外国人留学生対象 就職に関する日本語力アンケート調査 ~就職活動及び就労における日本語の苦労と、日本企業に求める配慮とは~

留学生対象 就職に関する日本語力アンケート調査
~就職活動及び就労における日本語の苦労と
日本企業に求める配慮とは~

2022年11月
株式会社ASIA Link

■はじめに(調査の背景・目的)

外国人留学生が日本での就職を考える時、壁の一つとなるのが「日本語力」です。3年前にASIA Linkが発表した留学生対象のアンケート調査結果でも、「これから就職活動をする上で、不安なことや心配なことは何ですか」という問いに対して、3人に1人が「日本語力」と回答しました(「就職活動に関する外国人留学生アンケート調査 ~不安・心配なことの第1位は「日本語力」~」(ASIA Link,2019)https://blog.asialink.jp/business/20191216/ )。彼らの日本語力に対する不安・心配は、就職活動における日本語力と、実際に日本企業で働き始めたあとの日本語力、両方を指しています。実際に、私たちASIA Linkが、日々留学生と就職面談を行う中でも、「面接のときにうまく日本語で答えることができなかった」という就活上の日本語の悩みのほかに、「営業職に興味があるが自分の日本語が通用するか不安だ」といった就職後の日本語への不安も多く聞かれます。
就職活動とその後の就労における、外国人留学生の日本語力の課題の実態を知り、そこに対する教育・支援や必要な配慮をしていくことは、日本社会における留学生の活躍にとって重要です。そこで本アンケート調査では、就職活動経験がある留学生、及び日本での就労経験がある元留学生を対象に、就職活動と就労の場面において彼らが日本語のどのような面で苦労し、どのような配慮を求めているかを調査しました。また、留学期間中に就職に必要な日本語力を伸ばすために、何が効果的だと思うかについても調査しました。
このアンケート調査が、留学生の日本語教育やキャリア教育、就職支援に携わる教職員の方々と、留学生を採用している、これから採用しようと考えている企業の方々に、少しでも有益なものになりましたら幸いです。

■調査方法と調査対象

【調査方法】
・ASIA Linkに登録している、外国人留学生及び元外国人留学生に、Web上に作成したアンケートフォームのリンクをメール送信。アンケートフォームに入力のあった回答を集計した(アンケートは匿名回答)。
・アンケートフォームは、日本語版と英語版の2種類を用意。いずれかのフォームを選んで回答してもらった。
・アンケート実施期間:2022年8月30日~2022年9月30日

【調査対象】
・日本での就職活動の経験がある現役外国人留学生
・日本で就労している、または就労したことがある元外国人留学生

 

■アンケート回答者の属性

【有効回答数】193名


※現役留学生:就職活動中、及び内定者
※既卒者:日本で就職活動経験のある既卒者(現在日本で就労中、過去に日本で就活・就労経験あり現在帰国している人、卒業後就職活動を継続している人)

 


※日本での就労経験無し:※就職活動中の現役留学生及び既卒者、内定を得て卒業を待っている現役留学生 他

 

※3-4年が31%で最多

 


※5-6年が30%で最多

 


※大学院(修士)が38%で最多。全体の半数の49%が大学院卒。

 


※専攻は文系・理系がほぼ同数

 


※中国語ネイティブ(中国・香港・台湾出身者)が全体の約半数

 


※現在の自分の日本語力がJLPT(日本語能力試験)のどのレベルに最も近いかを選択

 

■アンケート結果

1.就職活動における日本語

【全員への質問】<193名>
①あなたは、就職活動の中で、日本語のどのような面で苦労していますか(苦労しましたか)?
(上位3つまで選択)


半数以上の54%の人が選択して1位になったのは、「履歴書やエントリーシートを書くための日本語力」、つまり「書くための日本語」の苦労でした。続く2位は「面接で伝えたいことを話すための日本語力」、つまり「話すための日本語」でした。1位と2位は、書く・話すというアウトプットに必要な日本語力であり、読む・聞くというインプットの日本語力(3位・4位・6位・7位・9位)よりも難しいと感じていることが読み取れます。

