1.はじめに
「教職員のための外国人留学生就職支援研修会」とは、外国人留学生の日本での就職を支援するために、「教員」「キャリアセンター等の学校職員」「元留学生を雇用している企業」「日本で働く元留学生」「就職支援企業」の5者の情報や知見の共有を目的としたものです。2017年11月に第1回を開催し、今回で8回目を迎えました。
前回(2024年7月)は、「留学生のキャリアデザインをどう考えるか」というテーマで元留学生を雇用する企業関係者をゲストに迎え、雇用側の視点で外国人社員のキャリアについて考えました。今回は、引き続き「留学生のキャリアデザイン」をテーマに据え、今回は外国人社員側の視点で考えるために、日本で働いている元留学生をゲストに迎えました。キーノートスピーチ、元留学生のパネルディスカッション、参加者全員によるワークショップと、4時間にわたり学び合いました。
以下、当日の内容をレポートとしてまとめました。
留学生の就職支援の一助となりましたら幸いです。
【実施概要】
日時:2025年7月19日(土)13:30~17:30
会場:国士舘大学世田谷キャンパス、ZOOM(ハイブリッド開催)
テーマ:留学生のキャリアデザイン ~就職後の元留学生のキャリアヒストリーを聞く~
主催:株式会社ASIA Link
【参加者】
合計75名
・会場出席者 35名 ※うち7名は元留学生ゲスト
・ZOOM出席者 40名
参加者の職種の内訳(元留学生ゲストを除く 68名)
・教員 32名
・学校職員 25名
・その他(公的機関、教育系企業、フリーランス等) 11名
参加者の所属機関内訳(元留学生ゲストを除く 68名)
・大学 33名
・専門学校 6名
・日本語学校 19名
・その他(公的機関、教育系企業、フリーランス等) 10名
2.プログラム
(1)キーノートスピーチ① 13:35-13:50
「留学生のキャリアデザイン ~前回の振り返り~」
(担当:千葉大学 河野礼実)
(2)パネルディスカッション 13:50-15:10
「日本で働く元留学生のキャリアヒストリー」
パネリスト:日本で5年以上働いている元外国人留学生7名
(ファシリテーター:ASIA Link 小野朋江)
(3)キーノートスピーチ② 15:10-15:30
「日本で長期的に働く留学生のキャリア」
(担当:千葉大学 河野礼実)
(4)ワークショップ 15:45-17:25
会場参加者全員(元留学生ゲスト・教職員)によるグループディスカッション
「留学生のキャリアヒストリーから見えた『私』の気付き・これから」
(ファシリテーター:ASIA Link 相馬幸恵・小川美幸)
(5)振り返りとまとめ 17:25-17:30
(担当:ASIA Link 小野朋江)
(6)交流会、名刺交換会(自由参加) 17:30-18:00
3.キーノートスピーチ①
「留学生のキャリアデザイン ~前回の振り返り~」
(千葉大学 河野礼実)

今年の研修会のキーノートスピーチは2部構成で行いました。最初のキーノートスピーチ①では、千葉大学の河野さんより、昨年のテーマの振り返りが行われました。
昨年の研修会のキーノートスピーチでは、留学生のキャリアについて考えを深めるために、以下のような問いを立てました。
留学生は日本で就職しようとするとき、「日本で働く私」をどのように認識し、意味付けているのだろうか?
この問いについて考えるために、まずは留学生から出てくる様々な声を上げてみました。以下に載せたのは、ASIA Linkで就職面談をする際に留学生たちから出てきた、仕事選びに関する希望の声です。
こうした声を眺めていると、これから日本で働こうとする彼らが、自分なりに、「日本で働く」ということに何らかの意味付けをしよう、意味を持たせようとしている様子が見えてくると思います。
前回は、ここから見えてくる要素として以下の2つの軸を設定しました。すなわち、「〇〇の仕事をする私」と、「外国人(〇〇人)として働く私」です。この2つの軸から、留学生のキャリア志向と働く意味付けの類型化を試みました。

以下の図1が、2つの軸を表現したマトリックス図です。
縦の軸が「〇〇の仕事をする私」で、この意味付けが強い人ほど上に、弱い人ほど下に位置付けられます。
横の軸は「外国人(〇〇人)として働く私」で、この意味付けが強い人ほど右に、弱い人ほど左に位置付けられます。

図1 留学生のキャリアの志向4類型
では具体的に、どのような留学生が、第1象限・第2象限・第3象限・第4象限に当てはまるのか、実際の面談のやり取りの事例をもとに説明します。
ます第1象限です。「〇〇の仕事をする私」も、「外国人(〇〇人)として働く私」もともに強いタイプです。ベトナム人留学生のAさんは、ベトナムに農業機械を輸出する海外営業職を希望しています。
次に第2象限です。「〇〇の仕事をする私」は強いですが、「外国人(〇〇人)として働く私」は弱いタイプです。タイ人留学生のBさんは、化学メーカーの研究開発職を希望していますが、タイとの関わりにこだわりはありません。
つづいて第3象限です。「〇〇の仕事をする私」も、「外国人(〇〇人)として働く私」もともに弱いタイプです。マレーシア人留学生のCさんは、総合職で様々な職種を経験しながら適性を見つけていきたいと考えており、マレーシアとの関わりにもこだわりはありません。
最後に第4象限です。「〇〇の仕事をする私」は弱いですが、「外国人(〇〇人)として働く私」は強いタイプです。中国人留学生のDさんは、日本と中国を行ったり来たりして働きたいと考えていますが、職種にはこだわりがありません。

