1.はじめに
「教職員のための外国人留学生就職支援研修会」とは、外国人留学生の日本での就職を支援するために、「教員」「キャリアセンター等の学校職員」「元留学生を雇用している企業」「日本で働く元留学生」「就職支援企業」の5者の情報や知見の共有を目的としたものです。2017年11月に第1回を開催し、今回で9回目を迎えました。
前回(2025年7月)は、「留学生のキャリアデザイン 就職後の元留学生のキャリアヒストリーを聞く」というテーマで日本で働く元留学生をゲストに迎え、当事者側の視点で外国人社員のキャリアについて考えました。今回は、引き続き「キャリア」をテーマに据え、雇用文化・キャリア観の国による違いをふまえた就職支援に焦点をあてました。専門家によるキーノートスピーチ、元留学生のパネルディスカッション、参加者全員によるワークショップ等、4時間にわたり学び合いました。
以下、当日の内容をレポートとしてまとめました。
留学生の就職支援の一助となりましたら幸いです。
【実施概要】
日時:2026年7月11日(土)13:30~17:30
会場:国士舘大学世田谷キャンパス、ZOOM(ハイブリッド開催)
テーマ:雇用文化・キャリア観の国による違いをふまえた就職支援とは
主催:株式会社ASIA Link
【参加者】
合計98名
・会場出席者 36名 ※うち4名は現役留学生・元留学生ゲスト
・ZOOM出席者 62名
参加者の職種の内訳(現役留学生・元留学生ゲストを除く 94名)
・教員 48名
・学校職員 33名
・その他(公的機関、教育系企業、フリーランス等) 13名
参加者の所属機関内訳(現役留学生・元留学生ゲストを除く 94名)
・大学 42名
・専門学校 5名
・日本語学校 34名
・その他(公的機関、教育系企業、フリーランス等) 13名
2.プログラム
(1)在留資格セミナー 13:35-14:00
「留学生を取り巻く就労系在留資格の最新情報 ~技人国の厳格化のポイントを中心に~」
(担当:行政書士 廣瀨 さやか)
(2)キーノートスピーチ① 14:00-14:25
「留学生はなぜ日本企業の面接に違和感を抱くのか?~日本の雇用文化・キャリア観の特徴から見えるもの~」
(担当:ASIA Link 小野 朋江)
(3)キーノートスピーチ② 14:25-15:10
「様々なキャリア観を持つ留学生: 異なる雇用文化間での共有メンタルモデルの形成とブリッジングの重要性」
(担当:法政大学 経営学部経営学科 准教授 戎谷 梓)
(4)パネルディスカッション 15:25-16:15
「現役留学生・元留学生が語る、母国と日本の雇用文化・キャリア観」
パネリスト:就職活動を経験した現役留学生/元留学生
(ファシリテーター:奈良先端科学技術大学院大学 教育推進機構キャリア支援部門 特命助教 白石 寛子)
(5)ワークショップ 16:15-17:25
会場参加者全員(留学生・教職員)によるグループディスカッション
(ファシリテーター:ASIA Link 相馬 幸恵)
(6)振り返りとまとめ 17:25-17:30
(担当:ASIA Link 小野 朋江)
(7)交流会、名刺交換会(自由参加) 17:30-18:00
3.在留資格セミナー
「留学生を取り巻く就労系在留資格の最新情報 ~技人国の厳格化のポイントを中心に~」
(行政書士 廣瀨 さやか)

今年の研修会では、7年ぶりに在留資格の最新情報のレクチャーを冒頭で行いました。入管法改正と連動して、留学生に関わる在留資格にも様々な変化が出ています。最新情報が知りたいという声も現場からあがっていたため、行政書士の廣瀨さやかさんを講師に迎え、以下の4点をお話しいただきました。
・留学生の就職に関する主な在留資格
・「技術・人文知識・国際業務」の要件
・入管の最近の審査傾向
・入管に関する最新情報
★在留資格セミナーに対するご感想(アンケートより)
・在留資格別の違いや注意点を理解できた。
・複雑化し始めている外国人就労の区分やルールについて、わかりやすくまとめられていた。学生に話すときの参考になった。
・留学生を取り巻く就労系在留資格の最新情報や、技人国の厳格化のポイントについて詳しく解説いただき、大変参考になった。
4.キーノートスピーチ①
「留学生はなぜ日本企業の面接に違和感を抱くのか?~日本の雇用文化・キャリア観の特徴から見えるもの~」
(ASIA Link 小野 朋江)

最初のキーノートスピーチでは、なぜ今回「雇用文化・キャリア観の国による違い」を扱おうと思ったのか、この問題意識についてお話ししました。
留学生の就職支援を行う中で、「違和感」のようなものを感じたことはないでしょうか。この「違和感」とは、私たち支援者だけでなく、就職活動を行う留学生、そして企業も感じているであろう「違和感」です。
このキーノートスピーチでは、以前から気になっていたこの「違和感」を因数分解し、この背景になにがあるのだろう、この違和感はどこから来るのだろうということを、考えてみました。
以下に、当日お話ししたキーノートスピーチ①の内容をレポートします。

まず、この「違和感」について、二つの側面から例をあげて共有していきます。
面接で志望理由を話すときの違和感、そして長期的なキャリアを考えることの難しさに関する違和感です。