【全員への質問】<193名>
②就職活動の中で、企業側に日本語面でどのようなサポートや配慮がほしいですか?
(1つだけ選択)


3人に1人が、「選考時の日本語力だけで判断せず、入社後の伸びも見込んで判断してほしい」を選択しました。とくに卒業の1年以上前から就職活動が始まる日本においては、選考の段階ではその留学生の日本語力が企業の求めるレベルに達していなかったとしても、卒業までに、そして入社後も伸び続けることが多いです。また、2位は「SPIなどの適性検査を、日本語だけでなく英語や他の言語でも受けられるようにしてほしい」で、4人に1人が選択しました。設問1-①でも、就職活動での日本語面の苦労に「SPIなどの適性検査を受けるための日本語力」を選んだ人が42%いました。私たちが日々面談をしている留学生の声からは、日本人学生と同じように母国語で受検できれば点数が取れる自信があるのだが、日本語で解く必要があるため制限時間に間に合わず、内容が理解できなかったのか日本語力の問題なのかが正しく判断されずフェアではない、という意見が多く聞かれます。近年では、英語など複数の言語から選んで適性検査を受検できるケースも増えていますが、一方で、留学生の日本語力を判断する一つの手段として適性検査をあえて日本語で実施するケースもあり、取り扱いの判断は企業によって様々です。

 

2.就労における日本語

【日本での就労経験がまだない人向けの質問】<77名>
①あなたが日本企業で働くことになったら、日本語の面でどのようなことに苦労しそうだと思いますか? 
(上位3つまで選択)

 

【日本での就労経験がある人向けの質問】<116名>
②あなたが日本企業で働く中で、日本語の面でどのようなことに苦労していますか(苦労しましたか)。 
(上位3つまで選択)

上記の①と②は、「日本企業で働く中での日本語面の苦労」について、日本での就労未経験者(77名)と経験者(116名)それぞれに質問した結果です。上位3位のうち、「敬語」と「専門用語」はどちらにもランクインしており、就労前に予想していた通り、就労後も敬語と専門用語には苦労していることがわかります。一方、「電話」については、就労未経験者のほうは17%しか選択しておらず7位だったのに対し、就労経験者のほうは同率1位で40%の人が選択しました。就労前はそこまで不安視していなかった「電話」は、実際に働き始めると意外に苦戦することが見て取れます。

 

【日本での就労経験がある人向けの質問】<116名>
③日本企業で働く中で、どのような日本語力が大事だと感じますか? 
(上位3つまで選択)

2-②の設問は、働く上での日本語面での苦労を聞きましたが、この③の設問では、どのような日本語が「大事」だと感じるかを聞きました。結果は、「自分の意見・考えを話すための日本語力」と「相手の話を聞き取り理解する日本語力」が同率1位となり、半数の人がこの選択肢を選びました。コミュニケーションの基本であり本質でもある、「話す力」と「聞く力」が重要であると認識されていることが読み取れます。

 

【日本での就労経験がある人向けの質問】<116名>
④あなたが働いている(働いたことがある)日本企業では、外国人社員に対して日本語面のサポートや配慮がありましたか? 
(複数回答可)

入社後の日本語面のサポートについては、日本語研修の用意や、英語や母国語でのマニュアル作成などのサポートを受けている人は少数でしたが、半数を超える人が「わからないときには丁寧に教えてくれた」と回答し、3人に1人が「わかりやすい日本語を使ったり、ゆっくり話したりしてくれた」と回答しました。「日本語面のサポートや配慮がなく、とても大変だった」と回答した人も12%いましたが、全体的に見ると7割の人が就職先の企業から日本語面のサポートや配慮があると感じていました。その中でも、わからないときは丁寧に教える、わかりやすい日本語で話す、ゆっくり話すといった、日々の場面に応じた配慮が、企業の就労の現場で行われていることが見て取れます。

 