こうした留学生の様々な声を、4象限のマトリックスに当てはめてみたのが、以下の図2です。

図2 留学生のキャリアの志向4類型(留学生の声を分類)
ちなみに、この4つの象限は、どれがいいとか悪いとか、どれが上とか下とか、というものではありません。実際に、どの象限にいる留学生であっても、内定が決まる人は決まるし、決まらない人は決まりません。
昨年の研修会では、元留学生を雇用する企業の方々に参加いただき、元留学生社員の方々がどの象限に当てはまるか、お話を伺いました。
今回は、この図を起点にして、今実際に日本で働いている元留学生のみなさんに、お話を聞いていきたいと思います。
★キーノートスピーチ①に対するご感想(アンケートより)
・4類型の考え方がよかった。マッチングの際に大切だと感じた。
・4類型は留学生が自己を分析するのにも役に立つと感じた。
・このあとの元留学生の方々のディスカッションで語られた内容の、予備知識となった。
4.パネルディスカッション
「日本で働く元留学生のキャリアヒストリー」
【パネリスト】※お名前は仮称、()内は出身国
*Aさん(中国)武蔵野美術大学・デザイン系専攻 2020年卒業
*Bさん(台湾)北海道大学大学院・文系専攻 2019年卒業
*Cさん(中国)東京農業大学・理系専攻 2018年卒業
*Dさん(インドネシア)明海大学・文系専攻 2017年卒業
*Eさん(中国)早稲田大学大学院・文系専攻 2017年卒業
*Fさん(中国)国士舘大学・文系専攻 2015年卒業
*Gさん(中国)法政大学・文系専攻 2012年卒業
ファシリテーター:ASIA Link 小野朋江
今回の研修会では、日本の大学・大学院を卒業し、日本で働いている元留学生の方々7名に、パネリストとしてご参加いただきました。
日本での就業は、一番短いAさんは6年目、一番長いGさんは14年目です。
当日は、ファシリテーターの小野から、パネリストの方々に質問を投げかけていきました。以下に要旨をまとめます。
(※写真掲載の許可をいただいた方のみ、写真を掲載しています)

【1】就職活動のころの私 ~最初の職業選択・企業選択~
まず最初に、大学・大学院を卒業して就職した当時の、最初の職業選択・企業選択について聞きました。
具体的には、さきほどのキーノートスピーチ①で提示した、留学生のキャリアの志向4類型をもとに、就職活動当時、自分がどの象限にいたか(もしあてはまる象限があれば)を答えていただきました。
7名のパネリストの回答をまとめたものが、以下の図です。
(※研修会終了後に小野が作成)

図3 留学生のキャリアの志向4類型(パネリストの就職活動当時の位置)
第1象限のDさんは、外国人、特にインドネシア人であることを生かしたいという気持ち、そして学生時代にアルバイトをしていた旅行会社の添乗員の経験から、インドネシア人向けの旅行会社を友人とともに起業しました。当初は企業への就職も視野に就職活動を行い、4社で内定を得ましたが、日本留学の目的が「自分の人生を変えること」「母国の家族を養うために早く一人前になること」だったこと、そして「会社員よりビジネスがしたい」という志向もあり、リスクを取って起業を選択したそうです。
第2象限のAさんとCさんは、それぞれ大学で専攻したデザインと造園設計の専門性を生かしたいという明確な職種への希望があり、希望通りの職種で就職しました。外国人であることを生かすという考えはなかったそうです。
同じく第2象限のBさんは、ゲーム業界への強い憧れがあり、学生時代からゲーム翻訳の仕事をフリーランスで行うなど準備を重ねていました。希望職種は翻訳ではなくゲームプランナー一択であり、「外国人として」ではなく「ゲームプランナーとして生きていきたい」という明確な軸がありました。
第3象限のGさんは、就職活動当時は自分がどのような仕事をやりたいのかはわからなかったそうですが、卒業後も日本に残って働きたいという気持ちは強かったそうです。Gさんは、東日本大震災があった年(2011年度)に就職活動を行った世代です。母国の両親を安心させる意味でも、安定した大手で働きたいという軸で仕事を探し、大手小売業の総合職を選びました。
第4象限のFさんは、「外国人としての強みを絶対に生かしたい」という気持ちが強く、「それ以外の可能性はぜんぜん考えていなかった」そうです。海外からの部材調達に初めて挑戦していくメーカーが海外調達職を募集しており、初の外国人社員としてこのメーカーに就職しました。
第3象限と第4象限の中間を選んだEさんは、就職活動の最初は、大学院の専攻を生かしたメディア系業界を受けていたものの、留学生としてこの業界で内定を得ることの難しさを感じるようになりました。途中から外国人としての強みを生かす方向へ軸を変え、メーカーの海外マーケティング職で内定を得たそうです。
ちなみに、昨年の研修会では、外国人留学生の採用を行っている企業4社の方々をパネリストに迎え、この4類型を使って「自社の新卒採用で求める留学生はどの象限ですか?」という質問をしました。
今回のレポート作成にあたり、今年の元留学生パネリストの回答と、昨年の企業パネリストの回答を重ねた図を作成してみました(以下の図4)。

図4 図3に企業パネリストの回答を重ねたもの
中小メーカーA社は、海外営業職採用の場合は第1象限、技術開発職採用の場合は第2象限の人材を求めていました。第2象限はいわゆる「専門職」として、日本人も外国人も関係なく採用しているとのお話がありました。海外営業職に応募してくる人は、第1象限の人も第4象限の人もいて、その境はあいまいだが、仕事をしていくうちに第1象限に変化していくこともある、とのことでした。
大手メーカーD社は、もともと新卒はポテンシャル採用として第3・第4象限を求めていましたが、この2年くらいで新卒採用もジョブ型へシフトし、現在は第1・第2象限を求めているとのことでした。「どの機能であなたは会社でやっていくのか」が社員には求められており、育成もその方向で行われていくことになる、とのお話がありました。
つまり、(昨年のパネリストの事例にはなりますが)メーカーは規模に関わらず、新卒採用の時点から第1・第2象限の人材、つまり「〇〇の仕事をする私」の軸が強い人材を求めているといえそうです。
一方、中堅飲食業のB社と大手小売業のC社は、新卒採用においては、第3象限、または第2象限と第3象限の中間あたりの人材を求めていました。両社とも海外に店舗展開を行っていますが、まずは国内の店舗で業務の中核的な知識・スキルを身に着ける必要があるという育成方法が共通していました。応募してくる留学生については、両社とも第1・第4象限が多いとのことで、海外店舗展開に関わりたいという希望や、日本式のおもてなしやサービスを学んで将来母国に持ち帰りたいという希望を持つ留学生が多いとのことでしたが、そこには求める人材像とのギャップが生じている様子が、両社に共通していました。
ただし、飲食業のB社と小売業のC社も、入社後に勤務年数を重ねるにつれて、社員一人一人が適性・希望に応じた専門性を身に着けていきます。実際にB社は、中途採用はすべて第2象限とのことでした。その意味では、最終的にすべての人材は第1・第2象限に移行していく、と推測できます。
上記の図では、元留学生のEさん・Fさん・Gさんは、就職活動時は第3・第4象限でした。この3名が就業年数を重ねた現在どの象限にいるのか、このレポートの最後に出てきます。
ぜひ最後まで楽しみにしつつお読みください。
ではここからまた、今回のパネルディスカッションの要約に戻ります。