「志望理由」から見ていきましょう。
ここでは、仕事(職種)に対する志望理由と、企業に対する志望理由に分けて考えます。
まずは、仕事(職種)に対する志望理由にみられる違和感を4点ピックアップしてみました。
一つ目は、自分の成長・スキル習得を強調することです。
例えば、IT企業を志望する文系留学生によくあるのが、「自分はIT知識はないけれど会社が新人研修をしてくれると聞いた。研修でプログラミング言語をしっかり身に着けて、ITエンジニアとして成長したい。」という志望理由です。これを聞いて企業が感じるのは、「うちは学校ではない」「自分の成長のためだけ?」「あなたを育てるために会社が存在しているのではない」という違和感です。
そして、これを留学生に指摘すると、留学生も「なぜ成長意欲を見せるのがいけないのか?」と違和感を感じます。
二つ目は、「英語が得意だから海外営業をやりたい」という、これもよくある志望理由で、不合格になる典型的なケースです。
これを聞いた企業は、「あなたは英語を使いたいだけでは?」「仕事への意欲はないの?」と思うわけです。
そして、これを留学生に指摘すると、留学生も「自分の強みを仕事で生かしたいと考えるのは当然では?」と違和感を感じます。
三つ目は、私が留学生との面談の際、「営業をやりたい」と言う留学生に「営業でどんな製品を売っていきたいですか?」と聞くと、驚いた様子で「どんな製品でもいいです。業界や商材にこだわりはありません。」という答えがしばしば返ってきます。私としては、「え?売りたいものもないのに営業?」と違和感を感じるときがあります。
理系留学生が「機械設計をやりたい」と言う場合も、「どんなものを設計したいですか?」と聞くと、「ネジでも、機械でも、ロボットでも。こだわっていません。」と。
企業からすると、やはり「これを売りたい」「これを作りたい」という気持ちを聞きたいわけです。留学生に「なんでもいい」と言われてしまうと、違和感を感じるのです。
四つ目は、「母国でプロジェクトマネージャーとして3年間の経験がある。日本でも母国の経験を生かせるプロジェクトマネージャーを希望している。」といった、「いきなりマネージャー」系の志望理由です。
企業からすると、「うちの業界知識も商材知識も顧客知識もないのに、いきなりマネージャー?」と驚いてしまうようなズレが生じることがあります。
さて、二つ目の「英語が得意だから海外営業をやりたい」という志望理由は留学生に非常に多く、とくに就職活動がうまくいっていない留学生と面接練習をする際によく聞かれる志望理由です。
この志望理由がなぜだめなのか、その根拠・背景を説明するために、ASIA Linkで最近よく使っている資料をシェアしたいと思います。

「あなたがレストランの社長だったら、どちらを採用しますか?」という質問です。
面接にAさんとBさんが来ました。
Aさんはこう言いました。
「私は包丁がとても上手に使えます。だから料理人になりたいです。」
Bさんはこう言いました。
「私は自分の作った料理で、たくさんの人を笑顔にしたいです。包丁の使い方は今がんばって練習しています。」
ちなみに、今日会場にいらっしゃる方々にお聞きします。
Aさんを採用したいという方、いらっしゃいますか?
(誰も手をあげず)
留学生の就活セミナーで参加者に同じ質問をすると、Aさんを採用するか、Bさんを採用するか、見解が半々に分かれることがあります。
留学生に意見を聞くと、「Aさんは今日すぐに仕事を始めることができる」「Bさんは料理人になりたいなら先に包丁の練習をしておくべきだ」といった意見も出たりします。

留学生には、日本だったらBさんが合格すると思いますよ、と伝えた上で、この料理人の話を就職活動に置き換えて説明します。
面接でも同じような場面がありますね。
面接官「あなたは当社に入社して、何の仕事をやりたいですか?」
留学生「CADが使えるから設計をやりたいです!」
非常に多い答えですが、これはさきほどの料理人Aさんと同じ答えですね。

こちらも同様の例です。
面接官「あなたは当社に入社して、何の仕事をやりたいですか?」
留学生「英語が使えるから海外営業をやりたいです!」
やはりAさんと同じスタイルです。
なぜこの答えは、日本企業の新卒採用の面接官には、響かないのでしょうか。

「英語が使えるから海外営業をやりたい」と言ってしまうと、「じゃあ英語が使えなかったら海外営業はやらないんですか?その程度のモチベーションなんですね。」と企業は感じるわけです。
だから順番を逆にしましょう、と私は留学生によく言います。
「私は海外営業がやりたい。だから英語を学ぶ。」
企業からすると、新卒を採用するときには、入社をゴールにしてもらっては困るわけです。入社後にどのくらい伸びていくかが重要だからです。「やりたい」という意欲がある人は、そのために学び成長していく、と企業は考えます。
企業が「志望理由」で見ているのは、「何ができるか」よりも「何をやりたいか」である。
これを就活セミナーで説明すると、留学生からは一定の納得感はもらえるように感じています。

「私は〇〇ができます」よりも、「私は〇〇がやりたいです」。これを声を大にして言おう。
留学生には、これを伝えています。

もう一つの「志望理由」は、企業に対する志望理由です。
これはさらに難しいと思います。
よくあるのが、どの企業にも使える志望理由になってしまっているものですね。これは、企業ごとに変える必要がある、つまり個別性が必要であると説明しています。
そして、志望理由の中で、自己の特性・人間性の開示をしていく必要があるということです。「この人と一緒に働きたい」「この人に仲間に入ってほしい」と企業に思わせる志望理由が必要なのですが、これを留学生に腹落ちしてもらう形で説明するのは、簡単ではありません。
そして、上記の2点を総合したようなものが3点目なのですが、自分と企業との何らかの関連性を示すことが必要なのだ、という話を、留学生によくします。「接点の提示」と私たちは名付けています。難易度は高いですが、ここは本質的で重要なポイントです。

この「接点の提示」とはどういうことか、留学生にはこのような資料を使って説明しています。
面接の場面です。
留学生「海外営業として、御社の製品を世界に広げていきたいです!」
留学生は意欲を伝えたつもりですが、面接官には響いていません。なぜなら、「なぜあなたが?なぜうちの会社の製品を?」ということが、留学生から語られていないからです。

これは、留学生が考えている自分視点と、企業が考えている企業視点の間に接点がないため、企業にとっては自社のために言っている言葉とは捉えられないからです。
つまり、自分視点と企業視点の接点を作っていかなければならない。その接点を志望理由で語らなければならない。これを留学生に伝えています。

この接点がなぜ重要かというと、「意欲」というのは非常にあいまいな存在で、どんなに「がんばります」とか「やりたいです」と伝えても、聞き手にとってはそれが自分と関係がない場合、「意欲」とは感じないわけです。つまり、候補者と企業に接点がない場合、企業は候補者に対して「この人は意欲がある」とは感じない。これが、意欲を伝えることの難しさだと思います。
(どうすれば「接点」が生まれるのか、については、2022年の教職員研修会でテーマとして取り上げました。興味がある方はその回のレポートをぜひご参照ください)

