1.はじめに
外国人留学生の日本での就職を支援するために、「教員」「キャリアセンター等の学校職員」「就職支援企業」の3者の情報や知見をもっと共有したい。
このような目的で、2017年11月に第1回を開催した教職員研修会も、今回で3回目を迎えました。
今回は、以前から要望の多かった「留学生を雇用している企業側の話を聞きたい」という声に応え、実際に外国人社員(元留学生)を雇用している4社の企業の方々にもご参加いただきました。
上記の3者に、企業関係者を加えた4者での情報・知見の共有を行うことができ、それぞれが、それぞれの立場で感じたこと、気づいたことがあったのではないかと思います。
以下、当日の内容をレポートとしてまとめました(長いですがお付き合いください!)。
留学生の就職支援の一助となりましたら幸いです。
【実施概要】
日時:2019年6月29日(土)13:30~17:30
会場:国士舘大学 世田谷キャンパス
主催:株式会社ASIA Link
協力:国士舘大学 政経学部経済学科 教授 横須賀柳子
2.参加者の方々
教職員の方々64名が参加してくださいました。
*大学のキャリアセンター等の職員 22名
*専門学校のキャリアセンター等の職員 1名
*教員(大学) 12名
*教員(専門学校) 8名
*教員(日本語学校) 15名
*その他(フリーランス教師、その他機関所属など) 6名
ゲストスピーカー
*外国人社員(元留学生)を雇用している企業関係者 5名
参加受付(4月初旬)から1か月で50席の定員が埋まり、10席を増席して引き続き申込みを受け付けました。増席分も1週間ほどで満席となり、開催1か月以上前からキャンセル待ちの状況となりました。
参加予定の企業関係者へのご質問も事前に多く寄せられ、企業側の話を直接聞きたいという教職員の方々のニーズの高まりを感じました。
また、ちょうど今年の春からスタートした新しい在留資格「特定技能」、及び本邦大学卒業者が対象となる就労資格「特定活動」について、最新の正確な情報を知りたいという声も多く寄せられました。
3.プログラム
1.発表① 13:30〜14:00
外国人留学生に関わる就労ビザの最新ニュース
2.パネルディスカッション 14:00〜15:00
日本企業における、外国人社員(元留学生)の活躍状況と課題点等
ー休憩ー
3.ワークショップ 15:10〜17:00
テーマ「外国人留学生の就業力とは?就職力を高めるために必要なこととは?」
4.発表② 17:00〜17:30
留学生の就職指導・支援に関してのポイント
以下、発表①から順番に内容を掲載します。
4.発表① 外国人留学生に関わる就労ビザの最新ニュース
今年の4月から特定技能ビザが、さらに5月30日から本邦大卒者向けの特定活動ビザが施行され、留学から変更できる就労のためのビザが3つになるという、大きな変化の年を迎えた。
年々就労ビザ申請者、ビザ取得者ともに増加しているが、それに伴い不許可の割合も増加している。
次に2019年3月卒の留学生で不許可となった事例を提示した。
ビザが2つ新設されたことにより、それぞれの目的に合わせた「ビザの住み分け」が起こるのではないかという推測を提示した。
次に特定技能ビザの動向について
特定技能ビザの要件とポイントについて説明し、留学ビザから特定技能ビザへ変更するまでの流れをまとめた。技人国ビザとの違いはなんと言っても5年の更新制限があることと業界団体の試験に合格しなければならないこと。その試験は国内ではすでに外食と宿泊の分野で実施されており、受験者の多くが留学生であった。
外食業界の参考テキストを見ても、受験者はN4レベルではなく、N2レベル相当の国内にいる留学生を想定していることがわかる。さらに技人国ビザでのビザ取得が難しいと感じている学生は、すでに特定技能への関心を高めている。就職指導を担当する教職員は2020年卒の学生から対応が求められる。
次に特定活動ビザ(本邦大卒者向け)の説明を行った。こちらは今現在ある就職活動を延長できるビザとは別のもので、新たに就労ができるビザとして新設されたもの。どちらのビザも大卒者は要件がそろえば取得できる可能性がある。
高い日本語力を活用したコミュニケーションを伴う業務がどのようなものか、次に事例を出し説明を行った。
どの業務にも共通して言えることは、「日本人と外国人の間に立ち、両者とコミュニケーションが必要な業務」ということ。そして、日本人への接客なども同時に行ういわゆる「国際業務を含む」業務であれば要件を満たすことになる。
特定活動ビザについては、N1にすでに合格していれば、これまでの技人国ビザでの就職活動と大きな差はない。
次に新設されたビザと技人国ビザをまとめた。