【2】就職したばかりのころの私 ~就職後に感じたギャップ~
次に、就職活動を終えて入社した最初の頃について話を聞きました。具体的には、思っていたのと違った、ギャップがあった、苦しかった、という経験をした方に話していただきました。
メーカーに海外マーケティング職として入社したEさんは、入社直後に感じたギャップ、苦しさとして、「日本語の苦労」と「仕事内容のミスマッチ」を挙げました。
Eさん「就職活動の時に面接を多く受けたりすることで、自分の中では日本語力がかなり上達したと思っていました。しかし、実際に企業に入ってみると、いわゆるビジネス日本語的なところにちょっと苦労しました。
敬語は、ビジネス用語においては形式が決まっていて、パターンは割と限られていると私は思っています。それよりも、どちらかというと言い回し、どうしても話し言葉的な言い回しが入ることによって、人によっては新人なのに偉そうにしゃべっている、失礼だと捉えられてしまうことがありました。
例えば、上司の話に対して、ちょっとそれは違いますよ、私はこう思いますよ、ということを伝えるときに、無意識に「だから」という言葉で始めてしまい、反発しているように捉えられて注意を受けたこともあります。
仕事内容については、マーケティング職を希望して採用されたのですが、人事面談では自分の外国人としての強みを生かして海外関連の仕事をしたいという希望をアピールしました。その結果、海外に関わる部署に配属にはなったのですが、実際の仕事内容はマーケティングとは違うというのを、仕事を始めてみて気付きました。必ずしもやりたい仕事が最初からできるわけではない、というのは入社後に感じたギャップでした。数年後に異動があり、現在は希望のマーケティングの仕事に携わることができています。」
ゲーム会社にゲームプランナーとして入社したBさんは、「日本語の苦労」と「プライドの高さ」を挙げました。
Bさん「私もEさんと同じく、言葉の壁がありました。ゲームはフィクションなので、それを作るにはいろんな表現を使う必要があります。例えば擬音語とか擬態語、「ドカン」とか「パン」とか「シーン」とか、いろいろな表現を使う必要があって、覚えるのが難しくて、そこでけっこう挫折していました。
あとは、クリエイターはみんなプライドが高くて、私もけっこう態度が大きいので、同僚とか上司とぶつかって、その点でもちょっと苦労しました。
今でも、私はそんなに楽だなという感じはなくて、日々なんかもがいている状態なんです。ただ、最近気付いたことなのですが、私の上司と同僚二人が休職して。この業界は仕事がハードなので、この苦しさは必ずしも言語とか外国人とかあまり関係ないかもしれないと。もしかしたらクリエイター特有の悩みかもしれないと気付きました。
日本語での苦しさは、就職して4年間くらい続きました。克服したきっかけは、5年目に出会った上司が、信じられないほど自分のプライドを下げて私とコミュニケーションを取る人で。なんか、この人すごいな、尊敬できるなと思って。そこで自分もちょっと変わったと思います。」

【3】働くなかでの転機 ~転職について~
今回のパネリスト7名のうち、転職経験者が5名いました。
転職の理由・背景について、そのうちの3名に聞きました。
デザイン事務所にデザイナーとして就職したAさんは、この初職の会社で3年ほど働き、転職しました。「仕事の幅を広げたい」というのが転職理由だったそうです。
Aさん「最初に就職した会社では、印刷物を中心としたデザインの仕事が基本でした。次第に、デザインの専門性の幅を広げたいと思うようになりました。例えば、印刷物以外のWEBだったりUXだったり。さらに、制作だけでなくディレクションの仕事も経験したいと思っていて。そういう仕事がめざせる会社に転職したいと考えました。」
メーカーに海外調達職として就職したFさんは、この初職の会社で8年ほど働き、転職しました。「次の目標に進みたい」というのが転職理由だったそうです。
Fさん「最初のメーカーで8年くらい働きました。今でも社長に会いに行ったりして実家みたいな存在です。社長と一緒に海外出張に行ったりと、本当に私はスポンジみたいに社長からどんどん吸収させていただいて成長できました。
8年経って30代前半になって、行き止まりにあたった感覚がありました。定年退職までの自分の先が見えてきて、外に行きたい気持ちが出てきて。ここまで育ててもらったのに外に行くのは無理だという気持ちもありとても迷いました。でも人生がここで止まってしまうと思い、転職しました。
現在働いている商社では、前職で培った能力・スキルを生かすことができていて、前職の社長のおかげで人生がもっと良くなっていると感じます。現職の商社は昇進なども挙手制で、上に行きたいなら自分で手を挙げることができるスタイルで、頑張れば自分がやりたいことを叶えられる環境です。その一方ですごく激しい環境ですが。
自分がなりたい姿が私の中でずっとあって、一段目の目標まで来たら、次はこれを目標にしたいと、そういうキャリアプラン、人生プランかな?それを自分の中で計画しているのです。この会社にいたらたぶんこれ以上先へは行かないかな、という気持ちが、転職の理由だと思います。」
造園会社に造園設計職として就職したCさんは、この初職の会社で3年ほど働き、転職しました。「造園の仕事を続けていってよいのか」という迷いが転職理由だったそうです。
Cさん「最初の会社で3年くらい造園の設計をやりました。30代に入り、これからも造園の仕事一本でやっていくのか、あるいはちょっと造園から離れて他に興味のあることをやってみてもいいのか、と悩み、退職しました。退職したあとは、貿易会社に入社して中国と関係がある商品の企画をやったり、不動産会社に転職して総務の仕事をやったりしました。その後造園業界に戻り、今があります。
造園から一度離れていた間は、その当時自分が興味を持っていた業界をリサーチしてある程度理解した上で、その会社に就職してみて自分に合うかどうかを試しました。その経験から、やっぱり造園業界に戻りたいという自分の気持ちがはっきり見えて、この業界に戻りました。今は、この道を進んでいき視野を広げたい、さらには国際的な仕事もやれるかなと思っています。」