2点目の「違和感」に話を進めます。
長期的なキャリア展望についてです。
就職活動のとき、面接官から「将来の目標や計画はありますか」「5年後10年後のキャリアプランをどう考えていますか」といった質問がくることがあります。
このときの答えでよくあるのが、その企業や日本社会とリンクしない、自己成長に特化した主張を展開してしまうことです。例えば、「ITスキルを身に着けたあとは、クライアントのコンサルにも挑戦したいと考えていて、将来的には海外プロジェクトにも携わりたい」といった、企業不在の展望を語ってしまったりします。
これを聞いた企業は、「会社を利用して成長したいだけ?」「踏み台にされる?」と感じてしまいます。
また、留学生との面談で「日本で何年くらい働きたいですか」と聞くと、「先のことは決められない。まずは3年やってみて、そのあとのことはその時にまた考えたい」という答えが返ってくることがあります。私が留学生に「それだと企業はあなたをトレーニングしただけで終わってしまうから、あなたを採用するリスクはとれないと思う」と伝えると、留学生からは次のような言葉が返ってきたりします。「じゃあこう言えばいいですか?3年後にリーダー、5年後にマネージャーをめざします」と。面接用に、何の根拠もない架空の展開を作るのです。
企業からすると、長期的な将来像を持てない人を育てていくのは難しい、と感じるわけです。
また、就職後も、この違和感・ズレが生じてくることがあります。
就職している元留学生から、「いまの企業にいても自身のキャリア展望が見えない。自分がどうなっていくのか、どう成長していけるのかが不透明である」という相談を受けることがあります。例えば総合職採用でジョブローテーション制度がある企業の場合、元留学生から「自分は何のプロになっていくんだろう」という不安の声が届いてきたりします。
また、メーカー等でよくある例ですが、「もう2年設計をやって習得したから、早く次のステップにいきたい」といった外国人社員に対して、違和感・ズレを感じる企業は多いです。企業側からすると、「この2年はまだ基礎固めの時期ですよ」「まだあれもこれも一人ではできないのに、自分の実力を過信しているのでは?」「やはり外国人は下積みの辛抱ができないのだろうか」と感じるわけです。

ここまで、留学生、企業、そして私たち支援者が感じる違和感について考えてきました。
なぜ日本の就職活動では、意欲を伝えたり、自己の特性を開示する必要があるのでしょうか?
これは留学生も知りたい点だと思います。
この背景を考える一つの視点として、日本の新卒一括採用の雇用文化・キャリア観があると思います。

日本は世界的にみても、新卒一括採用が特徴的な国であると言われていますよね。一体どのような成り立ちで、今の日本の雇用文化ができあがったのか。
そこには、1955年に始まった生産性向上運動といういわば国民運動があり、これが現在に続く日本の雇用文化を形作ったと言われています。
この運動は、戦後の痛んでしまった国民の生活水準を上げていくために、企業の雇用の拡大と維持を目的としていました。たくさんの正社員を雇用すること、そしてその雇用を維持するために解雇しないこと、これが雇用主・労働者双方の思いであったわけです。好景気のときは長時間労働で乗り切り、不景気のときは配置転換等を行い雇用を守る。今ではネガティブに捉えられる日本企業の長時間労働や、強固な人事権によって行われる配置転換・転勤等の背景には、このような歴史がありました。
また、終身雇用についても、生涯の生活保障という観点から定年制度と退職金までがトータルで設計され、企業に正社員として雇用されれば一生食べていけるという道が形成されました。
さらに、高度経済成長が進む中で多くの労働者を確保するため、新卒一括採用が非常に有効だったことから、新卒一括採用の文化も根付いていったのです。
こうして日本の雇用制度の土台が形成され、全労働者の中で企業に雇用される労働者の占める割合は、1955年の4割から、現在の9割以上にまで増加しました。

こちらのリクルートワークス研究所の調査でも、日本が新卒一括採用の国であることを裏付けるようなデータが発表されています。
大学・大学院卒業後すぐに就職した人の割合は、日本が突出して高い78.9%です。正社員比率も高く、93.2%は正社員として就職しています。
一方、卒業前から就職していた人の割合を見ると、日本は4.9%しかいませんが、ここに示されている欧米の国を見ると、卒業前から就職していた人が一定数います。私たちが面談する母国大学卒業の留学生でも、このようなケースは時々あります。学業と並行して働いていて、卒業時には即戦力に近いレベルに仕上がっているようなケースです。この調査レポートでも、日本はまっさらな学生が4月1日にいきなり正社員になる、新卒一括採用を特徴とする国だと言えると考察されていました。

この、日本の新卒一括採用を一つの視点として、私たちが留学生に日本企業の雇用の考え方を説明するときの資料を共有したいと思います。
私たちは、これを一つの根拠として、なぜ企業に意欲や個人の特性を伝えなければならないのかを、留学生に説明しています。
日本企業は、新卒を採用して育てます。入社後に教育・訓練を行い、企業に貢献できる人材へ成長してもらうため、大きな「投資」をしています。

当然ながら、企業は投資を回収できる学生を採用したいと考えます。
投資を回収できる学生とはどんな学生かというと、まずその企業が求める入社時の能力水準を持っていること(①)、そして高い成長角度を持っていること(②)、そして定着(③)です。成長角度が高いほど、企業に貢献できるステップまで早く到達できますし、定着するほど投資は多く回収できます。

では、この3点を企業はどのように判断するのでしょうか。
まず採用時の能力(①)は、成績証明書や日本語能力試験など、ある程度客観的に判断しやすいです。
一方、成長角度(②)と定着(③)は未来のことなので、予測はとても難しいです。
では、日本企業はなにを根拠に成長角度と定着を判断しようとするのかというと、「学生の意欲」と「学生の個人特性(性格・価値観・考え方・行動特性・興味関心など)」です。
つまり企業は、その学生の意欲と個人特性から、「成長していけそうか」「定着していけそうか」「自社にフィットするだろうか」などの不確実性の高い未来を判断しようとしている。留学生には、このように伝えています。

ここまでの話で、日本の新卒採用は学生の意欲と個人特性を重視しており、留学生が日本の就職活動で違和感を感じやすい一つの要素にもなっていることが見えてきたかと思います。
では、このような雇用文化・キャリア観の「違い」がある中で、互いの違和感をどのように乗り越えていけばいいのでしょうか。
世界的にみても少し特殊な雇用文化・キャリア観を持つ日本において、私たちは留学生の就職支援にどう向き合えばいいのでしょうか。
ここからは、次のキーノートスピーチの戎谷梓さんにおつなぎしたいと思います。
★キーノートスピーチ①に対するご感想(アンケートより)
・日本は独特の就活だが、留学生が何に違和感を抱いているのか理解でき、今後の就活指導に役立つと感じた。
・留学生の母国と日本との違いがよくわかった。どちらがいいということではなく、事実として考え方や価値観に差異があるので、その差を埋め合わせること、そもそも違いがあるということを伝えながら就職に向けて準備していくことが大切なのだと勉強になった。
・「あるある」の事例がたくさんあり、その理由についてあらためて考えることができた。今後の授業に生かしたいと思う。
5.キーノートスピーチ②
「様々なキャリア観を持つ留学生: 異なる雇用文化間での共有メンタルモデルの形成とブリッジングの重要性」
(法政大学 経営学部経営学科 准教授 戎谷 梓)

