就職活動に関する外国人留学生アンケート調査 ~不安・心配なことの第1位は「日本語力」~

就職活動に関する外国人留学生アンケート調査
~不安・心配なことの第1位は「日本語力」~

2019年12月
株式会社ASIA Link
シロコフ マラト
小野 朋江

1.はじめに(調査の背景・目的)

日本の教育機関を卒業後に日本で就職する外国人留学生は、年間2万人を超えます。彼らは「日本」という異国での慣れない就職活動を経て、企業で内定を得たあと、さらに就労ビザの手続きを経て企業へ入社していきます。
日本での就職を希望する留学生が年々増える中、彼らが在籍する教育機関(大学・専門学校・日本語学校など)のキャリアセンター職員や就職指導教員、日本語教師も、留学生の就職支援に取り組んでいます。私たちASIA Linkも、しばしばそのような教育機関の教職員の方々と協力し、学校での留学生向け就職ガイダンスを行ったり、留学生対象の就職相談・面談会を担当したりしています。
このような支援を続ける中で、留学生が抱えている不安や心配をできるだけ多く聞き取り、それらを解決していけるような支援を考え実行していくために、2018年11月から、留学生対象のアンケート調査を開始しました。 具体的には、ASIA Linkで講師を担当させていただいた、教育機関での留学生対象就職ガイダンスや、就職に関わる授業の最後に、参加留学生にアンケートを配布し、その場で記入していただくという方法で行いました。アンケートで聞いたのはただ一つ、以下の質問です。

「これから就職活動をする上で、不安なことや心配なことは何ですか。」

以下、アンケート調査の結果と、その結果を分析・考察したものをレポートとしてまとめました。留学生の就職支援に取り組まれている教職員の方々に、ご覧いただければ幸いです。また、教職員の方々だけでなく、これから留学生を採用したいと考えている企業の方々にもご覧いただき、留学生が就職活動の上でどのようなことに不安・心配を感じ、困難を抱えているのかをぜひ知っていただきたいと思います。異国での就職活動に奮闘する彼らの気持ちに寄り添い、留学生が持つ本来の実力と魅力を採用選考の中でうまく引き出していただけたら嬉しいです。

2.調査対象と調査方法

①調査対象
日本での就職を希望している、日本語学校・専門学校・大学・大学院に在籍中の外国人留学生
*アンケート実施校:13校(大学5校、専門学校2校、日本語学校6校)
*有効回答数:265人(大学生・大学院生84人、専門学校生70人、日本語学校生111人)

②調査方法
ASIA Linkで講師を担当した、就職ガイダンスや就職関連の授業の最後にアンケート用紙を配布・回収
*調査期間:2018年11月27日~2019年10月23日
*質問内容:「これから就職活動をする上で、不安なことや心配なことは何ですか。」
※答えは自由記述

3.調査結果

これから就職活動をする上で、留学生が感じている「不安なことや心配なこと」は、以下の順位となりました。

1位 「日本語力」                80人
2位 「面接」                  40人
3位 「日本で就職できるのか不安/どの会社を受けたいか、どんな仕事をしたいか迷っている」                39人
4位 「仕事・会社についての知識・情報が足りない」25人
5位 「就労ビザについて」            22人
6位 「日本語以外の能力不足」          21人
7位 「専門分野・学歴と就職の関係」       17人
8位 「心配なし」                15人
9位 「会社の人間関係、マナー、文化」      12人
9位 「就活の時期が合わない、時間が足りない」  12人
11位 「履歴書やその他の必要書類」        8人
12位 「年齢」                  4人
12位 「給料」                  4人
12位 「勤務時間、残業、働く環境」        4人
15位 「その他」                 5人

4.検証

以下、1位から順に、結果の検証を行っていきます。

①「日本語力」
アンケートに答えてくれた留学生のおよそ3人に1人が、就職活動をする上で「日本語力」について不安・心配を感じているとの結果になりました。
今回、アンケートを配布した際の就職ガイダンスや就職関連の授業は、すべて日本語でレクチャーを行いました。つまり、日本語でのレクチャーを理解できる日本語力を持った留学生が対象であり、対象者はすべて日本語能力試験N3合格レベル以上でした。また、対象者のうち8割が、日本語能力試験N2レベル以上の合格者でした。しかし、「日本語力」は、たとえN1保持者であっても留学生の就職活動において最も大きな「壁」となっており、その後無事に会社に入社できたとしても、業務の遂行において引き続き日本語力が彼らの不安要素になり得ることが、今回のアンケートから読み取れます。
また、仕事の選択においても、自身の日本語力に応じた「身の丈」の仕事を選ぼうとする回答もありました。これは、ASIA Linkにおいて日々留学生との面談を行う中でも、留学生の考え方としてしばしば接するものです。そして、日本語能力試験についても、日本で就職するためには最低でもN2が必要であるとの考えが教育機関にも企業側にも多くあり、留学生もそれを意識して「N2に合格していないことへの不安」が複数見られました。

