1.はじめに
「教職員のための外国人留学生就職支援研修会2024」とは、外国人留学生の日本での就職を支援するために、「教員」「キャリアセンター等の学校職員」「留学生を雇用している企業」「就職支援企業」の4者の情報や知見の共有を目的としたものです。2017年11月に第1回を開催し、今回で7回目を迎えました。
今回は、『留学生のキャリアデザインをどう考えるか』というテーマを設定しました。キーノートスピーチに始まり、企業関係者によるパネルディスカッション、参加者全員によるワークショップと、4時間にわたり学び合いました。
以下、当日の内容をレポートとしてまとめました。
留学生の就職支援の一助となりましたら幸いです。
【実施概要】
日時:2024年7月27日(土)13:30~17:30
会場:国士舘大学世田谷キャンパス、ZOOM(ハイブリッド開催)
テーマ:留学生のキャリアデザインをどう考えるか
主催:株式会社ASIA Link
【参加者】
合計78名
・会場出席者 34名 ※うち5名は企業関係者
・ZOOM出席者 44名
参加者の職種の内訳(企業関係者を除く 73名)
・教員 35名
・学校職員 35名
・その他(フリーランス等) 3名
参加者の所属機関内訳(企業関係者を除く)
・大学 37名
・専門学校 9名
・日本語学校 16名
・その他機関、フリーランス等 11名
2.プログラム
(1)キーノートスピーチ、事例紹介 13:30-14:25
「日本で働く留学生に見るキャリアの志向4類型 ~どのように就職先を選び、その後どうなるのか~」(担当:ASIA Link小野)
(2)パネルディスカッション 14:25-15:35
「企業が考える外国人社員のキャリア ~事例、面接での見極め、課題など~」
ゲスト:外国人社員を雇用している企業の経営者・人事担当者
(ファシリテーター:横浜市立大学 河瀬恵子)
(3)ワークショップ 15:35-17:30
会場参加者全員(企業パネリスト・教職員)によるグループディスカッション
「留学生のキャリアデザイン」を大きなテーマに据えつつ、話し合いたいトピックをその場で募集。この指とまれ方式でチームを結成して議論を深める。
(ファシリテーター:立教大学 河野礼実)
(4)交流会、名刺交換会(自由参加) 17:30-18:00
3.キーノートスピーチ、事例紹介
「日本で働く留学生に見るキャリアの志向4類型 ~どのように就職先を選び、その後どうなるのか~」
(株式会社ASIA Link 小野朋江)
※当日の発表内容を一部加筆修正しました
■はじめに
まずは、今日のテーマである「キャリア」という言葉について考えてみましょう。
「キャリア」の語源は、馬車が通ったあとの轍のことだ、というのは、みなさんご存じかもしれません。
現在使われている、「キャリア」という言葉の定義は幅広く、正社員として就職してから定年までの仕事の経験のみを指すこともあれば、ライフも含めた人生そのものを指す場合もあります。
今回私たちは、日本で働く留学生のキャリアに焦点を当てることから、彼らの人生を俯瞰して見るためにも、仕事だけではなくライフも含むキャリアの定義を使っていきたいと思います。
■キャリアとは
こちらに引用したのは、法政大学経営学研究科教授・小川憲彦さんによるキャリアの定義です。今回はこの定義を使います。
キャリアとは「個人の長期間にわたる仕事を始めとした生活全般における経験の展開のありよう」である、というものです。
ここでのポイントは7点あります。
まず、キャリアは個人の概念であるということ。
そして継続性があること。
過去から未来へ、という時間的方向性があること。
仕事を重視しているが生活も含むこと。
以前の経験との連鎖・関連性があること。
蓄積性があり、経験や能力の深化・向上・発展があること。
そして、客観、つまり出世して管理職になるような外から見えるものと、主観、つまりこの仕事が好きだとかやりがいがある、といった内面的なものの両方を含むことです。
■なぜ「留学生のキャリアデザイン」を扱うのか?
今回の研修会で、なぜ、留学生のキャリアデザインを扱おうと考えたのか?