戎谷梓さんからは、まずはじめに留学生の採用・定着の課題として、企業と留学生双方の考え方や認識のミスマッチは、必ずしも語学力やコミュニケーション能力の問題ではなく他に根本要因があるのではないか、という前提が示されました。
その上で、本発表のねらいとして、以下の3点が提示されました。
・根本的な要因の一つとして、仕事やキャリアに対する認識枠組みの違い、つまり「メンタルモデル」の違いがあること。
・留学生のキャリア支援を、「共有メンタルモデル」の形成の観点から考えてみること。
・教職員やキャリア支援担当者の役割を、「ブリッジング」という概念から考察してみること。
まず、今回の発表の重要なキーワードである「メンタルモデル」について、以下の定義が示されました。
「人が現実を理解し行動する際に用いる認知的枠組み:過去の経験や教育、所属する社会や組織の文化を通じて「仕事とは」「組織とは」「望ましいキャリアとは」などの理解を形成」
つまり、人はそれぞれが自分の認知的枠組み(メンタルモデル)を持っており、例えば「仕事はみんなで協力して行うべきだ」「組織の中では先輩や上司に敬意を払うのが当然だ」「一つの会社で長く働くのは良いことだ」というような価値観を持っているわけです。
このメンタルモデルは個々人のものではありますが、もう少し大きな単位として「留学生」として一定の共通するメンタルモデルがあったり、「日本企業」にも一定の共通するメンタルモデルがあると捉えることもできます。
この「メンタルモデル」を通して見た、日本企業側と留学生側の違いについて、戎谷さんからは以下の例が説明されました。
■日本企業と留学生のメンタルモデルの違い
<日本企業側>
・長期雇用システム:新卒一括採用 / ジョブローテーション
→企業は採用時点で特定の職務能力や専門性を厳密に評価せず、将来的な成長の可能性や組織への適応力を重視
→個人は複数の部署を経験して幅広い知識やスキルを身につけ、長期的にキャリアを形成
※キャリアは個人の主体的な設計ではなく組織との関わりの中で徐々に形成される
<留学生側>
・職務基準の雇用システム:明確なジョブディスクリプション
→企業は応募者が職務遂行に必要な知識や経験を有しているかに関して評価し、即戦力として活用
→個人は高等教育を通して習得した専門知識や技能に基づいて就職活動を行い、入社当初から自身の専門性にフィットした職種に就き、専門性を高めながらキャリアを発展
※キャリアは組織への帰属によってではなく、個人の専門性や職業的成長を軸として主体的に構築される
では、この両者のメンタルモデルの違いは解消できないのかというと、そうではないというのが、今回の戎谷さんの発表の主眼です。
「メンタルモデル」の概念は1940年代に最初に発表されて以降研究が進められ、1990年代になると、コミュニケーションや相互作用によってメンタルモデルを共有していくことができるのではないか、という研究が現れたそうです(共有メンタルモデル)。そして2000年代には、共有メンタルモデルがチームの協働やパフォーマンス向上に寄与するという研究が数値としても実証されるようになったとのこと。
日本企業と留学生の間のメンタルモデルの違いも、この「共有メンタルモデル」を形成していくことが相互理解と協働への糸口になり得るのではないか、というのが戎谷さんの今回の提案です。
しかしここで問題となるのは、だれが、どうやってこの両者の「共有メンタルモデル」を作っていくのか、ということです。
ここで、戎谷さんが提案する「橋渡し役」ともいえる存在が「ブリッジ人材」です。
「ブリッジ人材」とは、組織間や集団間の境界を越えた知識移転や協働の文脈で発展してきた研究だそうです。ブリッジという言葉のとおり、異なる文化や組織を理解しながら相互理解を促進する、まさに「橋渡し」の役割です。
「共有メンタルモデル」と「ブリッジ人材」という、もともと異なる領域から生まれた研究成果を組み合わせて、日本企業と留学生の間の橋渡し(ブリッジング)ができないか。戎谷さんからは、そのアプローチの提案が以下のように示されました。
■日本企業と留学生の間のブリッジング
留学生側に目を向けた場合
<従来のアプローチ>
・日本企業への適応が主な目的
→履歴書やエントリーシートの書き方指導、面接練習、ビジネスマナーや日本企業特有のコミュニケーション作法の指導
※留学生が日本の採用プロセスを理解し、円滑に就職活動を進めるためには不可欠だが、留学生からの一方向的な適応を促すにとどまっている
<これからのアプローチ>
・企業との相互理解を目指す
→日本企業が志望動機や企業への共感を重視するのは、長期雇用を前提とした組織への適応や関係構築を重視しているため
※日本企業がなぜ特定の履歴書の書き方を求めるのか、なぜ面接で特定の受け答えや振る舞いを高く評価するのか、などの背景を理解
企業側に目を向けた場合
<従来のアプローチ>
・日本企業の雇用・労働慣行を理解するための情報収集や研究活動が主な目的
→日本の経営のグッドプラクティスについて調べ、留学生がそれに可能な限り合わせていくことを正解とみなす傾向
※個人レベルで日本の労働慣行を好む留学生にとっては効果的だが、それ以外のタレントを逃すリスクもあり、日本企業にとって必ずしもベネフィットとならない
<これからのアプローチ>
・日本企業が強みを活かしながら内なるグローバル化を実現させる上で貢献
→集団主義的・官僚主義的慣行だからこそ生み出せる団結力や質の高さを担保しつつ、留学生に既存のスキルを活用できるよう働きかける
※日本企業が特異性を保持したまま名実ともにグローバル化し、さらに国内外から優秀な人材を取り込みながら国際的競争力を高めるプロセスの一端を担う