【以下、回答より抜粋】
*私の日本語はN3しかありません。
*自分の日本語のレベルに応じて、どんな仕事につけるのか?
*日本語能力試験N2に合格できなかったので自信がない。
*日本語の会話が心配です。
*日本語の発音と、話す経験が少ないことが心配。
*自分の言いたい意見が、日本語能力に制限されて伝えにくいです。
*緊張しすぎて、日本語での話がうまく進められないことです。
*言葉の壁です。日本での就職は、敬語を使うことが異文化です。
*敬語が上手ではありません。

②「面接」
留学生の多くは、日本で教育機関に通いながら、空き時間にアルバイトも行っています。そのため、アルバイトの面接は多くの留学生が経験しています。アルバイトの面接は大抵1回で合格となるため、アルバイトの面接が不安という留学生はほとんどいません。しかし、新卒の正社員採用の面接となると、話はまったく変わってきます。今回のアンケートでも、およそ6人に1人が「面接」を不安・心配要素としてあげました。
アンケートでは、「面接」の中でも様々な角度からの不安・心配点があげられていました。たとえば、面接の流れ、質問内容、礼儀やマナー、服装、敬語などの言語、面接準備などです。留学生のほとんどが母国でも日本でも正社員経験のない新卒であり、ただでさえ企業での採用面接が初めてであることに加え、日本という海外の企業文化の中での面接、且つ外国語である日本語を使用した面接に、大きな不安・心配を抱えていることがわかります。
【以下、回答より抜粋】
*面接の準備が心配。
*日本語での面接が不安です。
*日本の会社の文化を知らないままに面接をするのは、ちょっと不安です。
*面接の際の流れがわからず、心配です。
*面接の基本的な質問は何ですか。何を答えたらいいですか。
*面接をする時の、態度(マナー)が知りたいです。
*日本人学生と一緒に面接を受ける時、外国人である自分の優位を表すことができるのか心配している。
*面接の詳しい注意点(服装、言語、礼儀)が知りたい。
*内向的な性格なので、面接では外交的なふりした方がいいかどうか。

③「日本で就職できるのか不安/どの会社を受けたいか、どんな仕事をしたいか迷っている」
この回答は、2位の「面接」とほぼ同数の39人となり、およそ6人に1人が不安点としてあげました。内訳は、「日本で就職できるのか不安」は15人、残りの24人が「どの会社を受けたいか、どんな仕事をしたいか迷っている」との回答でした。この2種類の回答を一緒ににまとめた理由としては、日本での就職に対して漠然とした不安を抱いていたり、やりたいことが自分でもまだわからなかったり、といった、課題の本質が具体化していないレベルでの不安・心配であることから、一つの項目としてまとめました。
【以下、回答より抜粋】
*いろいろな会社があるので、どの会社に入りたいのか、どの会社に入れるのか心配しています。
*自分に合う仕事を見つけられるのかどうか、不安です。
*どんな会社がいいのか、どうやって選べばいいのか。
*日本での就職活動に失敗して、仕事を見つけられなかったら、と考えると心配です。
*自分は本当に日本で就職できるのかどうか。
*外国人でも採用してくれるかどうか。
*自分のやりたい仕事が本当に出来るかどうか。
*外国人の就職チャンスが少ないことが心配です。
*自分がどんな仕事をやりたいのか、まだみつからない。
*就職ができなかった場合の、未来のことが心配。

④「仕事・会社についての知識・情報が足りない」
留学生が日本で就職活動を行う際に、「情報不足」の問題はとても切実です。アンケートではもっと上位に来ると予想していましたが、結果は4位でした。ただ、回答してくれた留学生の多くが、これから就職活動を始める段階であったため、情報を得ることの難しさをまだ実感していなかった可能性もあります。
また、アンケートの回答では、どのような情報が足りないのか、ということに対して答えが様々に分かれました。「どんな会社があるのか」「どこで情報を探せるのか、どうやって情報を探すのか」といったざっくりとした疑問が多かったですが、一方で、少数ですが具体的な「英語を使う仕事があるのかどうか」「中小企業の成長性」等の情報を知りたがっている留学生もいました。
【以下、回答より抜粋】
*どんな会社があるのか、情報が知りたい。
*企業情報の収集方法が知りたい。
*良い会社、良い仕事、についての知識が足りない。
*企業にエントリーしたいが、どこで探せばいいか分かりません。
*母国に帰国してから企業にエントリーするためには、どうしたらいいですか。
*アジア出身者でも英語教師になれるのか、情報がほしい。
*英語を使う仕事はたくさんありますか。どうやって探せばいいですか。
*この会社(特に中小企業)は、将来(5年~10年後)成長できるかどうか知りたい。
*SPI試験の対策をどのようにしたらよいのか。
*ハードウェア、ソフトウェア、プログラミングに関する仕事の情報がほしい。
*音楽関係(コンサート、イベント制作など)の仕事情報が知りたいです。