そこには、私たちが日々留学生と関わる中で感じてきた、問題意識がありました。
私たちASIA Linkは、日本で就職したい留学生と、留学生を採用したい企業をつなぐ職業紹介の仕事をしています。職業紹介の仕事は、留学生が就職活動を始めるところから関わっていくのですが、就職したあとも、時には一緒にごはんを食べに行ったり、あるいは仕事の悩み相談を受けたりして、長く関係が続いていくことも多いです。就職した後の彼らとの関わりの中で、彼らが様々な道をたどっていく様子をこれまで見てきました。そして彼ら自身のキャリアについての考え方が変遷していく様子も見てきました。
改めて、留学生はどのように就職先を選び、その後どうなるのか?というテーマについて考えてみたいと思いました。
まずは、留学生のキャリアのスタートである、就職活動の段階から考えていきましょう。
初めての就職活動、しかも自分の国ではない日本での就職活動に際し、留学生はあれやこれやと悩み、自問自答します。この問いと思考を繰り返すプロセスの中で、彼らの気づきが促され、思考が深まっていく様子を、私たちは見てきました。
■就職活動のプロセスの中での気づき
この自問自答による気づきは、就職活動という実践の中で、急速に効果を発揮します。
就職活動を始めた留学生は、企業について調べ、説明会を聞き、ESに志望動機を書き、面接練習をして、面接を受け、面接に落ちて、なぜ落ちたか考え、他の企業について調べる、というプロセスを繰り返します。
このとき、自分一人での自問自答だけでなく、誰かに問いかけてもらい、それに対して自分の言葉で語ることで、気付きがより引き出されていきます。
たとえば私たちは就職相談の中で、留学生にこのような問いかけをします。
「説明会を聞いてどうたったか? なぜ興味を持った?/持てなかった?」
「面接を受けてどうだったか? なぜ志望度が上がった?/下がった?」
「なぜそう感じたのだと思うか?」
「面接の前と後で、自分の中で何か変化があったか?」
「今回の面接に合格した/不合格だった理由はなんだろうか?」
このようなやり取りの中で、留学生自身にも新たな問いが生まれ、さらにそれを相手に伝えるために言語化しようとします。
「私が働きたいのはなぜこの仕事なのか?なぜこの企業なのか?」
「企業が私を採用するメリットは何だろうか?」
「私は何のために、だれのために働きたいのだろうか?」
「私はなぜ日本で働きたいのだろうか?」
こうして、実際の経験から「気づき」が引き出されていく様子を、私たちは目の当たりにしてきました。
最初は、たまたま参加した企業説明会からスタートした、ふわふわした感じだった留学生が、一つの会社の選考を経るたびに、別人のように変化していくことも、少なくありません。
■経験学習理論モデルから見える「壁打ち相手」としての支援
このような、実際の経験から気づきが引き出されていくプロセスは、Kolbの経験学習理論モデルで説明ができると思います。
留学生は、説明会参加や面接などの具体的な経験のあと、内省的な観察、つまり多様な観点からの振り返りを行います。そして、抽象的な概念化、つまり他の場面でも応用できるように自分なりに一般化、概念化する作業を行い、そこから得られた概念を、また別の会社の説明会や面接などで試していくわけです。
この経験学習においてとくに重要なのは、内省的な観察と抽象的な概念化のプロセスであり、ここでは、本人に語ってもらい、言語化していくことが大切であるとされています。そしてこの部分の壁打ち相手を、私たち支援者は行うことができるのではないかと思います。
この経験学習のサイクルは、「内定」を取ることをゴールにするならば、内定獲得のためのPDCAサイクルのようにも見えるかもしれません。
しかしキャリアの視座に立って、留学生の今後数十年にわたる職業人生のスタート地点であるという意識で見てみると、このプロセスの中で、留学生は自分にとっての「働くことの意味」を考えていくのだ、とも見ることができます。
さらに留学生の場合は、「日本で」というキーワードも重要になります。
