信
3.調査対象者の属性
・専攻分類:文系 41名、理系 45名
・地域・出身国:東アジア 50名(中国 33名、台湾 9名、韓国 6名、香港 2名)、東南アジア 18名(マレーシア 8名、インドネシア 5名、ベトナム 3名、タイ 1名、ミャンマー 1名)、南アジア 11名(バングラデシュ 4名、インド 3名、ネパール 3名、パキスタン 1名)、欧州 4名(フランス 1名、ウクライナ 1名、スペイン 1名、ドイツ 1名)、南米1名(ブラジル 1名)、中東 1名(イラン 1名)
・最終学歴:大学(学士)55名、大学院(修士課程)23名、大学院(博士課程)3名、高等専門学校5名
4.中小企業への応募理由
本調査では留学生の中小企業への応募理由を明らかにすることを目的にアンケート調査を行った。
昨年、実施したASIA Linkの2023年10月発行の「24卒外国人留学生対象 中小企業への応募に関する調査」の質問及び選択肢の作成に際しては、日本人学生に対して調査を行ったキャリタスの2022年10月発行「2023年卒 vol.10 10月1日時点の就職活動調査」の第3章「中小企業への選考応募状況調査」(以下、キャリタス(2022)とする)を参考にした。キャリタス(2022)に倣い、中小企業は従業員300人未満の会社と定義した。本調査においても、それらを踏襲する。
本調査では、まず、留学生の中小企業への応募理由の特徴を明らかにするため、日本人学生との比較を行う。キャリタスの2024年10月発行「2025年卒 vol.10 10月1日時点の就職活動調査」の第5章「中小企業への選考応募状況調査」(以下、キャリタス(2024a)とする)のデータを用いる。それに加え、前回調査のASIA Link(2023)の24卒留学生と今回調査の25卒留学生の経年変化の比較を行う。それぞれの差異から、中小企業が留学生へのどのようにアプローチするのが適当であるか、その端緒を明らかにしたい。
4-1.中小企業への応募の有無
4-1-1.留学生と日本人学生の比較
2025年3月卒業予定の留学生を対象に、中小企業(従業員300人未満の会社)に応募をしたかを尋ねたところ、86名より回答が得られた。そのうち「はい」は58名(67.0%)、「いいえ」は28名(33.0%)であった。本調査ではエントリシートあるいは履歴書の提出からを企業への応募とした。
キャリタス(2024a)が日本人学生に中小企業への応募経験について尋ねたところ、「エントリーした」と答えたのは55.1%で、前年60.1%より、5ポイントの減少が見られ、日本人学生の応募状況に関して「売り手市場を背景に、中小離れが進んだ様子が見て取れる」と考察されている。本調査の留学生は67.0%が応募しており、日本人学生より12ポイント高い結果となった。
4-1-2.前回調査との比較
前回調査のASIA Link(2023)では、2024年3月卒業予定の留学生の74%が中小企業に応募したと回答しているが、今回は67%で7ポイントの減少が見られた。日本人学生(55.1%)よりは応募しているが、留学生も中小企業への応募については減少傾向が見られる。日本人学生と同様に売り手市場であることが影響している可能性が考えられる。
4-2.中小企業へ応募した理由
中小企業へ応募したと回答した留学生58名(67.0%)に、応募理由について尋ねたところ、以下の回答が得られた。回答は複数選択可とし、自由記述欄も設けた。
最も多かったのが「やりたい仕事に就ける」29名(50.0%)、次いで「会社の雰囲気がよい」26名(44.8%)、「企業として独自の強みがある」19名(32.8%)だった。
4-2-1.留学生と日本人学生の比較
キャリタス(2024a)の日本人学生が中小企業を受けた理由の上位三項目は「やりたい仕事に就ける」(43.0%)、「会社の雰囲気がよい」(38.0%)、「企業として独自の強みがある」(26.5%)であった。上位三項目は日本人学生、留学生ともに同様の傾向が見られた。
留学生と日本人学生との差が最も大きかったのは「将来性がある」で、留学生は29.3%、日本人学生は11.5%で、17.8ポイントの差が見られた。留学生の方がより企業の将来性を重視する傾向が見られた。
次いで差が大きかったのは「選考の練習台として」で、留学生は8.6%、日本人学生は24.3%で、15.7ポイントの差があった。おそらく留学生は選考を練習で受けようとは考えておらず、日本人学生とは就職活動に対する意識が異なることが考えられる。