⑤「就労ビザについて」
活動内容に応じた適切な「在留資格」がないと、日本での滞在が認められない外国人にとって、ビザはとても重要な問題です。とくに、留学生が正社員採用される際に取得する「技術・人文知識・国際業務」の在留資格(通称就労ビザ)は、専門分野と業務内容の関連性の証明が必要である等、取得に際して様々な条件があり、内定を得ても就労ビザが許可されないという事例も実際に起きています。そのため、ビザの問題が留学生にとって一定の不安要素であることは、ある意味当然のことであるともいえます。
【以下、回答より抜粋】
*就労ビザがもらえるかどうか。
*留学ビザの期間があまり残っていないので、就職が心配です。
*就労ビザは何年もらえるのですか?
*就労ビザを取る過程がよく分からず、緊張しています。

⑥「日本語以外の能力不足」
ここでの回答は、「自分の能力が足りるのか」というざっくりとした能力への不安のほかに、自分の「専門技能・専門性」の能力が足りないという不安も見られました。また、「日本語しか話せない、自分の強みが日本語しかない」という回答も3人いました。
【以下、回答より抜粋】
*日本で就職するために、自分が何が得意なのか分からず、自信がない。
*就職活動で日本人学生と一緒に比べられると弱く見えると思う。自信がない。
*能力(専門性やコミュニケーション力など)が足りない。
*ITの仕事をやりたいが、ITスキルのレベルが足りません。
*母国語のほかに、日本語しか話せない場合は、日本での就職はむずかしいですか。
*自分の強みがない。

⑦「専門分野・学歴と就職の関係」
ここでの回答は二つに分けることができます。一つは、「今持っている学歴で就職の可能性があるか」。もう一つは、「今の専門分野がやりたい仕事と一致していない」という不安です。
【以下、回答より抜粋】
*母国の大学はデザイン学科でしたが、やりたい仕事と専門が違います。
*文系専攻で、有名な学校の学生ではないので、その面がすこし心配です。
*映像編集の仕事がしたいですが、日本でその分野に就職できるかどうか、とても心配しています。
*学歴が不足していることが心配(専門学校生)。
*母国で介護を専門に勉強しました。日本で就職ができますか。
*母国で理学療法士の仕事をやっていました。日本ではほかの仕事をしたいのですが、経験がないため心配しています。
*母国大学で理系専攻を卒業しましたが、貿易に関する仕事をやりたいです。でも貿易に関する知識と経験がありません。就職できるか心配です。
*私の学部について、就職することが簡単なのか難しいのか知りたい。

⑧「心配なし」
アンケートの時点で、すでに内定を得ている人が複数いました。

⑨「会社の人間関係、マナー、文化」
ここでの回答の多くは、就職後の職場での人間関係への不安でした。留学生にとって、日本企業への就職は未知の世界であり、不安も大きいものです。中でも、留学生は日本企業のルールや上下関係の厳しさ、いじめ等についてのうわさも、先輩留学生から聞いているケースもあり、自分はうまくやっていけるだろうか、とうい不安を感じやすいのです。
【以下、回答より抜粋】
*日本人社員とのコミュニケーションです。
*職場で日本人の同僚と打ち解けられるかどうか心配です。
*日本の会社で、外国人社員に対するいじめは本当にあるのですか。
*日本企業の文化や環境などに慣れていけるかどうか。
*日本人との人間関係がうまく構築できるかどうか。
*日本の会社の文化をまだ知らないので、少し不安です。
*日本の会社内のルールが厳しくて、ちょっと不安。