一方で、一度も転職経験のないFさんとGさんのことも気になりますね。
初職の会社で働き続けている理由を聞いてみました。
小売業に総合職として入社したGさんは、今年で勤続14年目です。Gさんはこの会社で働き続けている理由を「いろいろ経験させていただいて飽きない」と表現しました。
Gさん「転職について、これまで考えたことがないわけではないんです。やっぱり、仕事をする中で、今日はすごく疲れたなあとか、この仕事このまま続けていくのかなあ、という気持ちになることがあります。でも、そういう気持ちになったとき、毎回「君は異動だ」って、また新しい仕事とか職種とかになったりするので、もしかして会社は私のことをすごくきちんと見てくれているのではないか、と感じます。いまはスタッフ教育を担当していますが、これまでに営業の仕事、新入社員の教育、海外事業関連なども経験して、社内転職みたいなものかなと思います。いろいろ経験させていただいて、飽きないっていう感じです。」
メーカーに海外マーケティング職として入社したFさんも、Gさんのように社内転職のような気持ちで働いていると表現しました。
Fさん「転職については、一番最初の配属のミスマッチのころからすでに考えていましたし、留学生の中にはある程度の年数働いたら転職を重ねていく人も多いので、やっぱり自分もいつかは、みたいな考えは何回もありました。でも、さきほどのGさんと少し近いのですが、会社都合の異動だったり、自分で手を挙げて異動するというパターンもあって、何回か仕事内容や扱う商材に変化がありました。それによって本当に社内転職のような気持ちで働いているので、まだまだ今の仕事では自分は若手というか、まだまだ経験を重ねていきたいという考えで、この会社にいます。」
一方で、Dさんは、初職が友人との旅行会社の起業という、ちょっとおもしろい経歴です。Dさんは、コロナ禍にこの旅行会社の経営が厳しくなったことから、スタートアップを抜けて他の企業に就職し、その後大手旅行会社に転職して現在も働いています。Dさんにも話を聞きました。
Dさん「私はスタートアップの旅行会社から始めて、現在は上場している旅行会社で勤めていますが、ゆくゆくは自分で起業したいという気持ちがあります。私は留学生としての学生時代から、アルバイトや社会活動などに参加して人脈を作りました。私はこれを種まき活動と言っています。将来のために種をまいて、自分が将来収穫したいときに収穫できるようにしていく。今も、10年、15年先に自分が独立できるように、種をまいている感じなんです。」

【4】外国人であることとキャリア
留学生が日本での就職という道を選択する時、「外国人であること」と「日本で働く」ことはどのように関わっているのでしょうか。
小野から「外国人であることを仕事の中で生かしたいですか?」と質問したところ、「生かしたいとは思わない」が2名(Aさん・Gさん)、「生かしたいと思う」が5名(Bさん・Cさん・Dさん:Eさん・Fさん)でした。
まずは、「生かしたいとは思わない」Aさん(デザイナー)と、Gさん(小売業の総合職)にお話を聞きました。
Aさん「私はデザインの領域で極めていけたら、別に国籍はなんでも構わないと思っています。」
Gさん「私は外国籍だからとかではなく、人間性で勝負したいと思っています。現場で営業の仕事を何年もやりましたので、フランチャイズ店のオーナーさんと日々接していました。最初は外国籍ですし女の子ですし、なんで君の話を聞かないといけないの?みたいな感じがあったんです。でもいろいろやって、結局仲良くさせてもらって。Gさんだから話聞くよ、みたいになって。そういう経験をたくさんさせてもらいました。なので、外国籍とか、そんなに関係ないな、と思います。自分の人間性で今後もやっていきたいと思います。」
次に、「外国人であることを生かしたいと思う」と答えたBさん(ゲームプランナー)、Cさん(造園設計)、Dさん(旅行会社)、Eさん(メーカーの海外マーケティング職)、Fさん(商社の調達職)に、順番にお話しを聞きました。
Bさん「日本のゲームはめちゃくちゃ素晴らしいので、それを日本人と一緒に作りたいんですけど、ただ、クリエイターって他の人と差別化しないと最終的には負けるんです。じゃあ自分の個性をどうやって出すのかって考えるとき、やっぱり外国人であることを生かしたいというのがあります。ただ、今はまだ下積みの時期なので、仲良く日本人と一緒にやりますっていう感じです。でも最終的にはやっぱり、日本人とか台湾人とか中国人とかみんなと、国際的なチームで一緒にゲームを作っていきたい。外国人の長所を生かしたいという感じがあります。
外国人の長所が何かというのは説明が難しいのですが、日本のゲームが素晴らしいのは、そういう文化とか土壌があるから、日本人ならではの視点があるから作れるのだと思います。でもその一方で、日本人から見えない面白いものもあるんじゃないかなという仮説を持っていて。そこでなにか自分の視点を生かせないかと。例えば自分の台湾でいうと、台湾は中国とかアメリカとか日本とかの海外のコンテンツを受け入れていて、様々な国のコンテンツをうまく融合できる視点を自分は持てるんじゃないかな、という感じがある。そこを長所として生かしたいという感じです。」
Cさん「私が今やっている仕事は、造園設計やランドスケープ設計で、日々学び続ける必要があります。例えば最近は水路や河川の設計もやっていて、その技術を調べるには、日本の資料だけでなく中国やアメリカの資料も見るとわかりやすいことに気付きました。また、これからはこの仕事にも国際的に活躍できるチャンスがあるのではないかと気付きました。その点でも、外国人であることは生かしたいと思います。」
Dさん「私は観光と語学教育に関心があります。現在は私は旅行業界で、来日したインドネシア人のお客さんに、日本を代表して日本の魅力を伝えていく仕事をしています。ここでは、インドネシア人であることを生かしたいと思います。
また、語学教育に関しては、インドネシア人は英語圏に留学する人が多いんです。漢字圏となると、中国と台湾が多い。日本はまだまだ留学の選択肢になっていないのです。私は日本に留学した一人として、将来インドネシアで日本語学校を作りたいという夢を描いています。」
Eさん「私は日本で暮らしている以上、自分のアイデンティティの中ではずっと外国人というラベルが存在していると思っています。それは消そうとしても消せないものであって、共に生きていくしかないと思っています。たとえ母国語や外国語を使わなくても、自分の発言とかふだんの仕事の中には、必ず自分の価値観が入っていて、その価値観が自分の生まれ育ちの環境だったり経験してきたことと関係している。以前大学で異文化に関する授業を受けた際に印象深かったのが、人は言語の違いとは別に、違う環境で生きるだけでも異なる価値観や視点を持つということでした。なので、言語を生かすというよりは、私ならではの価値観とか考え方で、その会社の周りの人達に刺激を与えたり、日本のドメスティックな観点だけでなく、より広い視点を提供していくという意味でも、自分のバックグラウンドを生かすっていうことになるんじゃないかと思っています。」
Fさん「私は最初は外国人であることを生かしたいという気持ちがありました。前職はずっとその環境でやってきましたが、今の会社に転職して考え方が変わりました。なぜかというと、人生は「何々人」で生きるわけにはいかないからです。私だからこそできる、そういう気持ちになってきたんです。なに人だからこれができる、なに人だからこれができない、そういった考え方は捨てたほうがいいかなと思いました。そうすることで、自分の心をオープンにして、知っていると思っていたけど、または知っているふりをしていたけれど、実は全然知らなったことを吸収して、人生を重ねていくんだと。
最近、チームを管理することになったのですが、「私は外国人だから」っていうわけにはいかないから、人間として成り立たなきゃいけないなって思ったんです。これは現在の職場で学んだことです。こういうマネジメントだったり、あとは母親にもなったし。子どもに中国人だから日本人だからっていうのはあまりしたくないですね。世界の中で、あなただからこそできるという、そういう子育てをしたいなという部分でも、自分が変わってきたところですね。」

