留学生40万人受け入れに関する一考察

2023年3月17日に首相官邸の教育未来創造会議において、岸田文雄首相は「2033年までに外国人留学生を40万人受け入れ、日本人留学生を50万人送り出す」ことを策定に盛り込むことを発表しました。

本稿では、「留学生の受け入れ」と「就職」という観点から政策の変化をまとめました。

1.留学生40万人受け入れ(2023年)

岸田首相は、留学生を40万人受け入れるために必要なことを以下の3点にまとめています。
(1)有望な外国人留学生の受入れを進めるための環境整備
(2)在留資格に関する見直しや企業への就職円滑化と定着の促進
(3)国際化に取り組む大学の環境整備や外国人材への魅力的な教育環境整備
(数字は、便宜上こちらで振りました)

また、法務省に対しては、他の国との高度人材獲得の競争を見越して、特別高度人材制度及び特定活動における未来創造人材制度の創設をするといった話もあったそうです。

教育未来創造会議
https://www.kantei.go.jp/jp/101_kishida/actions/202303/17kyouikumirai.html
首相官邸 2023年3月17日

2023年3月17日の日本経済新聞によれば、「文部科学省は08年に策定した目標で20年に留学生を30万人受け入れると打ち出した。一度水準に達したものの新型コロナ禍の入国制限で再び下回った。これに関し27年に30万人超に回復させる方針を盛り込んだ。」とあります。

「留学生受け入れ40万人、海外派遣50万人 政府33年目標」https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA165GW0W3A310C2000000/
日本経済新聞 2023年3月17日 13:30 (2023年3月17日 23:00更新)

2.「留学生30万人計画」の目標(2008年)との違い

まず、「留学生30万人計画」について振り返ってみましょう。
「留学生30万人計画」は2008(平成20)年7月29日に骨子が発表されました。
方策の項目として、次の5つがあげられています。
(1)日本留学への誘い~日本留学の動機づけとワンストップサービスの展開~
(2)入試・入学・入国の入り口の改善~日本留学の円滑化~
(3)大学等のグローバル化の推進~魅力ある大学づくり~
(4)受入れ環境づくり~安心して勉学に専念できる環境への取組~
(5)卒業・修了後の社会の受入れの推進~社会のグローバル化

「留学生30万人計画」骨子の策定について
https://www.mext.go.jp/a_menu/koutou/ryugaku/1420758.htm
文部科学省  平成20年7月29日

2008年の段階では、あくまで留学生を増やすこと、日本の大学のグローバル化が主な目的であったようです。

就業に関しては、(5)卒業・修了後の社会の受入れの推進~社会のグローバル化の方策として、就職支援を行うと述べられていますが、数値目標などはありません。まずは留学生数を増加させることが目的だったのだと考えられます。

2023年の新たな策定においては、「(2)在留資格に関する見直しや企業への就職円滑化と定着の促進」が明確に述べられており、留学生が労働者、また生活者として日本社会に根を下ろすことが期待されているように思われます。

3.「日本再興戦略 2016」の外国人留学生の就職支援強化

2016年の「日本再興戦略 2016 ―第4次産業革命に向けて―」(平成28年6月2日)では多様な働き手の参画の一つとして、「外国人留学生、海外学生の本邦企業への就職支援強化」が挙げられています。

ここでは、「外国人留学生の日本国内での就職率を現状の3割から5割に向上させることを目指す」とされ、留学生に対する日本語教育、中長期インターンシップ、キャリア教育などを含めた特別プログラムを各大学に設置することや、企業との連携、関係省庁が連携し外国人留学生の日本国内での就職を50%に向上させるといった数値目標が示されています。

「日本再興戦略 2016 ―第4次産業革命に向けて―」
https://www.kantei.go.jp/jp/singi/keizaisaisei/pdf/2016_zentaihombun.pdf
首相官邸ホームページ (平成28年6月2日)

2023年の策定は、日本経済新聞によれば「日本で就職を望む外国人留学生の割合が6割超である現状を踏まえて目標を定めた」とあり、留学生の要望に応え、国内就職率60%という数値目標が設定されたようです。(今回は卒業年度の留学生の総数から「国内進学者」が除かれているため、2016年次の算出方法から変更されています)

「留学生の国内就職率6割、33年目標 教育未来会議提言案」
https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUA048PK0U3A400C2000000/
日本経済新聞 2023年4月4日 21:20

また、令和5年4月27日の教育未来創造会議の資料には、2033年までの目標が以下のようにまとめられています。(PowerPointのスライドの2枚目の資料より引用)

「未来を創造する若者の留学促進イニシアティブ<J-MIRAI> 」(第二次提言)概要
https://www.cas.go.jp/jp/seisaku/kyouikumirai/pdf/230427gaiyou.pdf
教育未来創造会議 令和5年4月27日

4.まとめ

2023年3月17日の教育未来創造会議で提言された策定をまとめると以下の2点になります。

(1)15年ぶりに留学生の受け入れ人数の数値目標が出されたこと(2033年までに40万人の受け入れ)

(2)2008年の「留学生30万人計画」のときにはなかった、国内就職率の数値目標が60%であると明記され、留学生受け入れの目的が「働く人材の獲得」の要素が強まったこと

5.留学生の国内就職率を60%に引き上げるには…

2018年度は48%であった留学生の国内就職率を、2033年度までに60%に引き上げるには、就職活動の段階ごとに、さまざまな施策が必要になると思います。

現時点で留学生(外国人人材)の獲得を検討されている企業様におかれましては、留学生の採用に前向きであることをメッセージとして発信する機会を増やしていくことが、応募数の増加につながると考えられます。

実際、ASIA Linkで面談(キャリアカウンセリング)の際、企業を選ぶ基準は何かを尋ねると「留学生の採用実績があるかどうか」と答える留学生は少なくありません。やはり、採用実績があることにより、働き続けるイメージを持つことができ、安心感が得られるのではないでしょうか。採用実績のある日本企業は積極的にそれを広報していくことで、留学生の応募数増加につなげられると思われます。

ASIA Linkとしても、留学生が就職して、日本企業、ひいては日本社会で活躍していけるよう、就職活動支援を続けていきたいと考えております。

★留学生を正社員採用を検討されている企業のご担当者様はこちらのページをご覧ください。