25卒外国人留学生の内定承諾の決め手は? 1社内定 vs 複数内定者の決断に隠された違いとは? アンケート調査

1.はじめに

近年の新卒採用は売り手市場であることが指摘されている。日本人学生が内定を辞退した企業数は平均3.4社(パーソル総合研究所,2024)である。また、日本経済新聞の2025年度の採用状況調査によれば、主要企業の62.2%が予定した人数を採用できなかったという。企業が内定を出しても、入社にまでつながらないケースが数多くあることが推察される。

採用活動の長期化は企業にとっても負担が大きい。一社の内定が出た段階で内定承諾をする留学生もいれば、複数社の内定を得て比較検討をしてその後も応募を続ける留学生もいる。一社内定で承諾をする留学生と複数内定を得て選びたい留学生は何が違うのだろうか。企業側はいくつもの企業を天秤にかける留学生を追うより、内定承諾をして入社する可能性の高い学生にアプローチしたほうが、採用活動のコストを低減することができるのではないだろうか。

本調査では、一社の内定が出た段階で就職活動をやめた留学生と複数内定を得ている留学生が企業選びで何を重視しているのかに着目したい。この二者の違いを明らかにして、一社で内定承諾する留学生の特徴と彼らへのアプローチ方法が提案できればと思う。留学生採用を行っている企業や留学生採用を検討している企業の一助になればと考える。

2.調査概要

・調査期間:2024年9月8日~2024年10月1日

・調査機関(調査主体):株式会社ASIA Link

・調査対象:2025年3月卒業予定の外国人留学生

・サンプリング:ASIA Linkに登録している2025年3月卒業予定の外国人留学生696名及び教職員を通じてアンケートに協力してくれた留学生

・有効回答数:86名

・調査方法:Web上のアンケートフォームのリンクをメール送信

3.調査対象者の属性

 ・専攻分類:文系 41名、理系 45名

・地域・出身国:東アジア 50名(中国 33名、台湾 9名、韓国 6名、香港 2名)、東南アジア 18名(マレーシア 8名、インドネシア 5名、ベトナム 3名、タイ 1名、ミャンマー 1名)、南アジア 11名(バングラデシュ 4名、インド 3名、ネパール 3名、パキスタン 1名)、欧州 4名(フランス 1名、ウクライナ 1名、スペイン 1名、ドイツ 1名)、南米1名(ブラジル 1名)、中東 1名(イラン 1名)

・最終学歴:大学(学士)55名、大学院(修士課程)23名、大学院(博士課程)3名、高等専門学校5名

 4.留学生の内定状況

25卒の外国人留学生(以下留学生)を対象に内定に関するアンケート調査を行った。

留学生に内定があるかどうかを尋ねたところ、86名より回答が得られた。一社内定が39名(45%)、複数内定が16名(19%)、内定なしが31名(36%)で、一社内定が最も多い。一社内定39名(45%)のうち、34名(87.2%)が内定承諾をしており、内定不承諾は5名(12.8%)だった。

 5.一社内定で内定承諾する留学生と複数内定の留学生が企業選びで重視している点

 一社で内定を得た39名と複数社で内定を得た16名に企業選びで重視している点について尋ねた。複数選択を可とした。選択肢は、キャリタス(2023)の「外国人留学生の就職活動状況に関する調査」の就職先企業を選ぶ際に重視する点と希望する働き方を参考にして作成した。

ASIA Link(2024)内定者が企業選びで重視したポイント

一社内定者の上位三項目は「希望の職種」30名(62.5%)、「希望の業界」29名(60.4%)、「自分の能力を活かせる仕事」27名(56.3%)であった。自分の能力を生かせる仕事(職種)が企業選びの軸になっていることが窺える。

複数内定者の上位三項目(同率を含む)は、「希望の業界」12名(75.0%)、「将来性がある」10名(62.5%)、「希望の勤務地で働ける」8名(50.0%)、「給与・待遇が良い」8名(50.0%)であった。「希望の業界」を重視している点は一社内定者と共通している。違いは「希望の勤務地で働ける」と「給与・待遇が良い」といった条件面を重視している点である。

次に一社内定者と複数内定者でポイント差が大きかった項目を見ていく。

最も差が大きかったのは、「希望の職種」で一社内定者が62.5%、複数内定者が31.3%、31.2ポイント差があった。一社内定者は職種(仕事内容)を重視しており、複数内定者は職種に重きを置いていないことがわかる。

次いで差が大きかったのは、「規模の大きい(大手)企業である」で、一社内定者は10.4%、複数内定者は37.5%、27.1ポイント差があった。複数内定者は大企業であるかどうかを見ており、勤務地や給与・待遇面の希望条件に適うのが大企業であったとも考えられる。

三番目に差が大きかったのは、「自分の能力を活かせる仕事」で、一社内定者は56.3%、複数内定者は31.3%、25.0ポイント差があった。一社内定者は自分自身の能力が希望の業界と職種において活かせるかどうかが判断基準の一つとなっていることがわかる。一方、複数内定者は職種や自分の能力を活かせるかどうかより、「希望の業界」(75.0%)と「将来性がある」(62.5%)を重視していることから、企業の事業内容により着目していることがわかる。

6.内定一社で内定承諾をして就職活動を終了した理由

一社の内定で内定承諾をして就職活動を終了した理由を自由記述で尋ねたところ、28名より回答が得られた。最も多かったのが第一志望の企業だったから、次いで内定承諾期限や学業との両立などの時間的な制約から内定承諾をしたといった回答が見られた。

自由記述の回答を一部抜粋して以下に記載する。

・自分の就職活動の軸に合っているからです。この会社で成長して、貢献したいという強い気持ちがあります。(ベトナム・文系)

・これ以上、自分の希望に合う企業はないと感じたため(韓国・理系)

・その会社よりも望ましいオファーが承諾期間内に来ることはなさそうと分かったからです。(ブラジル・理系)

・就活と修論作成が重なっていたので、両立することが難しかったです。(中国・文系)

7.まとめ

 一社の内定で内定承諾をして就職活動を終了した留学生は、第一志望の企業で、かつ自分に合っていると感じられたことが内定承諾の決め手になったようである。おそらく、彼らが企業選びで重視している点「希望の職種」「希望の業界」「自分の能力を活かせる」という点を満たせていたのではないだろうか。一方で複数の企業から内定を得ている留学生は、将来性のある業界で、福利厚生の充実した大手企業を志向する傾向が見られた。条件面から企業を選び、比較するため、結果的に複数内定が出るまで就職活動を続けることにつながっていることが推察される。

企業はよりよい労働条件、より大きな規模の企業を求めて複数内定を取る留学生を深追いするよりも、自身の専門性や強みにフィットした仕事ができる企業を選ぼうとする留学生を取りこぼさないよう注力していくことが肝要である。そのような留学生に訴求するためには、彼らが重視する「自分の能力を活かせること」(専門性や語学力など)が入社後の業務でどのように活かせるのかを具体的に説明する必要がある。そのような働きかけによって、内定承諾と入社後の職場定着につながっていくのではないだろうか。

参考文献

・キャリタスリサーチ(2023)「2024年卒 外国人留学生の就職活動状況に関する調査」
https://www.career-tasu.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/08/gaikokujinryugakusei_202308.pdf

・日本経済新聞(2024)「充足率とは 採用計画、未達は6割超」2024年10月23日https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC2223P0S4A021C2000000/
(参照 2024年11月19日)

・パーソル総合研究所(2024)「新卒者の内定辞退に関する定量調査」
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/assets/decline-a-job-offer.pdf

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