三番目に差が大きかったのは、「転居を伴う転勤がない」で留学生は8.6%、日本人学生は23.9%で、15.3ポイント差だった。進学時点で外国への移動をしている留学生にとっては転居を伴う転勤の有無が応募を左右しない可能性が考えられる。日本人学生の「Uターン・地元就職に関する調査」をしたマイナビ(2024)によれば、25卒の日本人学生の6割は地元の企業で働くことを希望しており、それはコロナ禍以降の傾向であることが指摘されている。留学生との差が大きくなったのは、日本人学生の地元志向の高まりによるところが大きいと考えられる。
4-2-2.前回調査との比較
前回調査のASIA Link(2023)と比較して、最も差が大きかったのは、「企業として独自の強みがある」で、前回13.5%、今回32.8%で、19.3ポイント増加していた。今回は企業の事業内容の独自性を重視する傾向が窺える。次いで差が大きかったのは「志望業界の企業だった」で、前回43.2%、今回27.6%で、15.6ポイント減少していた。前回は業界を定めて応募する傾向が見られたが、今回は強みのある企業を個別に選ぶ傾向が見られた。急速な技術の進歩による産業構造の変化に伴い、ビジネス環境の不確実性も高まっていることから、今後は業界より個別企業への注目がより高まっていくことが予想される。
4-2-3.外国人留学生の就職活動との比較
次に、本調査の結果が中小企業へ応募した留学生に特有の傾向であるのかを検討するため、キャリタスの2024年8月発行「2025年卒 外国人留学生の就職活動に関する調査」(以下、キャリタス(2024b)とする)の第6章「就職先企業を選ぶ際に重視する点と希望する働き方」のデータを引用する。この調査では企業規模を限定せず、就職先を選ぶ際に重視する項目を留学生に聞いている。
キャリタス(2024b)の調査結果によると、留学生が就職先を選ぶ際に重視する上位4項目は、「給与・待遇が良い」(48.0%)、「将来性がある」(47.7%)、「有名企業である」(31.9%)、「大企業である」(28.6%)であった。
先述のとおり、本調査の留学生が中小企業に応募した理由として、最も多かったのは「やりたい仕事に就ける」29名(50.0%)である。一方、キャリタス(2024b)では、就職先企業を選ぶ際に重視する点の中に、仕事内容に関することは上位10項目に入っておらず、あまり重視されていないことが窺える。中小企業へ応募した理由は、留学生も日本人学生も「やりたい仕事に就ける」の割合が最も高い。近年、職種別採用を実施する企業は増えつつあるが、大企業の総合職と比較すると、仕事内容や配属先、職場で求められる役割が明確であることが、中小企業への応募動機の一つとなっている可能性が考えられる。
注:グラフ内の「勤務地が魅力的だった」について補足する。本調査はキャリタス(2022)を参考に選択肢を作成したが、「出身地・地元に本社がある」の項目は、留学生が日本国内の地域を「出身地」とすることは考えにくいため、「勤務地が魅力的だった」に変更を行った。
4-3.追加の選択肢「海外・グローバルな展開をしている会社だった」について
本調査では、中小企業に応募する理由として、海外進出や海外に拠点があることが、留学生の応募の動機付けになるかどうかを明らかにするため、キャリタス(2022)にはなかった「海外・グローバルな展開をしている会社だった」を選択肢に追加した。
その結果、「海外・グローバルな展開をしている会社だった」は28名(48.3%)が選択しており、「やりたい仕事に就ける」29名(50.0%)に次ぐ結果となった。前回調査のASIA Link(2023)においても「海外・グローバルな展開をしている会社だった」と「やりたい仕事に就ける」は17名(46%)で同率1位であった。
中小企業に応募した留学生は仕事内容と同程度に、その企業がグローバルに展開していることを重視する傾向が見られた。すでに海外進出をしている企業や、海外に拠点のある企業は、そのことをアピールすることで留学生の応募を促せる可能性がある。それだけでなく、海外展開の予定や計画があれば、それを留学生に伝えることで応募の動機付けの一つになる可能性があると考えられる。
4-4.中小企業へ応募しなかった理由