つまり、留学生にとって、就職活動の経験学習プロセスは、日本で働く「私」に意味を与えていくプロセスである、とも言えるのではないでしょうか。
今回、留学生のキャリアデザインを考えるにあたり、留学生にとっての「日本で働く意味付け」から、さらにアプローチを行い、考えを深めていきたいと思います。
■留学生のキャリアについての問い
留学生のキャリアについて考えを深めるための問いとして、これを考えていきます。
この問いについて考えるために、まずは、留学生との就職面談で彼らから出てくる様々な声をあげてみました。
ここに載せたのは一部ではありますが、私たちが留学生と就職相談をする際に、彼らから出てくる仕事選びに関わる希望です。
これらの声を眺めていると、彼らがこれから日本で働こうとするとき、自分なりにそこに何らかの意味を持たせようとしている様子が見えます。
今回は、ここから見えてくる要素として、「○○の仕事をする私」と「外国人(○○人)として働く私」の二つの軸を設定し、留学生のキャリアの志向、働く意味付けの類型化を試みました。
■留学生のキャリアの志向4類型
この図が、留学生のキャリアの志向を二つの軸で表現したマトリクス図です。
縦軸が「○○の仕事をする私」で、この意味付けが強い人ほど上に、弱い人は下に位置づけられます。
横軸は「外国人(○○人)として働く私」で、この意味付けが強い人ほど右、弱い人は左に位置づけられます。
では、具体的にどのような留学生がどの象限にあてはまるのか、実際の就職面談の簡単なやり取りの事例から、ご説明します。
第1象限:ベトナム人Aさんの面談事例
海外営業をする、それによってベトナムの社会課題を解決するという、両方の軸が強いタイプ
第2象限:タイ人Bさんの面談事例
研究開発職に就きたいという仕事の軸が強く、タイ人であることの軸は弱いタイプ
第3象限:マレーシア人Dさんの面談事例
総合職希望で特定の仕事への軸は弱く、マレーシア人であることの軸も弱いタイプ
第4象限:中国人Cさんの面談事例
職種にはとくにこだわりがないが、中国人であることの軸は強いタイプ
留学生の様々な声を、マトリクス図にあてはめてみました。
第1象限には、外国人として働く自分と仕事内容の両方を強く意識する海外営業希望などを入れました。
第2象限には、外国人として働く自分にはこだわりがなく、仕事内容を強く意識するエンジニアや研究職希望などを入れました。
第3象限には、外国人として働く自分にはこだわりがなく、仕事内容についても、まずはいろいろ経験したい総合職希望や、仕事内容というよりも特定の業界や会社に注目しているタイプを入れました。
第4象限には、仕事内容への意識は弱いものの、言語を生かしたい、日本と母国を行ったり来たりしたい、といった外国人として働く自分を強く意識するタイプを入れました。
ちなみに、この4つの象限は、どれが上とか下とか、どれがいいとか悪いとか、という意味で作ったものではありません。どの象限にいる留学生も、内定が決まる人は決まるし、決まらない人は決まりません。
そしてこのマトリクスには、バリエーションもグラデーションもあります。
例えば、第1象限の海外営業希望の中には、「自分は文系だから営業職がいいのではないかと思うが、日本語が弱いので国内営業は自信がない。」という人もいます。
第2象限のエンジニア希望の中には、「給与が高いのでITエンジニアになりたい」とは言うものの、ITの勉強はしたことがなく、自ら勉強する気もなく、会社がすべて教えてくれるだろうという人もいます。
第3象限のいずれの軸も弱いカテゴリーには、日本に住むこと自体に意味があり、日本で働けるなら何でもいいという人もいます。
第4象限の言語を生かしたいという人の中には、正直言語は活かしても活かさなくてもいいのだが、日本人と同じ土俵で勝負するためのアドバンテージとして外国人の強みを利用したい、と考える人もいます。
このような留学生の場合、就職活動に苦戦する人が多いですが、一方で、企業との面接でこのまま正直に言う人はあまりいないわけで、そこはしたたかに内定を取っていく人も多いです。
