2021年に厚生労働省が公開した「外国人労働者の人事・労務に役立つ3つの支援ツール」をご存知でしょうか。
外国人を雇用する企業に対して、社内での円滑なコミュニケーションや労務管理をサポートするために開発されたツールです。
やさしい日本語や異文化コミュニケーションの専門家が開発に携わっているため、実用性が高く現場ですぐに使うことができます。なにより「無料で活用できる」という点が大きな魅力です。
今回は、この3つの支援ツールの具体的な内容と、私が感じる「このツールが持つ隠れた価値」についてご紹介します。
①外国人社員と働く職場の労務管理に使えるポイント・例文集
人事担当者や現場の管理職が、外国人社員に対して労働条件や職場のルールを正しく説明できるようにまとめたガイドブックです。「なぜそのルールがあるのか」という制度の背景から説明できるため、納得感が生まれやすいです。
構成: 全9カテゴリー(採用、賃金、労働時間・休暇、異動・退職、安全衛生、ハラスメント、退職金、在留資格、働き方)+企業の好事例。
内容: 外国人社員が抱きやすい疑問(「なぜ控除されるのか」「なぜ始業前に来ないといけないのか」など)の背景を解説しつつ、実際にそのまま見せたり話したりできる「やさしい日本語」の例文や図表を掲載しています。
日本人側の気づき: 例文集には、「日本の雇用慣行」と「外国の文化や外国人の考え方の一例」が対比して記載されています。そのため、「日本の雇用慣行と外国の雇用慣行は異なる」ということを、日本人自身が気づくことができます。
活用方法:
・入社時のオリエンテーションで、 労働条件通知書や社内ルールの説明時に一緒に確認する。
・個別相談・質問への対応時、「残業について」「ハラスメントについて」など、該当ページを探して説明に使う。
<厚労省HP>外国人の方に人事・労務を説明する際にお困りではないですか?https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/koyou_roudou/koyou/jigyounushi/tagengoyougosyu.html
② 雇用管理に役立つ多言語用語集
人事・労務や社会保険で使われる専門用語(約420語)について、やさしい日本語+14言語で検索・閲覧できるツール(Web検索サイトおよびExcel版)です。
【ポイント】 単なる直訳ではなく、専門用語の定義(意味)や例文まで多言語で網羅されているのが特徴です。Excel版をダウンロードして、社内文書やマニュアルの作成にそのまま流用できる。
活用方法:
・就業規則や社内通知を作成する際、重要な用語の対訳をコピペして「自社オリジナルの多言語マニュアル」を作成する。
・ExcelファイルやWeb検索リンクを外国人社員に共有し、わからない用語があったときに自身で調べる辞書のように活用。
③ モデル就業規則 やさしい日本語版
厚生労働省が公開している標準的な「モデル就業規則」を、外国人にも伝わりやすい「やさしい日本語」に書き換えたWord形式のテンプレートです。
【ポイント】 難しい法律用語や硬い文体を避け、平易な表現・文法・ルビ(ふりがな)等を意識して作成されています。入社時の説明や同意確認にそのまま活用できます。
活用方法:
自社の就業規則の改訂・補助資料化: 自社のルールに合わせてWordファイルを修正し、「外国人社員向けの要約版・ガイドブック」として配布する。
日本人側の『視点の切り替え』
実用性と汎用性の高さの他に、私がこれらのツールが画期的だと感じる点があります。それは、ツールがもたらす効果が外国人側だけでなく、受け入れる日本人側の意識変容のきっかけになりうる点です。
過去の外国人雇用施策は、「文化背景の異なる外国人を、いかに日本の職場に適応させるか」という一方向の視点からのアプローチが中心でした。
しかし、このツールの「ポイント・例文集」では、日本人側に対して、『お互いの前提が違う』ことに気づかされ、コミュニケーションのスタートラインに立ち帰らされます。
例えば、「賃金」の項目では、日本人社員には「控除のルールを説明すれば十分」と思いがちですが、外国人社員にとっては「基本給と手当の関係が理解できない」「給与から税金などが引かれる理由がわからない」というケースが多々あることが対比して記載されています。
具体的な文化の違いを知った上で、「相手の国ではどのような制度なのか?」「どう伝えれば、文化的背景の違う相手にも理解してもらえるのだろう?」
と、日本人側が視点を切り替え、相手にとって最適なアプローチを考えられるようになります。
単なる業務効率化のツールにとどまらず、組織全体の「相互の理解」を促す点にこそ、このツールの本質的な隠れた価値があると感じています。
多様なメンバーが『ひとつのチーム』になるために
厚労省の3つの支援ツールは、大手や専門家の間では定番ですが、中小企業ではまだ「知る人ぞ知る」状態です。
「マニュアルを作る余裕がない」「専門用語をうまく言語化できない」と感じている中小企業の人事・経営者の方にとって、無料で導入できるこのツールは心強い味方になります。ぜひ現場の労務管理に役立ててみてください。
ツールによる実務のサポートは、「共に働く職場」を作るための第一歩です。
では、育った文化や背景に違いがあるメンバー同士が、ひとつのチームとして力を発揮するためには何が必要でしょうか。
それは、共通の「ルール」と、目指すべき「ミッション・ビジョン」の共有です。 その実現を支えるのが、やさしい日本語や多言語対応といった「ハード面(言葉や伝え方)」であり、さらにその根底にある、お互いの違いを前提として歩み寄ろうとする「ソフト面(お互いのマインドセット)」です。
制度やルールを整える実務的な一歩から、多様な仲間と「共に働く」職場づくりが促進されていってほしいと思います。
(記事担当:清水)