中小企業に応募したかの問いに「いいえ」と回答した28名(33.0%)に、中小企業(従業員300人未満の会社)を受けていない理由について尋ねたところ、以下の回答が得られた。
最も多かったのが、「特に理由はない」9名(32.1%)、次いで「情報が少なく企業研究が十分にできない」8名(28.6%)で、「海外で働く機会が少ない」7名(25.0%)、「発見しづらい(見つけにくい)」5名(17.9%)であった。
4-4-1.留学生と日本人学生の比較
キャリタス(2024a)の日本人学生が中小企業を受けなかった理由は、「給与・待遇がよくない」(46.7%)が最も多く、条件面に対する懸念が中心であるとキャリタス(2024a)では指摘されている。留学生の「給与・待遇がよくない」は2名(7.1%)で割合は少なく、受けなかった理由にはなっていなかった。
留学生が中小企業に応募しなかった理由は、「特に理由はない」9名(32.1%)、「情報が少なく企業研究が十分にできない」8名(28.6%)、「発見しづらい(見つけにくい)」5名(17.9%)であることから、留学生は中小企業の情報を得られにくいことが示唆された。日本人学生が中小企業に抱く条件面の懸念とは異なる傾向である。ただし、キャリタス(2024a)の日本人学生からも、中小企業を「知るきっかけが限られる」「情報が少ない」という声が上がっており、留学生特有の課題であるとは言えないだろう。
次に「海外で働く機会が少ない」は、留学生は25.0%、日本人学生は8.5%で、16.5ポイント差があった。マイナビ(2024)「2025年卒大学生就職意識調査」では、日本人学生の海外勤務志向について調査しており、「海外勤務をしたくない」が60.0%を占めていた。日本人学生が内向き志向であるのに対し、留学生は海外で働ける機会に着目しており、海外勤務に対して意欲的な傾向が見られた。
4-4-2.前回調査との比較
今回、中小企業に応募しなかった理由として、最も多く選択された「特に理由はない」(32.1%)は、前回調査のASIA Link(2023)では回答者が0名(0%)であった。大企業や中堅企業で内定が得られたため、中小企業に目を向けずとも、就職活動を進められたのではないかと推察される。2024年の方がより売り手市場であることが窺える。
4-5.中小企業が留学生にアピールする方法について
中小企業がさらに留学生に応募を促すためにどうすればいいと思うかを自由記述で尋ねたところ、84名より回答が得られた。回答内容を大別すると、「情報の提供機会を増やすこと(説明会など)」「多言語対応すること(日本語への配慮)」「待遇面の向上」「グローバルな環境にすること」「キャリアパスに関すること」に多くの意見が寄せられた。以下に一部抜粋して記載する。
自由記述による留学生の回答
・留学生として応募したい企業が多くあったが、こちらの企業ってそもそも留学生を採用したいのかなという不安で応募しないことがありました。留学生の採用実績のなさそう企業だと応募することを躊躇することがあります。応募条件とかに留学生ならこんな日本語レベルが必要とか、留学生の募集を考えた条件を書き入れると留学生として応募しやすいと思います。もちろん、留学生の就活イベントに参加することでたくさんの留学生に出会えるのでそれもすごく効果的だと思います。(スペイン・文系)
・英語で面接を行うことをすれば、留学生にアピールと思います。(マレーシア・理系)
・固定観念を覆すことが大事だと思います。例えば、中国では中小企業、大手企業と公務員の待遇には非常に大きな格差があります。中国人のなかには「中小はダメだ」という先入観があるかもしれません。中小といっても、自分の強みを活かして、安定して働けることをアピールできればいいと思います。(中国・文系)
・国内展開だけではなく、グローバル展開を目指すと目標を立てて留学生が働ける環境を作ります。(インドネシア・文系)
・日本の中小企業は留学生に対して明確なキャリアパスを提示することで、魅力を高められます。成長機会や昇進のプロセス、将来的な役割について透明性を持たせ、長期的なキャリア形成をサポートする姿勢をアピールしたほうがいいと思います。(中国・理系)
5.まとめ