最後に、日本企業と留学生の間のブリッジ人材が必要であるとしたら、誰がブリッジ人材になれるのか?というお話がありました。
何らかの形で「ブリッジング」をするという意味においては、誰でもブリッジ人材になり得るという前提が話されたあと、とはいえ一人の力では限界があり、これをいかに「組織化」するかが大事であるとして、以下のような提言がありました。
今日の研修会に集まっている教職員の方々は、組織的にブリッジングを行いやすい環境や文脈にいると思います。大学のような教育機関やASIA Linkのようなエージェント企業は、物理的にも留学生と企業双方に働きかけができるわけで、その立場を大いに活用した働きかけを、ぜひ組織として行っていただきたいと思います。同じ組織の中でも、ある教員は留学生にアクセスしやすい、ある教員は企業にアクセスしやすい立場だとしたら、それぞれがアクセスした結果を自分たちの組織に持ち帰り、そこでまた新たな「共有メンタルモデル」が形成される。それを繰り返すことで組織的にブリッジングを行っていくことができるのではないかと思います。
そして留学生支援は、今までのやり方ではなく、新しいフェーズに入っていく時期に来ているのではないかと思います。
留学生に対して、日本に来てくれてありがとう、これからは日本のやり方に合わせてね、ではなく、彼らのやり方にも目を向け、取り入れるべきものは取り入れていこうという双方向の考え方です。
留学生を就職させて、3年くらい定着しているのを見届けて、よかったね、で終わるというよりは、異なる雇用文化やキャリア観を結び付けるブリッジングをずっと続けていくような営みが、留学生支援かなと思います。
これが良いマッチングの実現にもつながり、このようなマッチングの実現が留学生の定着にも寄与するのではないか、そのように思います。
★キーノートスピーチ②に対するご感想(アンケートより)
・ブリッジ人材についての詳しい説明や理論を聞いたのは初めだったが、本当に支援に役立つと思った。留学生にとって必要な考え方だと思う。
・留学生の採用・定着の背景にある「前提認識の違い」に着目する視点が印象に残った。真のマッチングには、企業と留学生の双方が歩み寄り、相互理解を深めることが欠かせないと改めて感じた。大学職員として、一方的に日本のルールへの適応を求める支援にとどまらず、双方の価値観や考え方を理解し、橋渡しをする「ブリッジング」の視点を意識しながら支援に取り組んでいきたいと思う。
・共有メンタルモデルの形成は、非常に興味深かった。日々感じていることが理論化された感じがした。
6.パネルディスカッション
「現役留学生・元留学生が語る、母国と日本の雇用文化・キャリア観」
【パネリスト】※お名前は仮称、()内は出身国
*Aさん(中国)東京外国語大学大学院卒 / HAL東京 2027年卒業予定
*Bさん(ベトナム)国際大学大学院卒 2024年卒業
*Cさん(バングラデシュ)ものつくり大学 2026年卒業
*Dさん(バングラデシュ)立命館アジア太平洋大学 2023年卒業
ファシリテーター:奈良先端科学技術大学院大学 教育推進機構キャリア支援部門 特命助教 白石 寛子
今回の研修会では、日本の大学・大学院を卒業して日本で働いている元留学生、そして就職活動ですでに内定を得ている現役留学生、計4名の方々に、パネリストとしてご参加いただきました。
当日は、ファシリテーターの白石さんから、パネリストの方々に質問を投げかけていきました。以下に要旨をまとめます。

【1】母国での就職活動とは?
白石:4名のパネリストのみなさんは、全員日本での就職活動を経験されていますが、日本での就職活動と母国での就職活動は、やはり違うのでしょうか。私たち教職員は海外の就職活動について知る機会がなかなかないので、みなさんの母国での新卒での就職活動がどういうものか、ご紹介いただけますか。
Dさん(バングラデシュ):私は母国大学卒ではないので母国の友人から聞いた話ですが、就職活動のタイムラインはあまり決まっていないようです。そろそろ卒業だから就活を始めようかとか、軽い感じで。卒業後就職するまでにブランクがある人も多いと思います。
Cさん(バングラデシュ):母国の学生たちは、卒業したあとでちょっと休んだり遊んだりして、そのあと就活を始める人が多いです。これが日本との大きな違いかなと思います。私は日本の大学にいたので、3年生のときにまわりで就活が始まって、「ちょっと早くない?」と感じました。
Bさん(ベトナム):ベトナムでは大学在籍中から仕事への意識が高く、早い人は1~2年生からインターンシップに行きます。就職活動の時期は一人一人バラバラで、日本のようにみんなが決まったスケジュールで一斉に動くことはありません。
また、ベトナムの企業は新卒学生に対してであっても、すぐに会社に貢献できるスキルがあるかをチェックするんです。日本企業が人物像とか将来性があるかをチェックするのとは、スタイルが違うかなと思います。
白石:日本では、就職活動の一環としての短いインターンシップが一般的ですが、ベトナムのインターンシップは違うのでしょうか?
Bさん(ベトナム):はい、違います。私は日本のインターンシップに2社参加したことがありますが、それぞれ一週間ずつでとても短いと感じました。ベトナムのインターンシップは、何か月、何年という期間、本気で働いてもらうというイメージです。

Aさん(中国):私が中国の大学の学部(日本語専攻)を卒業したのは10年前になりますので、あくまで当時の私の経験でお話しします。当時、大学4年生の始めから就職活動が始まり、大学側もそのようにスケジュールを組んでいました。1~3年の間にすべての単位を取得し、4年生の1年間はほぼ授業はなく、各々が留学や就職の準備に集中するというスタイルでした。
大学卒業後、私は日本の大学院に留学し、大学院を卒業後の2021年に中国へ戻って就職活動を行いました。教員の求人に応募し、面接を受けて内定をもらいました。
白石:中国の新卒採用は、ポテンシャルよりも経験やスキルを重視すると聞いたことがあります。それについていかがでしょうか。
Aさん(中国):さきほどの戎谷先生のお話にあったように、中国と日本ではメンタルモデルがそもそも違うのではないかと思います。やはり能力主義、実力主義ですかね。2021年に中国で教員の求人に応募した際も、エントリーシート(自分の経歴やスキル)を提出し、面接の場で模擬授業をして、筆記試験を受けて、それで終わりでした。「なぜ先生になりますか」「これから何年間働きますか」「うちでどのようなことを成し遂げたいですか」そのようなことは一切聞かれませんでした。にもかかわらず2社で内定を得ました。やはり雇用文化が違うと感じます。今日の他のパネリストの方のお話を聞いても、日本以外は即戦力を求めているのではないかと思います。