■日本で就職した留学生のその後
このようにして、自分が日本で働く意味付けを行いながら就職し、日本でのキャリアをスタートさせた留学生たちは、その後どうなっていくのでしょうか。
人生にはいろいろあり、本人を取り巻く状況も変化します。考え方、価値観も変わっていきます。
■4つの象限の垣根を超えていく元留学生の事例
ここからは、日本企業に入社したあと、働く経験の中で4つの象限の垣根を超えていく元留学生の4人の事例をご紹介します。
ケース1は第2象限から第1象限へ変化したケース、ケース2は第4象限から第2象限、ケース3は第1象限から第3象限、ケース4は第4象限から第3象限への変化です。
ケース1:中国人元留学生・陳さん(仮名)の事例
陳さんは、機械メーカーに設計開発職として入社し、3年間設計開発の仕事に取り組んでいました。
そのうち、自分の心の中にもやもやとした違和感が生まれてきたそうです。
「中国人として日本で働く意味は何だろうか?」
「中国人でなくてもいい仕事なら、日本人がやったほうがいいのでは?」
「私の存在意義とは?」
陳さんの中で、「中国人として働く私」の意味付けが大きくなっていったと考えられます。
その後陳さんは、中国向けの技術営業の仕事への異動を願い出て、現在は引き続きこの会社で、違和感なく楽しく働いています。
ケース2:タイ人元留学生・アイスさん(仮名)の事例
アイスさんは、化学メーカーにタイ進出の経営企画担当として入社し、6年間勤務しました。その間、タイ子会社の設立に関わり、タイ子会社を軌道にのせるために尽力してきました。
経営企画の仕事自体がおもしろい、と感じるようになったアイスさんは、この会社ではタイ事業の経営企画のみを期待されてしまう、と考えるようになりました。
もっと経営企画の専門性を高めていける環境はないか?と悩みました。
アイスさんの中で、経営企画の仕事をする私としての意味付けが大きくなっていったと考えられます。
その後アイスさんは、コンサルティング会社の経営企画職へ転職し、タイや海外とはまったく関わることなく、働いています。
ケース3:マレーシア人元留学生・タンさん(仮名)の事例
タンさんは、商社の海外営業を希望し、総合職として入社しました。しかし、入社後は海外営業に配属されることはなく、人事総務部に配属されて3年が経ちました。
当初は、海外と関わりたいのになぜ自分が人事総務部なのか?ともやもやし、自分の強みを発揮できていないと感じたこともあったそうですが、入社4年目から少し海外マーケティングも手伝うようになりました。すると、人事総務部にいたおかげで、社内に人脈ができており、これは誰に聞けばいいのか、社内の意思決定機関がどうなっているのかもわかっていたため、仕事がとてもやりやすいことに気づきました。
現在タンさんは、日本人社員と同じ総合職のキャリア形成に満足しているそうです。
ケース4:インドネシア人元留学生・マリアさん(仮名)の事例
マリアさんは、材料メーカーの海外営業として入社し、いま2年目です。
入社して早々、実は日本で数年働いたら海外に行ってMBAを取りたいと、私に相談がありました。
もっと世界を見て視野を広げたい。
もともと日本で長く働くつもりはなかった。とのことでした。
しかし、最近また連絡を取ったところ、マリアさんの気持ちに少し変化が見られました。働くうちに、業界や製品の専門知識は想像より奥が深いことに気づき、数年程度では理解できないと感じるようになったのです。
マリアさんは、この会社でまだ成長できることがあるかもしれない?と、今、揺れている状況です。
■キーノートのまとめと問題提起
キーノートでは、上記のスライドにある6点についてお話ししました。
しかし、まだ疑問は残ります。
キャリアは個人のものであるとは言え、雇用するのは企業です。
留学生の「働く意味」と、企業側の「雇用する意味」を、両者はどうすり合わせていくのでしょうか?
入社した留学生は、働く中でキャリア志向が変化することもあります。変わりゆく個人のキャリア志向に、企業はどう対峙していくのでしょうか?