本調査において、留学生が中小企業に応募した理由は、「やりたい仕事に就ける」と「会社の雰囲気がよい」が上位にきており、日本人学生と応募の動機付けが共通していることが明らかになった。文化的背景は異なっていても、中小企業に応募する際、学生の動機付けとなっているのは、自分にフィットした「仕事内容」と「組織文化・人間関係」であると言えるだろう。特に仕事内容については、大企業の総合職と比較した際に、職種や求められている役割が明確であることが、中小企業への応募の有力な動機付けになるのだと考えられる。自由記述では「キャリアパスを示してほしい」という回答が複数あった。職種や仕事内容に加えて、彼らのキャリアパス、彼らに期待していることを言語化することが企業側に求められている。留学生の採用を検討している企業は、仕事内容をよりくわしく説明し、社内の雰囲気をオープンに伝える必要がある。
次に、留学生と日本人学生を比較して差が最も大きかったのは「将来性がある」で、留学生の方がより企業の将来性を重視する傾向が見られた。中小企業が彼らにアピールするためには、経営者自らが企業の将来性やビジョンについて、わかりやすく伝える必要があるだろう。
加えて、留学生にとっては、その企業が海外展開しているかどうかも、応募の動機付けとなることがわかった。中小企業は海外展開の情報を得られない留学生もいるため、海外に拠点のある企業、海外との取引が盛んな企業、今後海外展開の予定がある企業は、そこをアピールすることで留学生の応募を増やせる可能性が示唆された。自由記述の回答には「グローバルな視点」「社内のグローバル化」「社内の多様性を見せてほしい」という意見もあった。先輩の外国人社員の働く様子や海外拠点における取り組みなどを具体的に伝えることで、より留学生に訴求できるのではないかと考える。
最後に、前回調査(ASIA Link,2023)の24卒の留学生と比較すると、25卒の留学生は「企業の独自の強み」に注目していることがわかった。産業構造の大きな変化やビジネス環境の不確実性が高まる中、「この業界なら盤石である」と判断することは難しくなっており、留学生は企業の独自の強みを応募する際の基準の一つにしていることが窺える。中小企業は、その企業ならではの独自の強みを広報・周知するといった情報提供の機会を増やしていくことで留学生の応募を促せると考える。
6.参考文献
・株式会社ASIA Link(2023)「24卒外国人留学生対象 中小企業への応募に関する調査~仕事内容・海外展開・会社の雰囲気を重視~」
https://blog.asialink.jp/business/20231110/
・株式会社キャリタス(2022)「2023年卒 vol.10 10月1日時点の就職活動調査」
https://www.career-tasu.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/10/202210gakuseichosa_kakuho.pdf
・株式会社キャリタス(2024a)「2025年卒 vol.10 10月1日時点の就職活動調査」
https://www.career-tasu.co.jp/wp/wp-content/uploads/2024/10/gakuseichosa_kakuho_202410.pdf
・株式会社キャリタス(2024b)「2025年卒 外国人留学生の就職活動に関する調査」
https://www.career-tasu.co.jp/wp/wp-content/uploads/2024/08/gaikokujinryugakusei_202408.pdf
・出入国在留管理庁(2023)「令和4年における留学生の日本企業等への就職状況について」
https://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/10_00013.html
・株式会社マイナビ(2024)「マイナビ2025年卒大学生 Uターン・地元就職に関する調査」
https://www.mynavi.jp/news/2024/05/post_43425.html
・株式会社マイナビ(2024)「2025年卒大学生就職意識調査」
https://career-research.mynavi.jp/wp-content/uploads/2024/04/3daefb4ab144d4c7c373e0d31eb7fa70.pdf
文責
株式会社ASIA Link
https://www.asialink.jp/
info@asialink.jp