【2】日本の就職活動で、一番ギャップを感じたこととは?
白石:みなさんが日本で就職活動を経験してみて、一番ギャップを感じたこと、違和感を感じたことは何でしょうか?
Bさん(ベトナム):日本の会社が見ているポイントについてですね。人物像とか将来性とかは、判断するのに時間がかかるじゃないですか。そのため、日本の会社の選考プロセスは長く感じました。ベトナムでは、長くても1か月、早い会社だと1週間~2週間で終了します。スキルの確認が中心なので、そんなに時間がかからないと思います。日本の就職活動は時間がかかるので、早く準備を始める必要があり、卒論や研究で忙しい時期と重なります。卒論に集中していた友人は就活が遅くなり、困っていました。
Cさん(バングラデシュ):大きなギャップとしては、インターンシップでした。バングラデシュのインターンシップは大学卒業後に行く形です。私は日本の大学2年生のとき、必修で40日間のインターンシップがあったのですが、母国の友人から「もう大学を卒業したの?」と不思議がられました。日本の会社では、就職してから最初の6か月くらい研修があると思いますが、バングラデシュではインターンシップとしてまずお給料をもらわずに半年とか1年働いて仕事を学びます。仕事を学んでから就職する、そんな感じです。
日本の就職活動で私が感じたのは、日本企業はこの人がどんな人かで評価するということです。大学で何を学んだのか、大学以外でどんな活動をしたのか、自己PR、自分の強みと弱み、将来何をしたいのか。バングラデシュの企業は、この人は大学で何を学んだのか、何ができるのか、それで評価すると思います。
Dさん(バングラデシュ):日本の就職活動では、趣味とか家族の話も面接で聞かれて、びっくりしました。バングラデシュだと考えられないというか、面接で家族の話なんか聞いてどうするの?という感覚です。日本企業では、人としてどうなのかが大事なので、それを考えれば、まあわかりますね。
Aさん(中国):スキル重視であることやスケジュールなど、みなさんと同じ意見です。あと、自分としてすごくギャップを感じたのは、「なぜうちの会社ですか」という質問です。これは当時、よくわかりませんでした。自分の当時の考え方としては、働く上で自分の能力を発揮できる場所と待遇を求めることは当然ではないかと考えていました。ただ、いろいろな人から話を聞く中で、日本企業は現在の能力よりも将来どのように成長していくのかを見ており、そもそも自分の認識と日本企業の認識が違うことに気づき始めました。そこで自分の考え方の方向転換をしました。

【3】日本の就職活動の面接やエントリーシートで、違和感を感じた「質問」はありましたか?
白石:小野さんのキーノートスピーチにもありましたが、志望動機や5年後10年後のキャリアなどについての質問に、違和感を感じる留学生もいると思います。ご自身の就職活動で、違和感を感じた質問はありましたか?
Dさん(バングラデシュ):志望動機ですが、まだ会社で働いたこともない学生にとって、例えば選考を受けているこの2社の違いを話すというようなことは難しかったです。想像力不足というか。
Cさん(バングラデシュ):私も志望動機についてですが、私は自動車業界に興味があって企業を受けていたのですが、「なぜ<〇〇自動車>を志望しますか」という質問に答えるのが難しかったです。根拠を持って答えられないというか。キャリアセンターの先生に相談したら、日本企業はストーリーを持って話さないと伝わらないという指摘があって。そこの難しさを感じました。
また、5年後10年後にどうなりたいかという質問に対しては、自分がこうなりたいという希望だけではなく、企業にどう貢献していけるかもあわせて考えないといけなかったな、と思います。
Bさん(ベトナム):志望動機では、企業と自分をどうつなげるか、自分が企業にどう貢献できるかを話さなければならなかったので、時には嘘というか、創作をしないといけなかったこともありました。自分がそうしたいというよりも、面接のために「接点」を見せる必要があるため、あとから接点を考えて話すようなことがありました。

【4】就職活動で違和感やギャップを感じる中で、このようなサポートが役にたった、というものはありましたか?
Aさん(中国):私の経歴はレアなので、就職活動を始めてまもなく、一人では日本での就職活動をうまく進められないと自覚するようになりました。その時のサポートで役に立ったのが、学校の就職支援室の先生と、ASIA Linkの存在です。就職支援室の先生は親身になって話を聞いてくれましたし、ASIA Linkの就活セミナーでは面接官の質問の意図などを学ぶことができました。面接官の質問の意図がわかっていないと、的外れな返答をしてしまうことに気づきました。
Dさん(バングラデシュ):大学3年生の時に就職活動を始めたときは、日本に住みたい、どんな仕事でもいい、早く内定がほしい、という考えでした。ただその時、大学のキャリアセンターの白石さんからのアドバイスで、就職活動のスケジュールや自己分析のことなどを知りました。就活を進める中で、自己分析が足りずに最終面接で落ちてしまったことがあって、その時にまた白石さんの言っていたことを思い出したりしました。失敗したときに思い出せるという意味でも、最初に学んでおいたのは役に立ったと思います。
Cさん(バングラデシュ):大学のキャリアセンターの先生とエントリーシートについて相談したとき、5年後どうなっていたいかという質問に、「仕事を学んで成長してプロになっていきたい」と答えました。すると先生から「会社にどういう貢献がしたいですか」と聞かれて、どう言ったらいいのか考えて、相談して。その後、実際の面接でも同じ質問が出て、「仕事を任されるような人材になっていきたい」と答えました。
Bさん(ベトナム):大学のキャリアセンターでは、就職活動のスケジュールだけでなく、なぜこのように動く必要があるのか、まで説明してくれたので、実際に動き出す前に理解しておけたのはやりやすかったなと思います。あとは志望理由についても、企業が求めていることと自分が持っていることがつながるように、一緒にストーリーを作っていただいたのがありがたかったです。
白石:ありがとうございます。みなさんのお話を聞いていると、役に立った支援には大きく二つのベクトルがあるように思います。一つは就活のスケジュールや自己分析方法といったテクニカルなことも含む情報提供、そしてもう一つは気持ちに寄り添って親身に話を聞き、留学生の気持ち・考えをうまく言語化することを支援するようなサポートですね。