また、飲食店での勤務を例に「ビザの住み分けについて」説明をおこなった。
これらのビザは、今現在就活中の学生の選択にも大きな影響を与えるのではないかと考えている。
就職指導担当者はこれらのビザの特徴を把握し、留学生にしっかりとビザの違いを理解させた上で、学生自身が選択できる状況を作っていく必要がある。
5.パネルディスカッション
「日本企業における、外国人社員(元留学生)の活躍状況と課題点等」
進行役:株式会社ASIALink 代表取締役 小野朋江
パネラー:株式会社コスモテック 代表取締役 高見澤友伸さん
パネラー:株式会社サンマリノ 人事担当者 山本芳久さん
パネラー:株式会社キーポート・ソリューションズ 代表取締役 助川充広さん
パネラー:株式会社プロントコーポレーション 取締役 鈴木浩之さん
(以下、敬称略)
教職員研修会でのはじめての試みとして、参加教職員の方々から事前にいただいた質問を、企業の方々にどんどん聞いていこうという、パネルディスカッションを行いました。
どのような企業さんにご参加いただくか、ということについては、ASIA Linkとして以下のコンセプトを大事に考えました。
*すでに外国人社員(元留学生)を雇用しており、その方々が社内で活躍している企業。
*今後も留学生採用を考えており、留学生の役割・能力に対して期待をしている企業。
*教職員の方々に対して、採用や雇用の本音の部分(きれいごとだけではなく)を正直に語ってくださる企業の方。
このような観点から、ASIA Linkでお付き合いさせていただいており、信頼している企業の方々にお声がけし、みなさん快く参加を決めてくださいました(ありがとうございます!)。
パネルディスカッションでは、ASIA Linkの小野から、以下の8つの質問を提示し、各企業の方々にお答えいただきました。
教職員の方々から、「目から鱗だった」「今までの指導を見直さなければ」との感想も出た、企業の方々の本音の回答を、ご覧ください。
質問1:簡単な事業紹介と海外へのビジネス展開状況、外国人社員の雇用状況を教えてください。
高見澤:スマートフォンなどの精密機械に使用する粘着テープなどの高性能フィルムなどを作るメーカーです。中国本土、台湾、香港にも拠点があります。東京本社の従業員40名中10名が外国人で、そのうち半分の5名が留学生からの採用です。外国人社員は海外営業、海外物流の業務を主にしています。
山本:繊維を扱うアパレル系の専門商社です。中国を中心に海外に工場があります。従業員は東京で100名、海外で170名おります。東京の100名のうち7名が外国人社員です。主に海外営業や生産管理の仕事をしています。
助川:いわゆるIT企業です。主に金融機関向けのシステムの構築、運用、メンテナンスを行っており、近年は自社オリジナルの製品も開発し販売しております。海外展開は行っていないのですが、海外のパッケージ商品を輸入販売し、そのセッティングなども行っています。採用は技術系ですので、国籍を問わず採用しております。現在100名いる従業員のうち10名が外国人です。プログラミングやシステム設計をしています。
鈴木:カフェ&バーの「PRONTO」を中心に国内に約340店舗を展開しています。サントリーグループの会社です。店舗の約7割がフランチャイズ方式で、店舗経営よりもフランチャイズのマネジメントを主におこなっております。海外店舗は、サントリーがウイスキーを販売するための拠点として上海に作り、つい最近シンガポールにも出店しました。今後はハワイにも出店する予定です。外国人採用はここ4〜5年で国籍はバラバラ。300名いる従業員のうち10名が外国人です。
質問2:外国人社員を雇用して、期待していた以上に良かった点はありましたか?もし具体的な事例もあれば教えてください。
高見澤:率直に言ってしまえば、自社の顧客は中国が多いので、中国向けのビジネスができる人であれば国籍はあまり関係ないと思っています。期待以上の活躍をする人は、与えられた役割の範囲を少し超えて仕事ができる人です(例:営業として採用した中国人社員が、中国委託工場とのやり取りも担い、業務がスムーズに進んだ)。中小企業なので、このような人がほしいです。
山本:仕事に対するモチベーションは正直に申し上げると外国人社員のほうが高いです。日本人はあまり海外に出たがらないが、外国人社員は積極的に出て行ってくれます。それと、モチベーションが高いので同期の日本人社員の底上げもされるのが、期待した以上の効果でした。