⑩「就活の時期が合わない、時間が足りない」
ここで一番多い心配は、「就職に間に合わない」という心配です。留学生にとって、就職の1年以上前から始まる日本の就職活動について、最初はとまどう人がほとんどです。そのため、まわりに適切な支援がないと、就職活動に大きく出遅れてしまい、卒業間近になって焦るというケースもしばしば起きます。
また、外国語である日本語で、卒業論文を書いたり、研究発表をしたりする留学生にとって、勉強に費やす時間は日本人学生よりも多くなる傾向があります。また、アルバイトの問題もあります。一人暮らしをしている留学生にとっては、アルバイトを辞めて就職活動に専念するという選択はなかなかできず、ましてや地方に住む留学生は東京などの都市部まで就職説明会に来る交通費も工面しなければなりません。勉強やアルバイトで毎日忙しく日々が過ぎていく中で、就職活動に必要な時間が思うように割けずにいる留学生はとても多いのです。
卒業時期の問題もあります。海外の教育機関が秋入学のところが多いことに合わせて、日本の大学でも10月に入学して9月に卒業できるところが増えてきました。しかし、日本企業の多くは新卒採用は4月一括採用であるため、「3月解禁」の就職活動に時期が合わず、9月の卒業間近になっても内定が決まらないという留学生も多く出ます。一般的に就職活動がピークとなる5月~6月は、秋卒業の留学生にとっては卒業論文の仕上げや発表の時期と重なり、思うように就職活動ができない原因にもなっています。
【以下、回答より抜粋】
*インターンシップの期間と学校の授業の時期が重なってしまう。
*就職活動に時間がかかることが心配です。
*大学での勉強と就活をうまく両立できるかどうか。
*秋卒業で就職活動の時期がずれてしまうので、就職まで待つか、大学院に進学するか迷っています。
*就職活動を早く終えることができるかどうか、不安です。

⑪「履歴書やその他の必要書類」
ここでの回答は、大きく2点出ました。「履歴書とエントリーシートの作り方への不安」と、美術系・デザイナー系の学生に特有の「ポートフォリオの作成」に関する心配です。
【以下、回答より抜粋】
*履歴書、エントリーシートの書き方、内容についての心配。
*ポートフォリオの準備について。うまくできないと不採用になるのではと心配です。
*応募時に必要な書類の形式が知りたい

⑫「年齢」
留学生は、通常日本の大学や大学院、専門学校に進学する前に、日本語学校で1年~2年日本語を習得します。そのため、職務経験のない留学生でも、日本人学生より2歳程度年上であることがほとんどです。また、留学生の中には一定数、母国での職務経験者もいます。その場合、日本で就職活動を行う際に20代後半になっている人も多く、特に年齢を気にする日本の大手企業では書類で不合格となるケースも多いのが現状です。
【以下、回答より抜粋】
*年齢が高い(28歳)ので心配です。
*年齢と性別は、日本の就職環境でかなり厳しいですか。

⑬「給料」
留学生の大半は新卒採用としての就職となるため、採用時に給料の交渉を行うことはほとんどありません。ただ、欧米圏からの留学生はもちろん、アジアからの留学生でも、最近は日本の初任給よりも母国の初任給のほうが高いというケースも増えており、日本の初任給が魅力的ではなくなってきているのが実態です。
また、上記以外でも、外国人だからという理由で最低賃金で働かせる企業のうわさを耳にして、給与に不安を感じる留学生もいます。
【以下、回答より抜粋】
*自分の能力・経験で給料がいくらもらえるか知りたい。
*日本の給料が低いことが不安。

⑭「勤務時間、残業、働く環境」
私たちが留学生と面談を行うと、日本企業での残業の長さや頻度についての質問や、勤務地・転勤に関する質問もよく出ます。ただ、今回のアンケートでは、質問文が「これから就職活動をする上で、不安なことや心配なこと」だったため、就職後の不安点についての回答は少なかったと見られます。
【以下、回答より抜粋】
*日本企業での働く時間はどのくらいですか?
*日本企業は残業が多いことです。
*勤務地についての心配
*働く環境についての不安。

⑮「その他」
【以下、回答より抜粋】
*自分の健康についての不安。病気のときや事故など。
*面接を受けに行くためのお金が足りるか心配している。
*就職活動をやる意欲がない。帰国したい。