【5】Bさん・Cさん・Dさんは、元留学生としてすでに日本で働き始めていますね。就職活動を今振り返ってみて、あの時は違和感があったけれど、今思うと納得できる、といったことはありますか?
Dさん(バングラデシュ):私はいま人材会社で働いているので、日本企業のどのような問題を解決していくのかを理解するようにしています。だからこういうことが大事なのか、といったことがわかるようになってきています。そもそも私が就職活動中に質問に答えられなかったのに、今私が候補者(求職者)のサポートをしているので、勉強になっていますし、以前よりわかるようになっていると思います。
Cさん(バングラデシュ):日本企業はやはりチームワークを重視しているので、自分はどんな人の役に立っているか、というのを気にするようになったかなと思います。成長は一人でするのではなく、チームとして、会社として成長していくのだ、ということを意識するようにしています。
Bさん(ベトナム):私もちょうど人事部にいるので、人を採用することも担当しています。自分が就活をしていたときは、選考プロセスが長いと思いましたが、自分が採用する側になると、時間をかけてしっかり見ないと、わからないなと思っています。実際に入社していただいていもギャップがあったり、違ったということもあるので。
白石:パネリストのみなさん、貴重なお話をありがとうございました。感謝の気持ちをこめて、みなさんに拍手をお願いいたします。
★パネルディスカッションに対するご感想(アンケートより)
・現役留学生、元留学生の皆さんの見識と表現力に感銘を受けた。母国ではどのような就活スタイルなのか、そこから育まれた価値観はどのようなものかを、留学生・支援者双方が意識しておくことが大切だと思った。
・やはり経験談というのは貴重なものだと感じる。留学生のリアルを知ることができた。
・現役留学生、元留学生の生の声を通して、異なる雇用文化の中で彼らが何に戸惑い、どのようなキャリア観をもって就職活動に臨んでいるのかを具体的に知ることができた。統計データや制度の説明だけでは見えにくい、当事者ならではの葛藤や思いを深く理解できたことは、大変有意義だった。
7.ワークショップ
ファシリテーター:ASIA Link 相馬 幸恵
ワークショップでは、会場参加者全員によるグループディスカッションを行いました。
各テーブル4~5名で、教職員7チームと留学生チーム(留学生チームには行政書士の廣瀨さんと法政大学の戎谷さんもオブザーバー参加)で話し合いました。

ワークショップのファシリテーターはASIA Linkの相馬が務めました。

まずはここまでの振り返りとして、留学生の雇用文化や価値観に対する気づき、自分はこう解釈したなどについて、自由に話し合っていただきました。

続いて、以下のトークテーマで、各グループの話し合いが行われました。
■教職員チーム
日本企業・日本社会と留学生を橋渡しする役割として、自分にできることとは?
■留学生チーム
あなたの周りに、橋渡しする役割の人はいますか?またはいましたか?それはどのような人ですか?





最後に意見の共有タイムです。グループごとに発表していただいた内容を箇条書きで簡単にご紹介します。
教職員チーム①

・会社と労働者を繋げたり、現場と繋げる役割を担えるのではないかという意見が出た。
・(会社に所属する立場の場合)外国籍のロールモデルや企業内での先輩のようなブリッジ人材が橋渡しする役割を担えるのではないか。
・(留学生にとって)キャリアプランが見えない、会社側がどのような人材を求めているのか言語化ができないという問題を、我々支援者側が介入して支援することができるのではないか。
・留学生の話をよく聴き、どう思っているのか引き出してあげることも必要なのかと考えた。

教職員チーム②

・肩書やポジションに関わらず、両方を知っていこう、知って繋いでいきたいという意識を持つ人を、(所属部門に関わらず)少しずつでもいいので増やしていくこと。また、海外の就職状況、正しい情報を発信していくこと。
・なぜ?を大事にして支援をすること。ガクチカや自己PRなどあるが、なぜするのかを支援者も理解しないといけない。そうしないと当事者に伝わらないし、当事者も理解しないと行動に繋がらない。「理解」がキーワードかと思う。

教職員チーム③

(支援対象の想定:日本語能力N4が取れるか取れないかくらいの留学生 / 中堅中小、外国人をこれから採用したいと考える企業)
・橋渡しをする際の大事なマインドの面から話をしたい。企業・留学生どちらにしても親身に対応する。親身とは一方的に話すのではなく、傾聴する。なぜそれを行うのかということを伝え、しっかり向き合うマインドを持つことが重要。その上でマインドを持ちながら何ができるかを話した。
<留学生に対して>適切な情報提供。日本語を教える立場の場合、日本語を教えるだけではなく、この言葉はこういう場面で使えるのだという背景も一緒に教えられるかもしれない。
<企業に対して>留学生の現状を伝え、企業がどういうふうに対応すればいいのか。例:やさしい日本語を教える、メンターを配置など。
これらを通じて、最終的に本人が納得感を持って行動できることがゴール。

教職員チーム④

・我々の「橋渡しができる」というのは、ガイドするということだという意見が出た。何をガイドするかとういうと、パネルディスカッションでも話があったが、留学生は母国とのギャップ、日本の就職活動のルール、暗黙知、スケジュールを初めて知って驚くことが多い。寄り添って丁寧に教えることが大事だという話がでた。また教えて終わりではなく、それを踏まえて企業研究、ESが出来ているかもフォローが必要。
・もし自分が海外で就職すると考えた場合に、自分ならできるか?学業や卒業することに意識が向き、就職活動まで手が回らない、ということにはならないか?と想像し、相手の気持ちも考えながら寄り添うのが大事。

教職員チーム⑤

<留学生へのアプローチ>
・橋渡しする役割は、同じ国の先輩もなりえると思う。そのほうがすんなりと話を聴いてくれるのではないか。
・橋渡しのタイミングは、留学生の就職活動が(日本人と比べ)遅れがちであることを踏まえ、2年次から初年度キャリア教育、3年次に再度と、学年別に分けて考えていくのが良いのではないか。
・やり方も、就職ガイダンスに集まってくださいという形ではなく、留学生が集まっているところに(支援者側が)出向いていくのも良いと思う。
・AI翻訳で言語の壁を低くするのも効果的か。
<企業へのアプローチ>
・そもそも日本の総合職採用は、仕事内容も勤務地も会社が決めるという状況。これで手を挙げる人がいる方が不思議。違和感は日本人も含めて持っているが、日本人学生は言わない。留学生は声を上げてくれているのかもしれない。日本人っぽい留学生を採用する、というところから、留学生の良さを感じて採用していただけるように、企業へのアプローチもしていきたい。
<全体として>
・「留学生」とひとくくりにしても一人一人異なる。それぞれに向き合って橋渡ししていくことが必要。