助川:コスモテックさんと似ていますが、特に国籍は関係ないと思っています。C言語(プログラミング言語)は世界共通ですので、正しくプログラムが作れることが大切。海外マーケティングなどでは利点があると思いますが、弊社はまだ行っていません。また、サンマリノさんと同様に、日本人同期のモチベーションアップには繋がっています。
鈴木:正直まだ実感はありません。強いて言えば、店舗では若い人が多く海外旅行などに行っている人が多いので、国際的な感覚が身についている人も多いです。店舗での優位性はあまりないかと思いますが、本社はガチガチの体育会系なので、外国人社員の育成に苦労している上司を見るとコミュニケーションを見直すきっかけになります。また、外国人社員をはじめ、飲食業界には将来起業したいという野心的な人も多いので、そのような人たちの良さをどのように引き出していくかが課題です。
質問3:外国人社員を雇用して、予期せぬ困った点はありましたか?外国人社員と日本人社員とのトラブル、外国人同士のトラブルなどはありますか?もし具体的な事例もあれば教えてください。
高見澤:日本人と外国人社員の軋轢はあると言えばあります。気の強い中国人に強めに言われてムッとしたりするというケースもあります。ですが、合わない人はどの国であってもいると思いますので、国籍の問題というよりは、その個人個人の問題であると思っています。
山本:私も同じ印象です。国籍を問わず合わない人は合わないです。ですが、これは意外だったのですが、見切りの早い人は外国人の方に多いなと感じています。入社してすぐに「ここは自分の希望と合わない」と感じると、1~2ヶ月で辞めてしまう外国人もいます。
助川:お二方と同様に私も国籍を問わず合わない人は合わないという考えです。初めて外国人を受け入れる時には「すぐに辞めてしまうんじゃないか」という声もありましたが、日本人社員も辞める時はすぐに辞めてしまいます。また、会話がうまくできないという声もありますが、慣れの問題だと思っています。日本人でもうまくコミュニケーションを取れない人もいます。特にIT業界には多いです。
鈴木:文化の違いで言いますと、休みの取り方の違いがあると感じています。特に東アジアの場合、旧正月に1ヶ月くらい帰りたいと迷いなく言ってくるケースがあります。それが繁忙期に当たる場合などに困ってしまうのですが、それも国の習慣によって違うものなので、制度を変えていく必要があると考えています。また、国と性別と年齢の組み合わせで合う合わないがあると感じているので、外国人社員向けの研修も今度必要になってくるのではないかと考えています。
質問4:留学生を採用する際に、彼らの日本語力についてどのように考えていますか?N1、N2という基準は重視しますか?求める日本語のレベルや、面接のときに日本語のどのようなポイントを見ているか教えてください。
高見澤:まずN1がスタートラインです。N1を持っていても仕事はできません。N1を持って入社した留学生が言っていましたが、入社後3ヶ月は全く話が理解できなかったそうです。ただ、N2でも時間が経てばできるようになる人もいるので、面接時にN1かN2かというのはそこまで気にしていません。面接できちんとコミュニケーション取れるかを見ています。一般的な質問は留学生も準備をしてきた通りに話せるので、準備していない質問をされたときにどのように切り返せるかを見ています。
山本:一つの目安としてN1かどうかは見ていますが、やはり面接で確認をしています。みんな面接の準備はしっかりしているので、一問一答の一般的な形式ではなく、面接はすべてフリートークで行います。会話の中で、頭の回転の速さや機転が利くかどうかなどを確認しています。
助川:N1、N2の取得者を優先しています。採用する側も時間がないので判断基準にしています。またそれ以上にIT系の資格を持っているかどうかを見ます。持っている場合は日本語の資格がなくても面接に呼ぶことがあります。面接では会話がスムーズに行くかどうかを見ていますが、正直に言うと自分の面接の評価は当たりません(笑)。ですので、最近は適正テスト(IQとEQを評価するもの)などを使って、評価の半分はテストを参考にしています。
鈴木:一応見ています。ですが、N1よりもN3の方が会話がうまい場合もありますので、学生時代に何をしてきたかを見ています。日本語がおぼつかない人でも入社後のイメージができれば採用する場合もあります。その時には、卒業までの期間に日本語の課題を出す場合もあります。
質問5:留学生への就職指導の中で、面接時のマナーや敬語の使い方、ビジネスメールの書き方などを教え、リクルートスーツを買うように指導しています。実際、企業の方々は留学生にも日本人就活生と同じように日本のビジネスマナーに合わせてほしいと考えていますか?それとも留学生に対しては、あまり気にしませんか?