今回のパネルディスカッションでは、教職員の参加者の方々から多くの質問が寄せられました。
その中から3つをピックアップして、司会の小野からパネリストの方々へ質問しました。
いずれも興味深い内容でしたが、ここでは一つだけご紹介します。
【5】外国人としてのネガティブな経験:日本人上司や同僚の、外国人に対するステレオタイプ的な思い込みで、仕事がやりにくかったり、日本人と比べて不利な扱いを受けたと思ったことはありますか?
Eさん「私は中国と日本の間に立つような調整の仕事をしていた時期があります。その時は上司から見たら、私は日本サイドを代表する調整役というポジションですが、中国サイドからしたら、あなたは同じ中国人でしょう?こっちの人間でしょう?というコミュニケーションをされて、その間に立ってどう振る舞うか悩みました。やはり時には、上司から絶対に君はそっち側となんかやっているでしょう?と疑われてしまい、外国人だから、中国人だから信用されないということがありました。
私の立場としては日本サイドの人間として働いているわけですが、でも中国サイドの気持ちもとてもわかります。仕事としての自分とは別に、アイデンティティとしてはやはりどうしても同じ出身だからそちらと心理的に距離が近いということもありました。でも、同じ出身だから話していることは全部正しいというわけでもないので。このような気持ちで当時は仕事をしていました。」
Fさん「実際に今でもありますが、「日本語の意味わかりますか?」って聞かれたことがあります。私は「じゃあ教えてください」と言い返します。なぜかというと、私はあなたと日本語の勝負はしていないからです。きれいな日本語を使えるから仕事ができるというわけではありません。なので、そこに時間をかけて戦う必要はないと思っていて、「じゃあ教えてください」「わかりました、ありがとうございます」と答えます。そこから、自分の話したい仕事の内容についてスタートします。」
【6】日本で働く私 ~日本で働き続けるのはなぜ?~
パネルディスカッションの最後は、この質問で締めくくりました。
今回参加いただいたパネリストは、日本で5年以上働いている方々です。日本で働き続ける理由について、お聞きしました。
Aさん「日本で5~6年働いていると、日本の職場文化や仕事のやり方に慣れてきます。中国に今帰っても、みんなの考え方や仕事の進め方が違うので、たぶん慣れない部分が大きいと思っています。」
Bさん「純粋に日本のコンテンツが好きなので、このコンテンツを生み出す国で暮らしていきたいという気持ちがあります。あとはAさんが言ったような理由もちょっとあって、自分はどこにいてもすごく尖っている人なので、日本人と揉めるだけじゃなく、台湾人とはもっと揉めます。どちらかというと、日本の働き方とか暮らし方のほうが好きだなという感じです。」
Cさん「日本で働くということは、異文化の中でありながらも、落ち着いた生活環境の中で暮らせるというメリットがあります。東京は私が中国で暮らした町と似ていますし。将来に関しては、チャレンジができる環境だと思っているので、ここでの働き方を引き続き体験していきたいと思います。」
Dさん「私はインドネシアの中では学校の成績は悪いほうでした。でも日本は、企業も大学も奨学金制度も、もちろん成績は大事ですが、その人自身を見ているんです。日本は、手足を動かして一生懸命やっていれば、ちゃんと認めてくれる国です。これからも、ここにいて進んでいきたいと思っています。」
Eさん「私は長いスパンでは日本で働いていきたいですが、途中でもし機会があれば海外でも働いてみたいと考えています。基本的に日本で長く働きたい理由は、日本の考え方や価値観が自分に合っていると思うからです。就職活動の初期にメディア業界をめざしていた頃考えていた、日本のすばらしさみたいなものを形にして世界に伝えるというのも、今の仕事でできると考えているので、それをやるためにもまだここで働きたいと思っています。」
Fさん「私の答えは皆さんの参考にならないかもしれませんが、私は日本に来て今年が17年目ですが、なぜ日本に住み続けるのかというのは正直あまり考えていなかったんです。自分が何を欲しいのか、どういうふうになりたいか、そこを軸に考えていて、じゃあ欲しいものはどこにあるのか、どうやって取りに行くのかという目標設定をして。じゃあ頑張ろうって、それをずっと繰り返していたら、いつの間にか17年経って今日になりました。今この質問をされて、改めて考えてみると、このサイクルの裏には、日本の生活のしやすさとか、目標を達成できる、超えていけるという環境があると感じました。」
Gさん「私も知らないうちに、来日して20年くらいになりました。この歳になると、海外にいたほうが今の自由な暮らしを続けることができると思います。帰国すれば、結婚しなさいとかいろいろ言われると思うけれど、日本という海外にいれば、やりたいことができて、食べたいものを食べて、買いたいものを買えて。働く環境についても楽しくやっているので。たぶんこのままでいると思います。」
★パネルディスカッションに対するご感想(アンケートより)
・一言で留学生といっても目指すものや価値観、成長過程は人それぞれであり、興味深かった。
・母国のアイデンティティを大切にしながら、自分として自分らしく生きていく語りに惹かれた。
・7人それぞれにキャリアヒストリーがあって、日本で就職したい留学生にぜひ聞かせたいと思った。
・長く働くにつれて1人1人のキャリア観が変化していく過程が興味深かった。
・多様な元留学生のそれぞれのキャリアヒストリーから、個別具体性と共通項が理解できた。
・4象限に分けて見せてくれたことでわかりやすく、その後、どう変わっていくのか研修会後半に向け期待できた。
5.キーノートスピーチ②
「日本で長期的に働く留学生のキャリア」
(千葉大学 河野礼実)
キーノートスピーチの後半は、さきほどの元留学生の方々によるパネルディスカッションの内容を引き継ぐ形で、「日本で長期的に働く留学生のキャリア」をテーマに千葉大学の河野さんからお話がありました。

