時代が女性に追い付いてきた~「つむぐ、キャリア」のレポートを読んで~ 【人材・組織系論文レビュー、ブックレビュー】

こんにちは!ASIA Linkの小野です。

マイナビキャリアリサーチLabが、2023年11月に公開した研究レポートを読みました。内容をご紹介しながら、所感を書いてみたいと思います。

(研究レポートはこちらからダウンロードできます)
2040 近未来への提言「つむぐ、キャリア」
~転機をどのように捉え、選択過剰の時代をどう生きるのか~
https://career-research.mynavi.jp/report/20231129_58758/

この研究レポートの目的は、ますます不確実性の高まる近未来に向けて、私たちはキャリアをどのようにデザインしていくべきか、そのヒントを提示しようとするものです。

前提となっている問題意識は、「選択過剰の時代」において、自分の進む道を選択していくことの難しさ。

社会構造、産業構造、雇用システムが大きく変化していく中で、人はもはや盲目的に企業が準備したキャリアを歩んでいくことはできず、ましてや確固たる自信をもって自らのキャリアを選択することもできません。さらには、選んだ選択肢が果たして正しかったのかどうか、誰も教えてはくれません。

このような社会の背景として、このレポートでは2つの側面を説明しています。一つは働く環境の変化、もう一つはキャリア選択の多様化です。

「つむぐ、キャリア」の社会的背景

- 働く環境の変化

ここでは、働く環境の2つの変化が述べられています。

一つ目は、人口減少による労働力不足と産業構造の変化です。この変化により、労働者は労働市場で求められる仕事の種類と質への対応を迫られます。自分の仕事がAIに取って代わられるかもしれないといった職種の不確実性が増すのはもちろん、ルーティンワークからナレッジワークへの移行が求められます。人々は労働市場の動向を見据えつつ、自分自身に付加価値をつけていかないと、労働市場での競争に勝てません。

二つ目は、日本の長引く景気低迷によって引き起こされてきた、日本企業の人事制度の混迷です。すべての人が納得する人事制度を企業側が提供することは難しく、したがって、労働者側は自分が選びうる選択肢を把握し、最適な選択をしてくことが求められる、との見解がここでは述べられています。

- キャリア選択の多様化

もう一つの社会的背景は、キャリアの選択肢の多様化です。これについては、ビジネスキャリアとライフキャリアに分けて説明されています。

ビジネスキャリアについては、長引く景気低迷によるポスト不足から起こる、昇進可能性の低下と昇進の高年齢化を指摘。気づかないうちに昇進と無縁のキャリアを歩んでしまっている「静かなる分岐」があるとして、分岐の先を意識した行動を5年前から行っていくことを提案しています。

また、労働力は今後さらに市場化され、且つ定型の仕事が減っていくため、「非定型×市場化」の領域へ労働者が流入していくことを予想しています。

一方のライフキャリアについては、家族システムと生活スタイルの変化に言及。家族システムでは、共働きが増えても世帯収入は上がっていないことを指摘し、妻の非正規労働の問題や、晩婚化・晩産化・介護による親からの育児支援の消失も課題であることを指摘しています。

生活スタイルでは、育児や介護の負担が増える一方で、働き方改革による労働時間減少やテレワークによる居場所の選択肢増加といったメリットにも言及しています。

これからのキャリア論

このレポートでは、「糸」のメタファーを用いて、これからのキャリアの考え方を「つむぐ」という動詞で表現しています。過剰な選択肢と、先行きの不確実性の中では、すでに選んでしまった多くの選択肢をあとから統合する力が必要であり、これは、内省し意味づける力、文脈の中で再構築していく力とも言える、と述べています。

私自身はこの考え方に同感であり、私個人のキャリアもまさにつむぐキャリアでした。しかし、このレポートがこれを「近未来への提言」としていることに驚きを覚えました。

- 昔から女性はキャリアをつむいできた

私の感覚では、働く女性、とくに子育てをしながら働いてきた女性の多くは、とうの昔からすでに「つむぐキャリア」を実践してきていると思います。

女性の一生は不確実性の連続です。そして、この不確実性をむしろ前向きにとらえることで、自分の生きる意味を諦めることなく、人生をつむいできたと思うのです。出産や子育てで選ぶことができなかったたくさんの選択肢を前に、不本意であっても選ばざるを得なかった選択肢に対して、価値を見出し、意味づけを行う。「つむぐキャリア」は生きる術であったと思います。