高見澤:100/0の理論ではないですが、100は難しいです。でも、0は困ります。完璧は求めていないですが、寄り添って欲しいと考えています。敬語は完璧は求めていません。敬意が表れていれば良いと考えています。リクルートスーツはみんな着ているので、それに合わせて着ればいいと思います。頑なに着ない人は、(自分のこだわりが強すぎるという意味で)難しいと思います。
山本:アパレルなので、リクルートスーツにはこだわっていません。ただ、これまで来社した留学生は、みなさんスーツを着ていました(黒には限りませんが)。日本人も現地に行けば、現地のマナーや習慣に合わせますので、留学生も日本のマナーや習慣に合わせて欲しいと思います。
助川:面接のマナーなどは気にしていません。それよりも清潔感があるかどうかを気にします。IT業界には髪の毛がぼさぼさでも技術的にすごい人がいます。なので、採用過程でそれが判別できない人の場合には一定程度のマナーを求めます。
鈴木:マナーや敬語は、日本人も含めてできない人は多いです。ですので、留学生については面接のマナーなどはそこまで求めていません。正直面接のマナーができていない日本人学生も多いですので。
質問6:留学生に、履歴書や面接で自己PRや志望動機をうまく伝えられるように指導していますが、正直とても難しいです。実際のところ、企業の方は面接で自己PRや志望動機をどの程度重視しているのでしょうか?
高見澤:自己PRも志望動機も見ていないですし、面接でも聞いていません。みんな同じような答えを用意していますので、あまり意味がないと思っています。特に志望動機は、まだ入社していない段階でその会社のことをよく知らないのに、答えを求めることは意味がないと考えます。それよりもフリートークでどのくらい話ができるか見ています。
山本:これらの質問は面接で聞きますが、実はあまり重視していません。やはり、同じように準備してきている答えよりは、フリートークでの頭の回転の速さやどこまで本気かを見ています。
助川:内容はともかく書いてあるかどうかは見ています。空欄なのはちょっと(笑)。内容はあまり気にしていません。
鈴木:当社も読みますが重視はしていません。あくまで人物重視です。これは企業によってはしっかり読み込んで内容の良し悪しで判断していますので、企業の規模や考え方によって違いがあるかもしれません。
質問7:日本で2〜3年仕事の経験をしてから、母国に戻って就職したい、そのほうが母国での就職が有利になると考えている留学生も多いです。そのような留学生が面接に来て、もし正直に2〜3年働いて国へ戻りたいと言ったら、企業の方々はどう答えますか?また、このような留学生を採用されますか?