この発表の内容は、以下の研究に基づくものです。
河野礼実・横須賀柳子・小野朋江(2024)「日本で長期就業する元留学生社員のキャリア形成に関わる一考察」, 『人材育成学会 第22回年次大会 論文集』, p.165-170
上記の研究では、日本で10年以上働いている元留学生にインタビューを行いました。中には20年近く日本で働いている方もいらっしゃいました。そうした方々が、日本で働き続けるのはなぜなのか、その要因の一端を明らかにした研究です。
今回の研修会のキーノートスピーチの後半では、上記の研究の一部を、参加者の皆さんに共有しました。著作権の関係で、このレポートでは内容のご紹介ができませんが、今回のパネリストの元留学生のさらに先を行く先輩たちが、日本でどのようにして長期的なキャリア形成に至ったのか、それを知る一助になったのではないかと思います。
キーノートスピーチ②の最後は、河野さんからの以下のようなメッセージで締めくくられました。
「毎年、この研修会を行うために、ASIA Linkの皆さんと打ち合わせを繰り返し行っています。今回の研修会を準備するとき、小野さんと、私たちがこの研修会をやる目的ってなんだろうという話になりました。
留学生たちに、日本でキャリアを積んでよかった、いい職業人生だったと思ってほしい。そのために、私たちは研修会を毎年やっているんだよね、ということを、二人で確認し合ったのでした。
さきほどのパネルディスカッションや今回のキーノートスピーチが、皆さんが今支援をしている留学生たちが将来そう思えるような、そんな支援につながる何かしらのヒントになればいいなと思っています。
これから休憩をはさんで後半のワークショップです。お互いの気付きを深めて、今後の留学生支援につながるさらなるヒントを得ていきましょう。私自身もそれを得たいと思っています。」
★キーノートスピーチ②に対するご感想(アンケートより)
・パネルディスカッションの意見とリンクしていて納得した。
・留学生が長期に日本での就労を考えていく上での考え方を知ることができた。
・初期から現在までの変化がよくわかる話だった。留学生が日本で働くときの障害などもわかった気がする。
・勤務先の学生が短期で辞めて帰国したところだったので、長期的に働く理由・背景を考えさせられた。
・「長期的に」が大切なアプローチだと感じた。
・日本で長く働き続ける人達の共通点(ポジティブな理由とネガティブな理由がある)がわかった。河野さんと小野さんが話し合った研修会の目的「いい職業人生だったと思ってほしい」には大きく賛同し、自分がこの仕事を続けているのも同じ思いだと再確認できた。
6.ワークショップ
ファシリテーター:ASIA Link 相馬幸恵・小川美幸
ワークショップでは、会場参加者全員(教職員)の6グループと元留学生グループにわかれ、グループディスカッションを行いました。テーマは「~留学生のキャリアヒストリーから見えた『私』の気付き・これから~」です。

ワークショップのファシリテーターはASIA Linkの相馬と小川が務めました。

第一ラウンドは20分。教職員グループと元留学生グループが共通のテーマで話し合いを行いました。キーノートスピーチ、パネルディスカッションを聞いて、感じたさまざまなこと、自分の中の新たな気付きや、自分の中にあった先入観や思い込みとの違いから生じた違和感などについて、話し合っていただきました。
第1ラウンド終了後、元留学生グループの皆さんには、気付きを発表していただきました。
元留学生Dさん「いろんな話が出ました。日本への留学と生活によって、自分の軸や幅を広げられていると思います。まず、自分が中国人、インドネシア人、台湾人、なに人だから、その国の人としか関わらない、ということはありません。それは関係がないです。日本もそうですし、ほかの国籍もそうです。次に、留学することで、人生を変える、というのがあります。最初からプランがあった方、ノープランの方もいましたが、ノープランの方でも結局はプランを立てるようになりました。それが今、人生を変えることに繋がっています。それぞれの個性を大事にして、日本で活躍ができていると思います。そして、何かしらの目標があって、今、日本にいます。私たちのグループは模造紙に国旗を描きました。最初に言った国籍や国境に関係なく共存ができて、気持ちよく活躍できていると思っています。」

第2ラウンドは、教職員グループと元留学生グループは異なるテーマで話し合いを行いました。教職員グループは「今の留学生たちにとって、どんな行動、体験、学び、出会いが、その後のキャリアを創っていく力につながりそうか?」元留学生のグループは「学生時代のどのような行動、体験、学び、出会いが、今の自分につながっているか?」というテーマで話し合っていただきました。

第2ラウンド終了後、元留学生グループの皆さんには、話し合いの内容を発表していただきました。
元留学生Gさん「皆さんの学生時代の経験を楽しく話しました。そのあと、一番はやっぱりコミュニケーションだったんじゃないか、という話になりました。例えば、全員アルバイトの経験があったり、サークルやイベント、学校で勉強した知識、旅行の経験、インターンシップ、日本特有の飲ミュニケーションとか、その中で仲間や友人ができて、日本語もすごく上達して、会社に勤める能力も身についていったと思います。Aさんは旅行で青春18きっぷを使っていろんなところに行って、いろんな国の方と交流したりとか、皆さん学生時代にいろいろ経験してきたなあと思います。学生時代の行動が『種まき』になったと思います。いろんな人とコミュニケーションして、いろんな種をまいて、今、私たちが楽しく生きられている、私たちを作ってくれたということになると思います。」

最後の第3ラウンドも、教職員と元留学生チームは別々のテーマで話し合いました。教職員のグループは、「今後、私たちは留学生に何ができるだろうか?」、元留学生のグループは、キーノートスピーチの「留学生のキャリアの志向4類型」をふまえて、「4象限と照らし合わせ、今の自分はどこにいるのか? いない場合はどこか?今の軸は何か?」というテーマで話し合っていただきました。

最後は全体共有として教職員グループと元留学生グループの7グループのみなさんにご発表いただきました。ここからのファシリテーターはASIA Linkの相馬が担当しました。

グループごとに発表していただいた内容を簡単にご紹介します。
教職員第1グループ 「人とつながる力をサポート」と経験の意味付け
「人とつながる力をサポートする」という結論になりました。留学生に対して何ができるのか、話し合いの最初で「無力感を感じるよね」というところから始まりました。人とつながる力をサポートする、この力をつけてもらえるようなサポートしか私たちにはできないんじゃないかと思いました。まず、言葉の壁があります。企業側も日本人と同等の日本語能力を求めたりしていて、それはなかなか難しい。ビザの問題などの制度上の問題もある。