教職員チーム⑥

・教職員・大学が中心になり、社会、留学生、学内、企業、それぞれを橋渡しして、なおかつ全体が繋がり、循環していければと思う。
・留学生の支援としては、日本に来た時から色々なギャップを感じると思うので、就活段階で急に驚くことがないように、色々なことを1年生のうちから伝えられると良い。日本人の「和を以て貴しとなす」という精神が、なかなか外国の方にはすぐに理解されない。日本人には無意識に身についているので、外国の方の行動が分からないこともある。無意識なことを自覚し、「こういうところが分かりづらいんだね」と双方理解していけると良い。
・キャリア支援者同士のネットワークとして、留学生に協力しようとする機関や企業や個人とつながって、ネットワークを作ることも重要。
・学内に関しては先生方とも協力し、〇〇さんが困っている、といった留学生の情報を共有して連携を取る。
・企業に対しても、留学生はこういう特徴があります、ということを一言添えるだけでも留学生がいやすい環境ができると思う。情報提供していく。
・社会に対しては調査やエビデンスを持って発表していくことで、文科省、厚生労働省、経産省に気づいてもらえるよう発信も必要。
・これらを回して連携を続け、ブラッシュアップしていくのがいいのではという結論になった。

教職員チーム⑦

・ブリッジは大きくわけて二つ。一つは学内・学外両方に関わるブリッジ(企業や外部の支援会社と学生を繋ぐサポートややり取り、企業を留学生へ広報する等)、もう一つは学内ブリッジ。私たちは後者の学内ブリッジをメインに話し合った。
・学内ブリッジについては、まず教職員と留学生のブリッジがある。ふだんから留学生に関わっている教職員は抵抗やステレオタイプはないのだが、慣れていない教職員はステレオタイプを持っていたり、関わりたいけれどどうすればいいか分からない状況。このような教職員に対し、FD・SD研修を行うとか、各部署から1~2名ずつ集まってもらって留学生について学ぶ機会を設けるといった案が出た。
・大きなセミナーも良いが、普段のちょっとしたアドバイスもブリッジになる。この情報発信だと留学生には伝わらないですよとか、この伝え方がいいんじゃないかとか。留学生と関わっている人だからこそ伝えられることがあるのではないか。
・もう一つは、ブリッジ人材を育てること。留学生ではなくローカル学生(日本人学生等もともと日本にいる学生)で、留学生を支援したい学生への教育もできるのでは。これは学生同士のブリッジでもありつつ、彼らは卒業後社会に出るので、社会とのブリッジになりえる。
・留学生がどんどん増えている大学もある。ここで大事なのは大学の方針。方針がしっかりしていないと、どこに向かっていけばいいのかわからない。留学生を入れたあと、その後どうするのかの道筋が必要。この方針がしっかりしていると、私たちもブリッジングがやりやすい。

各グループ、大学教職員、日本語教師、フリーランスの方々など様々なバックグラウンドを持つ方がおり、多種多様な切り口で意見が出ました。
最後に、留学生チームが発表しました。
留学生チーム

・どのように助けてくれる人がいて、どのような結果になったのかをまとめた。
<学生時代のブリッジ人材>
・学生時代に助けてくれた、身近なところにいるブリッジ人材としてあがったのは、先生、指導教官、バイト先の友達、所属している学校の就職支援センターなど。具体的なサポート内容は、合説などの就職イベントの紹介、就職活動の対策(スケジュール、マナー、面接対策等)、コミュニティ参加(就活仲間ができたり、就活に伴走してくれたりして孤独感が解消し、やる気が向上)、そして相談に乗ってくれること。就活の不安、人生の不安など解消できたという声が上がった。
<職場にいるブリッジ人材>
・職場にいるブリッジ人材としては、人事部、そして海外経験のある先輩・同僚・上司だったかなと思う。具体的なサポートとしては、イベントの紹介(社内の大きなイベントを教えてくれたり、普段のランチに誘ってくれたり)、「空気の翻訳」(飲み会とかで日本人の冗談がわからないときに「こういうことだよ」と説明してくれたり)、そして「同じ扱い」をすること。同じ扱いというのは、例えば飲み会とかで外国人社員が話に入れないとき、「〇〇さんはどう思いますか」と話をふってくれたり。こうした結果、日本の働き方に慣れていくことができるし、疎外感を感じなくなり、メンタル的にとても助かると思う。
・最後にAI。今後ブリッジとして使えるかもしれない。感情の部分はどうかわからないが、普段の職場には使えるかなと思う。

相馬:最後の「空気の翻訳」という言葉がキーワードとして心に残りました。みなさん、ワークショップへのご協力ありがとうございました!
★ワークショップに対するご感想(アンケートより)
・同業の方と留学生キャリアについて深く議論する機会はとても貴重だった。
・(Zoom参加)留学生チームのグループディスカッションをとても楽しく拝見。「空気の翻訳」「同じ扱い」という言葉がとても記憶に残っている。
・留学生村と同じくらい学校村から出ない教職員を、この場に参加している我々は引っぱり出していかねばならないという話も!
ワークショップ後に、名刺交換会を実施しました。たくさんの出会いがありました。

★教職員研修会全体に対するご感想(アンケートより)
・今回の学びを踏まえ、今後は留学生一人ひとりの背景や価値観にも目を向けながら、より実効性の高い就職支援や具体的なアドバイスにつなげていきたいと思います。
・私は日本語学校に勤めており、大半は進学のため、就職のサポートをすることは多くないのですが、留学生の方々の価値観の違いや、日本企業、就職文化での違和感のお話を聞いて、進学でも共通するところがあると感じました。
・「留学生はなぜ日本企業の面接に違和感を抱くのか?」は重要なテーマだと感じます。企業側視点で見直すことに興味を持ちます。
・今年で3回目の参加となりますが、毎回異なるテーマでとても勉強になります。自分も留学生にとってBridge personになれてるか改めて身にしみました。とても有意義な時間でした。
・アカデミックな新しい視点が毎回組みこまれていて、現場の視点とズレがない考えやひらめきが生まれて満足です。
最後までレポートをお読みいただき、ありがとうございました。
また、当日国士舘大学の会場までいらしてくださった方々、ZOOM中継にご参加いただいた方々もありがとうございました。元留学生のパネリストの方々のご協力にも感謝いたします。在留資格の最新情報を提供してくださった行政書士の廣瀨さやかさん、キーノートスピーチを担当してくださった法政大学の戎谷梓さん、パネルディスカッションのファシリテーターを務めてくださった奈良先端科学技術大学院大学の白石寛子さん、そしていつも居心地の良い会場をご準備くださる国士舘大学の横須賀柳子さんにも感謝申し上げます。
来年も7月頃の実施を予定しています。皆さまのご参加をお待ちしています!
(文責:株式会社ASIA Link)
■ASIA LinkのWEBサイトはこちらです。
■留学生の求人情報は「留なび」をご覧ください。