高見澤:「何年働きますか?」と聞かれたときの答えは、建前と本音の2通りあります。一つ目は日本人でも「この会社に骨を埋める」とみんな答えますが、本音はどうかわかりません。ですが、そう言わないと合格できないので、2~3年で帰りたいと思っていたとしても(建前として)みんなそう言います。二つ目は、本音で「2〜3年で帰る」と言った場合です。私は「2〜3年で会社に貢献できるのか?」と聞きます。もしその留学生にきちんとしたビジョンがあり、2~3年後に母国へ帰ったあともその人とビジネスができるようであれば、採用します。
山本:当社も、辞めて本国に帰った時にビジネスができれば採用すると思います。面接でその可能性が見えれば可能性はあると思います。
助川:当社は現段階では海外展開をしていませんので、「2〜3年で帰る」と言ったら採用しません。どうしても入りたいなら嘘をついてください(笑)。
鈴木:飲食は独立思考の人が多いので、日本人の学生の中にも「5年で辞めて独立したい」という人がいます。ただ、2〜3年では独立は難しいので、独立が目的の人は2〜3年経ってもまだ会社にいる場合が多いです。当社の場合は、独立してくれればフランチャイズの仲間が増えることになりますので、国へ帰って独立したいという人の場合には採用すると思います。
質問8:最後の質問です。就職活動をする留学生に学生時代にどんなことをしておいて欲しいですか?何かしておいて欲しい勉強や経験があれば教えてください。
高見澤:できれば企業との接点を多く作って欲しい。面接だけで判断するのは難しいです。ですので、できればその人の人となりを知った状態で採用したい。ですので、できるだけ留学生には企業との接点を多く作るようにして欲しいです。
山本:外国人に関わらず学生に言っていることは、一つは海外旅行に行きなさい。少しでも多くの国やその文化を見なさいと言っています。もう一つは1冊でもいいから自分の身になる本を読みなさいと言っています。
助川:好き/嫌い、得意/不得意のマトリックスを整理しておいて欲しいと思います。当然中身は変わっていくと思いますが、自分のキャリアアップのためにも自己分析をすることが大切だと思います。
鈴木:まずは真面目に学業に励むこと。それから留学生は同じ国で固まりがちなので、日本人との交流を増やして欲しいと思います。
6.ワークショップ
「外国人留学生の就業力とは?就業力を高めるために必要なこととは?」
前回の第2回教職員研修でワークショップのファシリテーターを担当してくださり好評だった河野礼実さん(関西大学 国際部 SUCCESS-Osaka推進担当コーディネーター)。今回も、ワークショップを担当していただきました。
第2回に引き続き、今回もテーマは「留学生の就業力」。
前回は、参加教職員のみでワークショップを行ったため、終了後に「自分たち教職員が考えた留学生の就業力は、果たして企業側が求めているものと同じなのか?」という新たな疑問・課題が生まれました。
そのため、今回は企業の方々も一緒にワークショップを行うことにより、もう一度このテーマで議論してみることにしました。
教職員64名と企業関係者5名の総勢69名が14テーブルに分かれ、約1時間半におよぶ活発な議論が行われました。
自由な雰囲気での話し合い・共有・自分の中への落とし込み(収穫)ができるように、ワールドカフェ形式で行いました。
留学生が日本で働く上で必要な「就業力」とは何か?
各テーブルで議論が行われ、模造紙の上に様々な言葉が書き出されていきます。
つうつづい
続いて第2ラウンド。
席替えをして、次のテーマに進みます。
席替えは、各テーブルのホスト役が1名残り、その他の人は他のテーブルへ自由に旅に出ます。
着席したら、そのテーブルの第1ラウンドではどのような意見が出たか、ホスト役から新しいメンバーに簡単にシェア。
シェアが終わったら、新しい模造紙をテーブルに出して、第2ラウンドのテーマ発表です。
第2ラウンドのテーマは、留学生が「就業力」を身につける/高めるために、私たち支援者にできることは?