5.考察

今回のアンケートでは、「これから就職活動をする上で、不安なことや心配なことは何ですか。」という質問に対して、こちらで選択肢を用意せずに、自由に記述してもらう形で行いました。そのため、まだ就職活動を始めていない留学生にとっては、「外国人である自分にとって、日本での就職活動は何が課題となるのか、何が障壁となるのか」ということを実感する前の段階での、漠然とした不安・心配を書いてくれた人が多かったようです。就職活動が進んでくると、さらに具体的な心配や課題・疑問が出てくるのではないかと思います。
ちなみに、私たちASIA Linkが毎月第3土曜日に行っている、留学生対象の「就活ゼミ」では、テーマを「面接対策」にしたときに一番参加申し込みが多くなります。キャンセル待ちが出るほどです。参加してくれた留学生に聞くと、これから初めて日本企業の面接を受ける留学生の多くが、「自分の伝えたいことを、面接の場できちんと日本語で言えるかどうか不安」と言います。また、すでに面接を受けたことがあり、結果が不合格だった留学生に、不合格の原因が何だと思うか聞くと、「自分の伝えたいことが日本語でうまく言えなかった」と答える人も多いです。実際に企業の面接官から、日本語力の不足を指摘された人もいます。彼らにとって、面接に対する不安と、自身の日本語力の不安はつながっているのです。その意味で、今回のアンケートの1位と2位の根底は、「日本語」という言語の壁が留学生の就職活動にとっていかに大きいかがわかります。
留学生が在籍している教育機関においては、日本語学校はもちろん、専門学校や大学においても、専門的な指導スキルを持った日本語教師による授業が用意されています。ただ、これまでは「進学」に指導の視点を置いた日本語教育のカリキュラムや指導方法が多く使用されてきた経緯もあり、日本語能力試験や日本留学試験の試験対策に重点をおいた授業の割合が多い傾向にあります。しかし、就職活動において最も企業側が重視するのは「会話力」です。今後、来日留学生の就職希望者が増える限り、より「会話力」の向上に重点を置いた指導が求められてくると思います。さらに、留学生を受け入れる企業側にも、面接時の日本語力だけで留学生の能力を測るのではなく、彼らの総合的な能力を判断する見極め力と、日本語力の向上を待てる姿勢、入社後の日本語力がまだ十分ではない期間の受入れ体制の工夫など、優秀な留学生を日本語力だけで切り捨てることのない工夫が求められます。
次に、「日本で就職できるのか不安」という回答と、「専攻や学歴の不安」について。これらは、留学生特有の「就労ビザ取得の不安」につながる問題でもあります。就労ビザが許可されるかどうかについては、ケースバイケースの事案も多く、その時の政府の方針や入管の担当支局の考え方によっても左右されます。留学生にとっては大変複雑でわかりにくいものであり、不安を感じるのも当然と言えます。教育機関、受入れ企業ともに、就労ビザの最新の動きにアンテナを張りつつ、留学生の就労ビザ取得を支援していくことが求められます。
次に、「どの会社を受けたいか、どんな仕事をしたいか迷っている」「仕事・会社についての知識・情報が足りない」「就職活動の時間が足りない」と回答した留学生については、早い段階からの就職活動への備えの必要性を感じます。とくに、日本語学校生、専門学校生のように、2年間の在籍期間中に就職活動を終えなければならない留学生の場合、入学後の早い段階から、就職について考え、準備を進めていく支援が求められます。
最後に、「日本語以外の能力不足」と回答した留学生の背景について触れておきたいと思います。自分の母国語や外国人としての強みを活かせるような職種、たとえば海外営業や海外マーケティング、通訳翻訳業務を選ばない場合、留学生は自らの専門性で就職活動を勝ち抜いていく必要があります。その際、日本語がネイティブではない留学生にとって、日本人学生以上の専門スキルやポテンシャルがないと、日本人学生に勝てない、という現実と向き合わなければなりません。
また、母国の大学を卒業後、来日して日本語学校で日本語を学びながら、就職活動を行う留学生の場合には、母国の大学で学んだ専門分野の知識を忘れないよう、維持しておく努力も留学生には求められます。とくに変化の早いIT分野などは、「大学で情報工学を専攻したが、卒業後3年間のブランクあり」などの状況だと、ITエンジニアとしての就職が難しくなるケースもあります。
以上、留学生が感じている、就職活動を行う上での不安・心配について考察しました。もちろん、「就職活動」は大人としての社会人への一歩であり、最終的には留学生本人がいかに自分の力で考え、行動できるかにかかっています。教育機関ができることは、留学生が自ら考え、気づきを得ることができるような豊かな学びの場を整えること、正しい知識や情報を提供すること、そして最初の一歩に向けて背中を押すことだと思います。一方、採用する企業側も、留学生の日本での就職活動に対する不安や困難を理解し、彼らの能力やポテンシャルを正しく判断・評価できる力を持ち、さらに入社後も彼らの成長を促していけるような体制を整えていくことが、これからますます求められていくでしょう。

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就職活動に関する外国人留学生アンケート調査(ASIA Link2019年12月)