留学生が就職内定を取るまでの3つの成長段階【ASIA Linkレポート】

1.はじめに

私たちASIA Linkは、外国人留学生と日本企業をマッチングする人材紹介・就職支援の仕事をしています。日々留学生と面談を行い、留学生の企業での選考過程に伴走する中で、留学生が就職活動というプロセスを通じて変化していく様子、成長していく様子を目の当たりにしてきました。

就職活動をスタートさせた留学生たちは、最初はうまくいかず、一次面接で落ち続けます。
そうするうちに、次第に、二次面接まで進むようになります。
そして最後は内定を取ります。
私たちは、彼らの就職活動を観察し続ける中で、ここにはどうやら成長の段階があるようだ、と感じるようになりました。そして、内定を得た留学生の様々なケースを分析した結果、3つの成長段階を見い出しました。

留学生は、どのような段階を経て成長し、内定を取るのか。
今回のレポートでは、このメカニズムを提示してみたいと思います。

2.「自分視点」と「企業視点」

今回の分析では、「自分視点」と「企業視点」にフォーカスをしました。

<図1>

留学生が就職活動を始めるときに考えるのは、「大学で勉強したことを活かしたい」とか、「語学を活かしてグローバルに活躍したい」など様々です。留学生がこのような自分の希望をスタート地点として就職活動を始めるのは、就職活動へのモチベーションにもつながる大切な姿勢です。
ただ、このスタート地点は、「自分視点」つまり、自分にとっての利益・メリットです。図1に青い字で示したのは、私たちが留学生と就職相談をする中で出てくる代表的な自分視点です。

一方、留学生を採用する企業側には「企業視点」があります。つまり、企業が留学生を採用することによって得られる、利益・メリットです。留学生を採用する企業の代表的な企業視点は、図1に赤い字で示した4点です。

就職活動をする留学生が自分視点だけにとどまっている場合、企業側は「この留学生はたぶん活躍できるだろう」とは思うかもしれませんが、自社で活躍するイメージはまだぼんやりとしています。この状態で採用に踏み切るのは、企業にとってリスクです。「たぶん」ではなく「きっと活躍できるだろう」という状態に進むためには、よりはっきりとしたイメージ、つまり「解像度」を上げることが必要です。

そして、この「解像度」を上げていくためには、留学生自身が「自分視点」と「企業視点」について考え、両者の接点・重なりを見い出していく必要があります。これができるようになった留学生が内定を取っていくことが、私たちの観察と分析結果から見えてきました。それでは、内定に至る留学生は、なぜこれができるようになるのでしょうか。

3.「問いと思考」のプロセス

留学生が、どのように「自分視点」と「企業視点」を考えていくのかを検証するために、留学生の就職活動のプロセスを観察しました(図2)。

<図2>

留学生は就職活動の中で、企業について調べ、エントリーシート(ES)に志望動機を書き、面接練習を行い、面接を受けます。落ちると、なぜ落ちたかを考え、他の企業を受けていきます。
このプロセスの中で、留学生はこのようなことを考えるようになります。
「私が働きたいのはなぜこの仕事なのか?なぜこの企業なのか?」
「企業が私を採用するメリットは何だろうか?」
「私は何のために、だれのために働きたいのだろうか?」

このように、就職活動のプロセスの中で、「問いと思考」を繰り返していくうちに、留学生の自分視点と企業視点が近づいていく様子がわかりました。
そして、この成長プロセスには、3つの段階があることが見えてきました。

4.3つの成長段階モデル

<図3>

図3は、3つの段階をモデル化したものです。
左側は第一段階から第三段階までの留学生の変化を示しており、右側は、それにともなって、面接をする企業側の、留学生に対する解像度が上がっていく様子を示しています。

最初の【第一段階】は、あいまいな自分視点のみの段階です。
就職活動を始めたばかりの留学生が、最初から自分視点を明確にして、強い就活軸を持ってスタートするということはあまりありません。そのため、自分視点はまだあいまいです。
企業視点については、まだ知らない・考えていない・思い至っていないことが多く、とりあえず「A社」の製品が好き、「B社」は母国に拠点があるから将来戻れるかもしれない、「C社」は海外営業の募集だから海外出張に行けそうだ、という段階です。自分視点と企業視点には距離があり、まだお互いが遠い存在です。面接に進んだとしても、企業側としてはこの留学生が自社で活躍するイメージはわかず、解像度が低いため採用には動きません。

次の【第二段階】は、「自分視点」「企業視点」が明確化し、接点ができる段階です。
第一段階ではあいまいだった自分視点が、就職活動の中でだんだん明確になっていきます。一方、企業にも「企業視点」がある、ということに気づき、考えるようになります。
そうすると、自分視点と企業視点に接点があるかどうか、考えようとする思考が生まれます。自分視点が企業視点に近づいていくイメージです。
ここで接点ができると、企業側の解像度も上がり、内定に近づきます。