第1ラウンドでは、企業関係者の5名は1つのテーブルにまとまっていましたが、第2ラウンドからは教職員の方々と混ざってグループに入ります。
続いて最終ラウンド(第3ラウンド)です。
同じルールで席替えを行います。
第3ラウンドでは、これまでに一人一人が出会った意見・アイデアを各自が思い出し、自分の中で整理して落とし込む「ふりかえり」の時間です。静かな収穫のひととき。その収穫物を、新しいテーブルメンバーにも話して、共有と落とし込みを行っていきます。
最後に、ファシリテーターの河野さんから、今日のテーマの答えには正解がないこと、そして、参加者お一人お一人が収穫物をぜひ職場へ持ち帰り、職場の方々にもシェアしてほしい、というお話がありました。
ワークショップのあとは、休憩も兼ねて、自由な交流が行われました。
7.発表② 留学生の就職指導・支援に際してのポイント
研修会の締めは、ASIA Link代表の小野によるレクチャーです。
日々の仕事の中で、教職員の方々から質問や相談をいただくことが多い3つのポイントに絞って、お話しました。
①日本語学校
日本語学校から進学ではなく直接就職をめざす留学生は、年々増えています。母国ですでに大学を卒業している留学生です。
日本語学校生が就職をする際に最もハードルとなるのが、「日本語力の低さ」と「就職活動の期間の短さ」です。日本語力については、企業の面接を受ける際にN2レベルの会話力がないと、なかなか面接の突破が難しいのが現実です。その時期までに、いかにN2レベルの会話力に持って行くか、そこが日本語教師の腕の見せ所となると思います。
また、卒業の1年前から動き始める日本の就職活動を考えると、日本語学校に入学した段階で、就職を希望する留学生には、いつまでに何を準備すべきか、いつまでにどのような能力が必要か、ということを伝える必要があります。
さらに、日本語学校の留学生が就職の際に強みになるのは、母国の大学での専門性です。日本語学校で2年間過ごすうちに、大学で勉強した専門知識はすっかり忘れてしまった、という留学生によく出会います。日本語学校時代に、大学で学んだ専門性(とくに理系分野は)をキープしておく努力が必要になります。
②専門学校
新しい就労系ビザの施行にともない、専門学校はこれまで以上に専門性への特化が求められてくるでしょう。とくに、ビジネス系学科や通訳翻訳学科の卒業生で多かった、通訳を伴う接客業務については、技人国ビザがおりにくくなる可能性があるからです。今後この分野の業務は、就労ができる「特定活動」ビザの範疇になってくると思われますが、このビザは本邦の大学・大学院卒業者が対象であるため、専門学校生は取れません。専門学校生にとっての選択肢は、専門性を生かした業務で技人国ビザを取るのか、それとも大学編入や大学院進学をめざすのか、もしくは「特定技能」へ行くのか。進路指導において、教職員は正しい情報に基づく支援が求められてくると思います。
ASIA Linkでサポートして就職が決まった専門学校生のうち文系コースの留学生の多くは、母国大学の専門性を生かせる業務についたり(IT系や化学系など)、専門学校時代に簿記資格を取得して経理職についたり、母国の日系企業での職務経験と語学力の両方を生かす業務(海外生産管理など)についたりしています。
③大学・大学院
交換留学生が多い大学では、就職希望の交換留学生からの相談も増えています。当然ながら、日本にいる間に就職活動を行ったほうが有利なので、交換留学中に内定を得られるよう、支援していくことが必要です(就労ビザの手続きは、母国へ戻ってからでも行えます)。
また、秋卒業の留学生も増えています。日本の就職活動のいわゆる「解禁日」が3月であることから、秋卒業の留学生は就職活動と卒論・修論を同時期に行わなければならず、活動が遅れがちです。早めに準備を始められるような支援が求められます。
また、英語のみで入学・卒業ができるコースも増えています。卒業時に、挨拶程度しか日本語が話せない留学生もいます。就職先として、英語のみで面接が受けられ、入社後も英語のみで業務ができる、という日本企業は非常に少数です。一方、英語コースであっても、日常生活の中で積極的に日本人のコミュニティに入り、日常会話は日本語でできる留学生もいます。このような留学生の多くは、日本企業への就職を決めています。もちろん、企業側の歩み寄りや受入れの努力も必要だと思いますが、大切なのは、日本語を学ぼうという姿勢です。英語は世界共通語なのだから、日本企業も英語に対応するべきだ、という姿勢の留学生は、企業側も受入れは難しいと思います。
日本語学校から直接日本での就職をめざす場合は、母国の学歴の確認が必須です。母国で短期大学以上の学歴(いわゆる高等教育機関卒業)がないと、原則として技人国ビザでの就労はできません。各国によって、様々な教育体系があり、名称も様々。留学生の母国での最終学歴が高等教育機関に該当するのかわからない場合は、文科省のwebサイトで確認ができます。
次に、就労ビザがおりた際、入管から届くハガキについて。
大学・大学院生や、一部の専門学校生は、卒業式が終わったあとに、ハガキと一緒に卒業証明書を持って入管に行きます。しかし、母国大学の学歴をビザ取得の根拠として申請している日本語学校生・専門学校生は、現在通っている学校の卒業証明書は必要ありません。
そのため、卒業式を待たずに、自宅に届いたハガキを持って入管へ行き、就労ビザの交付を受けることが可能です。ただ、ここで気を付けたいのは、就労ビザの交付を受けた時点で留学ビザは失効し、アルバイトができなくなるという点です。実際に卒業式の1か月も前に入管で就労ビザの交付を受け、その窓口で「アルバイトはすぐに辞めるよう」言われた日本語学校生もいました。
留学生から相談を受けた場合は、入管に問い合わせることをおすすめします。
これから就職活動を始める留学生から就職相談を受けたとき、みなさんはどのような対応をしていますか?