3.日本語力を向上させる方法、企業が求める日本語力、苦手な日本語について

【全員への質問】<193名>
①これから就職活動を行い、日本企業へ就職していく後輩のために、アドバイスをお願いします。就活及び日本企業で働くための日本語力を高めるために、学生時代に何をすることを勧めますか? 
(上位3つまで選択)

実際に日本での就職活動や就労を経験している留学生・元留学生が、学生時代に日本語力を高めるために有効だと感じている方法が何かを、後輩へのアドバイスという形で聞きました。結果は、6割の人が「日本人の友人をたくさん作り、日々日本語で交流する」を選択しました。次いで、半数の人が選んで2位となったのは「自分の専門の勉強にしっかり取り組む中で、日本語力も高めていく」であり、1位・2位ともに、学生本来の日々の活動の中で、日本語力を高めていくことが有効であると考えていることがわかります。上位4つまでが、日本語をあくまで「手段」とする活動であるのに対して、5位以下はすべて日本語習得が「目的」の活動であることも、興味深いです。

 

【全員への質問】<193名>
②日本企業で外国人社員が働く時、企業が求める日本語力については様々な意見・考え方があります。あなたの考えに近いものを選択肢の中から一つ選んでください。 
(1つだけ選択)

日本の大学・大学院では、英語で勉強・研究ができるコースの設置が増えており、日本語学校を経ずに海外から直接入学する留学生の受け皿として需要が高まっています。一方で、日本語を習得しないまま就職活動の時期を迎える留学生も増えており、私たちの日々の面談の中でも「英語で面接が受けられる企業を教えてほしい」「日本語を使わずに英語で働ける仕事を紹介してほしい」と言った声が以前より増えてきました。そのため、この質問では「外国人社員を採用したいなら、日本企業も社内の公用語を英語にするなど、配慮するべきだ。」という回答の割合がどの程度までいくのか、その結果に注目していました。しかし結果的には、この選択肢を選んだのは6%にとどまり、全体の4割以上が「日本企業なのだから、日本語が必要なのは当然だ。外国人社員も仕事で使える日本語を習得するべきだと思う。」という選択肢を選びました。

 

【全員への質問】<193名>
③あなたの「日本語力」についてお聞きします。あなたは、自分の日本語のどのような点を苦手だと感じていますか?一番苦手だと思うものを一つだけ選んでください。 
(1つだけ選択)

最後に、自身の日本語力について、どのような点を苦手だと感じているか尋ねました。漢字と複数人での会話力が同率1位となり、この2つで全体の4割を占めます。「漢字」を選択した人はネイティブ言語がすべて非漢字圏でした。日本語能力試験(JLPT)のレベル別に結果を見ていくと、N1レベルの人が選んだのは、1位:会話力(複数人のグループ)、2位:プレゼンテーション能力、3位:文章を書く能力でした。N2レベルの人が選んだのは、1位:漢字、2位:会話力(複数人のグループ)、3位:語彙。N3以下の人が選んだのは、1位:漢字、2位:語彙、3位:読解でした。日本語能力が初級~中級レベルの間は、漢字・語彙を覚えていくことに苦労している傾向が読み取れ、上級レベルになってくると、会話力・プレゼン力・書くための日本語といったアウトプットの日本語力へと目標が移っていく様子が読み取れます。

 

■おわりに

今回のアンケート調査では、留学生及び元留学生が、日本での就職活動と就労において、日本語の面でどのような困難を感じ、日本企業にどのような配慮を求めているかを読み解くことができました。また、彼らが働く上で重要と捉えているのは、自分の意見を話し、相手の意見を聞くというコミュニケーションの本質であり、この日本語力は学生時代の友人との関わりや専門分野をしっかり学ぶ学問のプロセスを通じて向上していくものであると考えていることもわかりました。留学生を採用・雇用する企業は、彼らの日本語の伸びしろも見据えた採用を行い、入社後は日々のコミュニケーションの中でサポートしていくことが重要であると言えるでしょう。

 


★印刷用のPDFは以下からダウンロードできます

外国人留学生対象就職に関する日本語力アンケート調査2022(ASIA Link)

 

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