私自身は、学生時代に教育者としての夢を持っていましたが、20代からあわせて4回の出産を経験し、夫の海外転勤も経験しました。家族が増える喜びや、子どもたちが成長していく喜び、夫が望むキャリアを手に入れていく喜びと引き換えに、自分の夢や仕事を失うという大きな代償を支払いました。

しかし、時間も年齢も不可逆的であり、失ったものも含めて自分が選択した結果の落とし前は自分でつけなければなりません。私がとった方法は、選んだ選択肢は一見するとバラバラに見えるけれど、実はすべてに意味があり、一本につながっているというマインドセットを行うことでした。これは、ただ「そう思う」というようなことではなく、自分がその時点で「こうありたい」と願う文脈の中で、これまでのすべての選択肢を意味付け、再構築する作業でした。

- 「意味付け」の二つの側面

私はこの「意味付け」こそが、キャリアを前に進めていく上で本質的な力だと感じています。そしてこの「意味付け」には、二つの側面があると思います。

一つ目は、様々な運命の中で、計画的な選択などしてこられなかった一見バラバラなキャリアのピースを、一枚の絵や一本のストーリーに仕上げていく力です。このプロセスを通じて、これまで自分が選択してきたピースには一つとして無駄なものはなかったと、すべては「今、ここ」に至るために一つも欠けてはならぬ経験だったと、自分のキャリアを肯定することができるのです。

そしてもう一つの側面は、すべての選択肢に内在する普遍的な意味、本質的な意味を見出す力です。たとえば、レストランのアルバイトを経て、不動産会社に営業職として就職し、その後IT企業のSE職へ転職した場合、これらの3つの仕事は本当に何の共通性もないのでしょうか。なぜこれが売れてこれが売れないのか、なぜあの客は喜んであの客は喜ばなかったのか、人は何に対してお金を払うのか、人は何を求めてここに来るのか、そして私は何のために誰のためにどのような未来のために働くのか…。

多くの物事の根底には、共通する普遍的・本質的な意味があるということに気づければ、それを一本の串のようにして、自分の選んできた選択肢を貫くことができます。そうすれば、この先に自分がどのような選択肢を選ぼうと、1本のキャリアとしてつむいでいけるのではないでしょうか。

- 人生は奇跡の連続である

私が30代のとき、同世代のある男性から、次のようなことを言われて驚いたことがありました。

「私が尊敬する人は大学の先輩の〇〇さんです。彼は、新卒で会社に入社したときに、35歳で課長、40歳で部長になるという目標を決め、本当にその通りに実現しました。人は、明確な目標と強い意志と計画性があれば、夢を実現できると思います。私もそうやって自分のキャリアを作っていきたいです。」

その時、すでに私は何度か出産を経験し、その結果2度仕事を失っていました。そして3度目のチャレンジを始めているところでした。この男性の話を聞いて私が驚いたのは、「この人は強い意志があればキャリアは計画通りにいくと思っているのだ」ということです。

私は初めて出産したとき、出産は命がけであることを思い知りました。そして、生まれてくる子どもが健康であることも奇跡であると知りました。そして子育ては少なくとも20年は続きます。その間も、人生に絶対はありません。むしろ奇跡の連続であることを思い知ったのでした。

私の3度目のチャレンジというのは、ASIA Linkの起業でした。私がもし計画通りのキャリアを歩んでいたとしたら。おそらく起業することはなかったと思います。計画通りではなかった数々の選択を意味付け、再構築した結果が、私にとってはASIA Linkの起業でした。

- 女性は「つむぐキャリア」のフロントランナー

このレポートを読んだとき、この問題提起の視座は、あのときの男性の視座と同じだと感じました。自分たちは計画通りにやってこれたけれど、これからの時代は不確実ですよ。つむぐキャリアですよ、と。

そういう意味では、女性たちはつむぐキャリアのフロントランナーです。やっと時代が追い付いてきたのかもしれません。


 

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