「自分がどのような仕事ができるのかわからない」
「自分がどのような仕事がやりたいのかわからない」
この2つの点に悩む学生は、日本人・留学生に関わらず、就活のスタート時にはとても多いものですし、自然なことでもあると思います。
ただ、自分の中で一旦は方向性を決めないと、就職活動という行動を開始することができません。
私たちASIA Linkのスタッフは、日々留学生と面談を行い、このような就職相談にのっています。
ここでまず押さえておきたいポイントは、仕事が「できる」かどうか、つまりその仕事に対する能力があるかどうかの判断は、採用企業側が行うという点です。すでにやりたい仕事があるが、その仕事を自分が「できる」かどうか迷っている留学生の場合には、私たちは「まず受けてみたら」と言っています。実際に、受けてみたら希望企業にすんなり内定してしまった、という留学生もいます。逆に、ポートフォリオ(作品集)を持ってCGデザイン会社を受けに行ったある美術系留学生は、「うちの業界ではCGソフトが使えるかどうかよりも、デッサン力を見て基礎力と観察力のレベルの高い人を採用している」と言われ、デッサンが苦手だったために不合格となりました。しかし、受けてみたことで、その業界が求めている能力の種類とレベルを知ることができたのです。
それでは、自分がどのような仕事が「やりたい」のかわからない、というもう一つのポイントについては、どのように対応したらよいのでしょうか。
よくある問答は、以下のようなやり取りです。
面談者「どのような業界・職種に興味がありますか?」
留学生「絞っていません。広く考えています。」
面談者「そうですか・・・。やりたい仕事、興味のある仕事はありませんか?どんな仕事がしたいですか?」
留学生「語学を生かせる仕事とか・・・。通訳翻訳とかでしょうか。あと貿易関係?」
これでは、なかなか就職活動の一歩を踏み出して、企業へエントリーするスタート地点まで行くことができません。
「何をしたいのか?」というざっくりした質問に対して、答えが深まっていかない段階の留学生に対しては、もう少し細かい質問を設定して、聞いていくことが効果的です。
私たちの留学生面談では、主に上記の3つのカテゴリー「仕事内容」「働き方」「企業選びの軸・優先度」について、細かい質問を設定して留学生の「~したい」という気持ちを引き出しています。
上記のようにYES/NOで答えられる質問を投げかけていくと、留学生は直感的に自分の潜在意識にある気持ちをどんどん答えてくれます。これらの質問に対して、深く考え込んでしまう留学生はあまりいません。多くの留学生は、上記の質問に対して「~したいのか」「~したくないのか」という選択の軸はすでに持っているのです。
上記の質問によって、自分の意識の中の「~したい」「~したくない」が整理できたら、その選択をした理由を聞いていきます。この理由を問われたとき、留学生は初めて自分の潜在意識と向き合い、深く考え始めます。そこから、各々のストーリーが出てきます。各々が背負っているものが出てきます。
たとえば、私が以前面談をした留学生で、次のようなケースがありました。
「企業を選ぶとき、企業の大きさや知名度は気にしますか?」という質問に対して、その留学生は「絶対に大手企業に入りたいです」と答えました。「なぜ?」と尋ねると、「経営が安定していて安心だから」と。「とても業績が良く、経営が安定している中小企業もありますよ。そういう企業なら大手でなくても大丈夫ですか?」と聞くと、少し考えて「やはり大手企業がいいです」。
ここからさらに掘り下げて質問していくと、この留学生の両親はいわゆる一流企業で働いており、我が子にも日本の大手企業へ入ることを強く期待していることがわかりました。本人にとっては、日本の大手企業に入ることが両親に認められる唯一の方法だったわけです。ここで両親とは違う生き方を選択する人もいますが、この留学生は違いました。