最後の【第三段階】は、自分視点と企業視点が重なり「自分事」になる段階です。
企業視点の一部は自分視点に取り込まれ、自分のメリット「=」企業のメリットであるという、「自分事」として考える視点が生まれます。
企業側から見た「解像度」も鮮明になり、ここまでくると高い角度で内定が決まります。

この第一段階から第三段階を、具体的な例にあてはめて以下に詳しく説明します。

5.事例で見る3つの成長段階


<図4>

図4の第一段階は、あいまいな自分視点のみの段階です。
たとえば、この留学生は、「中国語を活かして働きたい」という出発点にまだとどまっています。
この段階で面接を受けるとどうなるのか、あるキッチンメーカーでの例を見てみましょう。

この留学生は面接で、「中国語を活かして、御社で活躍したい」と伝えました。
このような留学生に対して、企業側はこのように考えます。
「中国語を使って何がしたいのか?なぜうちの会社でなければならないのか?」
この段階では、「企業視点」がなく、「自分視点」もまだあいまいです。「自分視点」と「企業視点」の接点を考える気づきもまだ生まれていません。企業にとっては、自社で活躍できる人材としての解像度が低く、採用には至りません。

<図5>

図5の第二段階は、「自分視点」「企業視点」が明確化し、接点ができる段階です。
この留学生は、問いと思考を繰り返す中で、「日本の良い製品を母国に広げたい」という自分視点の一つを自覚するようになりました。そして、企業についても、「自社製品を海外に広げてほしい、その役割を留学生に期待している」という視点を持つ企業が多くあることに気づきました。こういう企業で働きたい、という接点ができたのが、この段階です。

留学生は、面接でこのように話しました。
「中国語を活かして海外営業として活躍したい。御社の製品は技術も高くデザイン性も高い。そういう良い製品を母国に広げたい」
これを聞いた企業は、このように考えます。
「うちの製品と海外事業展開について興味・意欲がありそうだ。この人ならうちの製品を中国に広げてくれるかもしれない」
ただ一方で、企業はまだこのような懸念を持っています。
「ただ、キッチンのメーカーでなくてもその仕事はできるのではないか?」

内定まではもう一歩。
企業の背中を押す要素がもう一つ必要です。

<図6>

図6の第三段階は、「自分視点」と「企業視点」が重なり「自分事」になる段階です。
第二段階までの、問いと思考を留学生が繰り返す中で、一部の留学生が第二段階を超えていくのを、私たちは観察と分析から見い出しました。
さきほどの留学生を例に見てみましょう。この留学生と最終面接の練習をしていたとき、留学生は、中国で求められるキッチンとは何だろうか、と真剣に考え始めていました。自分の地元は餃子文化だから、日本のキッチンだと餃子をゆでる大きな鍋が置けないとか、ほかの地域の食文化も調べる必要がある、という感じです。

その思考を経て、最終面接でこのように言いました。
「母国にシステムキッチンを売っていきたいのだが、日本と同じものが中国で売れるだろうか?と自分で考えてみた。地元の中国北部は餃子文化なので、広い作業台と大きな鍋が置けるコンロが必要。売り先の食文化によって、製品に工夫が必要だと思う。そこも考えられる営業になりたい。」
企業側は、このように考えました。
「うちのメンバーになったかのような視点で、うちの会社のビジネスについて自分の頭で考えてくれている。もちろん、まだアイデアも甘いし粗削りだが、「自分事」として問いを立て考える思考を持っている。」

私たちはこの段階を「第三段階」と名付けることにしました。
この段階の留学生は、製品やサービス、海外展開等について、自分事として自分の頭で問いを立てて考えています。面接対策のためにひねり出しているのではなく、自分が考えたくて考えているというのが重要なポイントです。企業側としては、自社の経済活動にコミットしていける人材として一気に解像度が上がります。
そしてこのような留学生は、入社後も活躍していく人が多いと、私たちは感じています。

6.まとめと今後の課題

今回のレポートでは、留学生の就職活動のプロセスを観察・分析した結果、以下の3点を見い出すことができました。

1.「自分視点」は就職活動のスタートとしてとても大切である。しかし、「自分視点」だけでは就職活動は進まない。
2.留学生は企業との面接を重ねながら、「自分視点」と「企業視点」を明確化し、その距離を縮めていく。このプロセスには3つの成長段階が見い出せる。
3.この成長を後押しするのは、就職活動のプロセスの中で問いと思考を繰り返す経験学習である。

一方で、今後の課題も浮き彫りになりました。
この3つの成長段階は、留学生に限らず日本人学生にも共通すると考えられます。今後はさらに、留学生特有の因子があるのかを明らかにし、留学生の就職支援・採用支援への有効な示唆を見い出していきたいと考えています。

(文責:株式会社ASIA Link 小野朋江)