そうは言っても、日本で働く以上日本の文化を理解する、日本の企業・仕事を通じて接点を増やして理解度を深めることは必要だと思います。インターンシップに行けばいいのかと言うと、その最初の一歩を踏み出すのもなかなか難しい。頑張って行ったけれど、傷付いてしまうこともある。日本人でも見知らぬ人と接点持って傷付くことはたくさんあるんだけれども、それ以上に感じてしまって自分の壁を越えられなくなってしまう。そういうときに、私たちが必要になってくる。傷付くこともあるが、経験をどう意味付けるかというサポートをする。私たちは留学生の皆さんが、人とつながる力をみんなが持っているんだと信じて関わっていく。そういった相互作用の中でしか答えは見つからないのではないか、という結論になりました。
教職員第2グループ 手近なところから想像する
留学生に対して何ができるか、「出会いの場を創出する」というのが最終的な結論として話に上がりました。キャリア支援・教育として何ができるのか。まず、自分の仕事やキャリアについてイメージをしてみる。

自己分析や企業研究でイメージがしにくい場合は、最終的に日本で家を買ってしまうというような大きな目標を立ててしまう。そういった手近なところから考えてみるのもありだよね、という話が上がりました。
教職員第3グループ 学校の外につなげていく
私たちが留学生の皆さんに何ができるか、「つなげる」「つなげる人を増やす」がキーワードになりました。留学生と日本人学生、留学生と学校の外の人や組織、情報をつなげていく。例えば、大学の中にも窓口がいくつかあるので、大学の中でつなぐこともあると思います。あと、日本語がわからない英語トラックの留学生もいますので、多言語化やSNSの活用、外国人雇用センターなどの外部の組織やサービスにつないでいく。

それから、授業の外のボランティアやアルバイトの紹介、インターンシップなどのいろんな機会につなげていく。それから、何か興味を引く楽しいイベントで先輩や有名人をちょっと出汁にして外の世界とつなげる。こんなことが、私たちにできることなのではないか、と話し合いました。
教職員第4グループ コンフォートゾーンの一歩外に出る
留学生に何ができるだろうかというテーマは、実は第2ラウンドのディスカッションのところと深く関わっておりまして、どういう行動や学びや体験がキャリアにつながるか、というところで、第3グループの方も話されていた「人との関わり」なのではないか、という話になりました。アルバイトやスポーツ、サークル活動における人との関わりを通じて、自分のコンフォートゾーンの一歩外に出る。やはり、そういう体験が留学生だけではなくて、学生の成長をぐっと促すんじゃないかと思います。そこを踏まえたとき、私たちにできることというのは、まずは機会の提供です。例えば、留学生間のコミュニケーションを活性化したり、日本人学生と留学生のコミュニケーションを活性化したりして、彼らを混ぜていくようなイベントですね。
あと、マインドセットの話だと失敗を恐れないということです。日本の教育だと「失敗をしちゃダメだよ」という風に、どうしても刷り込まれていきますが、失敗ではなくて、それはテストであり、トライアルであるというようなマインドを育てていくことが大切なのではないかと。そして、留学生の皆さんの自分の国で当たり前なことや前提を一歩脱却するような勇気、それを持つことの必要性を伝えていく。

同様に支援者である私たちの知識やマインドセットも深めていく必要があります。例えば、ベトナムの大学を卒業後、ベトナムの若者たちはどのようなキャリアを築いていくのが一般的なのか。支援者自身が外国のキャリア形成に関しても知識を深めていかなければならないのではないかという意見も出されました。
教職員第5グループ 教育現場に限らず、企業や支援者とも関わっていく
私たちのキーワードは「コミュニケーション・人間性・信頼関係」になりました。私たちのグループには、介護の専門学校の関係者の方がいらっしゃいます。留学生として来られた方は、自分で選択をして日本に来ているので、もともとモチベーションが高く、学ぶ意欲もあるので、わりと支援がしやすい。ただ、自分の意志ではなく日本に来た人は、モチベーションがあまりない。日本に来たいから来ただけというような人の支援も、やはり難しい。ただ、それでも日本で生きていかなければならない。そのためには、私たちが歩み寄ってしっかりコミュニケーションを取って、徐々に信頼関係を築いていく。その過程の中でモチベーションも出てくるだろうし、日本語学習や仕事への意欲も出てくるのではないかと思います。

私たちができることは少ないのですが、一人の人間としてコミュニケーションを取っていくことが大事なのではないか、という結論が出ました。私たちのような留学生の教育関係者や外国人の支援をしている人は、彼らのことをよくわかっているし、異文化コミュニケーション能力も高くて理解力もある。けれども、日本人ってここだけじゃないんですよね。そうなると、教育業界だけではなく、企業や留学生が就職したあとに関わっていくような人たちも、こういった場に呼んで、こういうことを考えてるんだよ、こういう問題があるんだよということを共有していくことも大切になってくるのではないか、という話になりました。
教職員第6グループ キャリア教育と多様性の涵養
今後の留学生支援で一番大事なのは、やっぱりキャリア教育だよね、という結論に至りました。元留学生の皆さんが自立してしっかり働いている姿を見て、どうやったらそこまで行けるのかを考えました。具体的にはロールモデルを提示したり、実際の仕事を体験させたりすることが大事ではないかと思います。アルバイトと就職して働くのは違うと思いますので、リアルな仕事の経験ですね。あと、日本の企業文化や、たとえば「なぜ、同じ給料なの?」みたいな価値観の違いも事前に伝えておくことがトラブル防止になるんじゃないかと話しました。

また、同じ国の留学生同士で固まってしまうこともあるので、そこをほぐしてあげる。日本人や他の国の人と混ぜて多様性を涵養する。何より、大学側と留学生が早い段階で信頼関係を築いて、相談しやすい雰囲気をつくることが大切です。さらに、日本語力や中長期のキャリア設計も重要。例えば年金とか社会保障の違いもあるので、日本で働くかどうかを一緒に考えられる土台が必要だと思いました。
最終的に、就職後は正解のない世界に入るわけですから、価値観の転換を支援して、日本に定着できるようなサポートが大事だという結論になりました。
元留学生グループ 変えられないアイデンティティ、個人として歩んでいく
元留学生Fさん:皆さんそれぞれが経験を重ねることで、ちょっとずつ私たちの中で軸が変化していったと思います。自分のアイデンティティや生まれつきの、中国人、インドネシア人であることは変えられません。一生変えられないことをしっかり自分で掴んで、その上で体験をして、種まきをして、水をあげる。水をあげると木になる。世界中にいろんな国がありますが、〇〇人、△△人という国籍ではなく、〇〇さん、△△さんという個人として、私たちの人生を歩んでいきたいですね。
相馬:このワークショップが皆さんの振り返りの場になればうれしいなと思っています。職場やお仕事に対して前向きな気持ちになって、本日は帰っていただければ幸いです。本日、司会をしてくださったOさん、今日のイベントについて感想を一言お願いします。
司会の留学生Oさん:私は現役の学生として参加させていただきました。まだ自分には見ることができないキャリアについて、いろいろ話してくださって、とても勉強になりました。教職員の皆さんも本当に心強い支援をしてくださいまして、ありがとうございます。
★ワークショップに対するご感想(アンケートより)
・グループの方々から様々な刺激を受けることができました。貴重な機会を作っていただき、ありがとうございました。
・各グループの話をそれぞれ聞き、共通することが多かった。同じ支援者として考えることは同じだと感じた。
・留学生が日本での就職を実現し、その後のキャリアを自律的に進んでいけるきっかけづくりが大切であると実感しました。
・普段考えていることを口に出して紙に書いてほかの方の意見を聞くと、改めてこれから自分がすべきことの整理になりました。
・最後、アクションプランにつながるまとめがあり、他の方の状況も興味深く有意義だった。
ワークショップ後に、名刺交換会を実施しました。たくさんの出会いがありました。
7.日本で働く元留学生のキャリア ~その変化からみえるもの~
(ASIA Link 小野朋江)
今年の研修会レポートも長文になりましたが、いかがでしたでしょうか。
ワークショップの第3ラウンドで、元留学生チームには、「留学生のキャリアの志向4類型」の中で今の自分がどこにいるかを考えていただきました。
当日、元留学生チームが模造紙に書いてくださった「現在地」と、就職活動当時の位置とを重ねてみた図を、私のほうで後日作成してみたのが以下の図5です。これを最後にご紹介したいと思います。