この留学生の希望の仕事内容やキャリアパスは、大手よりむしろ中小企業のほうが実現できる内容でしたが、この段階で本人に中小企業の求人を薦めても、本人の救いにはなりません。「大手に入れなかった自分」を本人は許すことができないからです。
このように、「~したい」という気持ちの整理から、「それはなぜ?」という気持ちの引き出しを行う課程で、一人一人の背負ってきたものや、ストーリーが見えてきます。話すうちに自分自身で答えを見つけて、一歩を踏み出していく留学生も多いです。
留学生の気持ちに寄り添い、じっくり話を聞くことで、留学生自身が自分と向き合い考える過程を手伝う。
ここが、支援者としてのスタート地点だと思います。
8.参加者の方々からの感想を一部ご紹介します
*他の教育機関の方とお話ができ、自分自身の考えが深められて良かった。
*企業の生の声を聞けたことがとても良かった(2~3年で帰国したいと言う留学生を採用するか?など)。
*在留資格(ビザ)についての説明が非常に良く整理されていてわかりやすかった。
*在留資格(ビザ)についての質疑応答の時間がほしかった。企業側の申請事情なども知りたい。
*大学のキャリアセンターと、専門学校の就職支援では、考え方が大きく違った。
*企業の本音を聞くことができ、定番と思われている考え方・方法が一番ではないということがわかった。
*企業の方が、面接で志望動機や自己PRをあまり重視していないと知り、少し驚いた。留学生との面談では、フリートークを大事にしたいと思う。
*正解がない内容だけに、これから考え続けていきたいと思った。
*引き続き、在留資格(ビザ)について今後の最新情報をお願いしたい。
*普段、他の教育機関の方々と接点があまりないため、そのような方々と意見交換できたことが嬉しい。
*就職活動経験のある留学生OBの話が伺える機会があったらありがたい。
*前回の研修会であった、実際の採用例・不採用例の話があると、実例として参考になって良いと思う。
*今後さらに活用が期待される外国人材について、支援の幅や国内の理解度が高まるとよいなと改めて感じた。
*ワークショップは、自分で考える時間にもなり、他の立場の方のアイデアも伺え、有意義な時間だった。
*企業の話も聞けて、所属機関での課題が見つかった。
*大学・大学院の教職員向けコンテンツをもっと入れてもらえると助かる。
*最後のレクチャーの、留学生の話を「聞く」「寄り添う」という内容にとても共感した。
*今回の内容は中~上級だったと思うので、はじめて留学生就職支援を行う人向けの初歩的なプログラムもあるといいと思う。
*最新情報のインプット、ワークショップ(普段接点を持てない方々との話せる時間)の両方があり、今後すぐに生かしたい内容だった。
*自分の職場内だけでは到底知り得ない、貴重な情報をいただくことができた。
*ワークショップは有意義だったが、やや理想論的な結論に落ち着いてしまった印象がある。もう少し現実的・実践的な結論にたどり着けるようなテーマ選びにしてもよかったかもしれない。
*ワークショップは得たものが大きかった。「就業力」は教えられるのか?というのが大きな疑問点となった。次回も開催をお願いしたい。
*大学・専門学校・日本語学校というカテゴリーを超えた交流と意見交換ができたのがとても良かった。
*大学・専門学校・日本語学校それぞれの課題に合わせた、個別の研修会があってもよいと思う。
*企業のパネルディスカッションは、ぜひ次回もやってほしい。
*パネラー(企業関係者)への質疑応答の時間がほしかった。
*同様のイベントを東海地方でも開催してほしい。
*様々な学校での、留学生就職支援の事例や課題も知りたい。
*共通の悩みを抱える大学に出会えた。
*タイムマネジメントがしっかりしており、ワールドカフェ形式や、名刺交換の時間がある点なども良かった。
(文責:株式会社ASIA Link 小野、井上)