図5 留学生のキャリアの志向4類型(パネリストの就活当時と現在地)
AさんからGさんまで、7人それぞれの、就職活動当時の位置が白い丸、現在の位置が紺色の丸です。赤い矢印で変化を示しました。
この中で一番キャリアが短いデザイナーのAさん(6年目)は、変わらず第2象限にいます。自分のデザイナーとしての土台作りの真っ最中であることが、Aさんの語りからも窺われました。
ゲームプランナーのBさん(7年目)は、第2象限から第1象限側に少し移動し、現在は第1象限と第2象限の中間地点にいます。Bさんは、この外国人としての自分の強弱の「幅」を矢印で表し、これがゲームプランナーとしての自分の「オリジナリティ」であると表現しました。
造園設計職のCさん(8年目)も、Bさん同様に第2象限から第1象限側に少し移動し、現在は中間地点です。Cさんは、仕事の経験を積む中で生まれた、中国語や英語の資料も調べたほうが仕事に有益だという気付き、今後はさらに国際的なプロジェクトにも関わっていきたいという気持ちの変化を語りました。
旅行会社で働くDさん(9年目)は、自分は日本に留学したインドネシア人の代表であるという意識から、インドネシア人観光客に日本を伝えていきたいという気持ち、そして将来は母国に日本語学校を作りたいという目標を語りました。外国人として働く気持ちの強弱を矢印で表し、第1象限寄りが7割だが、残りの3割は自分が「日本人化」していると表現しました。
メーカーのマーケティング職で働くEさん(9年目)は、就活当時は外国人である強みを生かして働きたいという考えがあり、第1象限と第4象限の中間にいました。現在は、0→1に関わりながらものを生み出す仕事がしたい、日本でならそれができる、それが自分の今のモチベーションであると語り、第1象限と第2象限の中間にいると表現しました。中間地点を選んだ理由として、中国人である自分のアイデンティティは土台であり消えることはないという考えから、4象限ははっきり分割できるものではないという意見を語りました。
商社の調達職で働くFさん(11年目)は、就活当時は中国人としての強みをぜったいに生かしたいと考え、第4象限の中でも右寄りにいましたが、現在は〇〇人であることの意味付けを後退させる形で第2・第3象限の中間へと大きく変化しました。中国からの調達職として経験を重ねた後、現在は日本国内の調達職として日本人のチームをまとめる立場にもなり、「〇〇人として」ではなく、自分はこれから何者としてやっていくのか、自分の強みは何なのか、その再探索・再構築をしているところであるとの語りがありました。
小売業の総合職として働くGさん(14年目)は、第3象限から第2象限の方向へ変化しました。総合職として様々な経験を積むことで得てきた仕事をする自分への自信とともに、〇〇人としてではなく「人間性」で勝負したいと語ったGさん。今回の7人のパネリストの中では、二つの軸の交点、つまり中間地点にもっとも近い位置にいました。
ワークショップのグループディスカッションの中で、元留学生チームはこの4象限の中での変化を「私たちが歩んできた証拠」「足あと」と表現しました。この足あとは、5年後、10年後にどのような道をたどるのでしょうか。
それまでこの教職員研修会が続いていたら、またこの7人の方々のその後のお話が聞きたい、と思いました。

★教職員研修会全体に対するご感想(アンケートより)
・元留学生のお話が勉強になりました。最近就職したいと思っている学生が増えていると感じていますが、学生が自身の日本語レベルを理解しておらず、どのようなアプローチをしてキャリア支援を行えばよいか難しく思っています。
・元留学生の長期にわたるキャリアヒストリーが聞けて良かったです。元留学生の皆様に特にお礼を言いたいです。
・「留学生」と一括りにできない実情もあるという気付きが学びになりました。
・日本語能力のレベルが足りない留学生にどのように進路指導・キャリア教育・日本語能力アップをしていくか。私たち教員が自身も留学生の中に種まきをする必要があるかもと思います。
・就職後の高度外国人材が日本の企業の中で直面する様々な困難をどう支援するか、その場はあるのかについて問題意識を持っています
・今日のワークショップを通して自分の職のあり方を再度考え直す契機となりました。
・実際に日本で就職し、働いている元留学生のリアルな体験談を聞くことができたのは、とても有意義でした。特に、初職での経験やキャリアの積み重ね方、母国との関わり方など、個人の語りからしか得られない視点が多く、支援の現場でも活かせる学びがありました。
・コミュニケーションや、つながる力が最後はテーマになっていました。つまり言語力や、イベントに出て行く積極性、価値観が違っても受け入れる能力、また価値観が違う場面に遭遇した際の対応力を養う必要があることがわかりました。
最後までレポートをお読みいただき、ありがとうございました。
また、当日国士舘大学の会場までいらしてくださった方々、ZOOM中継にご参加いただいた方々もありがとうございました。元外国人留学生のパネリストの方々のご協力にも感謝いたします。キーノートスピーチを担当してくださった千葉大学の河野礼実さん、いつも居心地の良い会場をご準備くださる国士舘大学の横須賀柳子さんにも感謝申し上げます。
来年も7月頃の実施を予定しています。皆さまのご参加をお待ちしています!
(文責:株式会社ASIA Link)
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