このあとのパネルディスカッションで、企業の方々から、生の声をお聞きできるかもしれません。
私のキーノートスピーチは、以上となります。
ご清聴ありがとうございました。
★キーノートスピーチに対するご感想(アンケートより)
・留学生を4タイプに分けたアプローチは、これまで漠然と考えていたことが体系的に整理されていたので、今後、自分の思考の軸になってくれると感じた。
⇒ありがとうございます。私自身も思考の軸が欲しくて、今回この類型作りに取り組みました。これまで出会った多くの留学生を思い出しながら軸を見つけていく作業は、苦しいながらも楽しいプロセスでした。(小野)
・留学生を支援するためには、壁打ちになることが重要だと知り、改めて対話の重要性を感じた。
⇒私は最初のころは「壁」になれずに、留学生からのボールを思い切り打ち返してしまっていました。壁打ち相手の役割が少しできるようになってからは、留学生と面談をしているとき、彼らが「ハッとする」表情をする瞬間に時々出会います。この仕事の醍醐味の一つです。(小野)
・体系的に整理されていて、今後自分が相手をする学生の類型化に使えそうだと感じた。これは「留学生だから」成り立つモデルと言うだけでなく、日本人にも当てはまるもののようにも感じた。
⇒私もそう思います。今回のモデルの構想にあたっては、Weickのセンスメイキングの理論を私自身の思考の土台として用いました。そのため、ベースにあるのはアイデンティティです。日本人の場合、横軸が何になるのかを考えるのもおもしろいですね。(小野)
・4類型と4事例も非常に興味深かったが、経験学習における支援のところが非常に印象に残っている。自分の役割について考えた。
⇒実は恥ずかしながら、Kolbの経験学習理論モデルについてちゃんと調べたのはつい最近なのです。このモデルを見たとき、私たちが日々やっているのはまさにこれだ、と感じました。就職活動を通じた学習は、このモデルにフィットすると思います。(小野)
・実際に留学生と関わっていて、確かにこういった分類も可能だと思った。4分類がどうなのか、という点は兎も角として、送り出す側の大学や専門学校等が留学生の進路を考える際に、日本で就職する理由もキャリアパスに関する考え方も決して一律ではなく、多様であることを認識する為には効果的な方法ではないかと思う。
⇒多様であることを認識することの重要性、本当に同感です。支援者側も、ついつい良かれと思って、自分にとっての常識や正しさを目の前にいる留学生に押し付けてしまうことがあります。でも彼らのキャリアも人生も彼らのもの。私たちはその責任は取れません。一歩引いて見るために、このようなフレームワークは有効かもしれません。(小野)
・最後に仰った「面接官の問いかけで留学生が変わる」という言葉が心に残った。まず、面接にたどりつけるよう、支援していきたいと思う。
⇒もともと発表原稿にはなかったのですが、会場で目の前にいらした企業の方々と目が合った時、これはお伝えしたいと思いました。おそらく面接官の方々が考える以上に、学生は面接官からの問いかけに影響を受けます。実際に最近サポートした留学生は、面接官から「あなたはゼロからイチを作りたい人ですか。それとも既存のものを改善したい人ですか」と聞かれました。果たして自分はどちらだろうと考え、自分の気持ちに気づいたその留学生はこう答えたそうです。「既存のものを改善するときに、既存の技術ではできないこともあると思います。そのときはゼロからイチを作りたい。両者は切り離せないものなのではないでしょうか」と。このやりとりはまさに「壁打ち」であったと思います。そして、この面接で「気づき」を得ることができたこの留学生は、他社の選考をすべて断ってこの企業の内定を承諾しました。この人たちと一緒に働きたいと思ったそうです。(小野)
4.パネルディスカッション
「企業が考える外国人社員のキャリア~事例、面接での見極め、課題など~」
【パネリスト】
・株式会社コスモテック 代表取締役社長 高見澤友伸さん
・株式会社プロントコーポレーション 取締役兼常務執行役員 鈴木浩之さん
・株式会社ファミリーマート 管理本部人財開発部副部長 石山哲也さん
・キリンビバレッジ株式会社 人事総務部人事担当部長 久次米章彦さん
ファシリテーター:横浜市立大学 河瀬恵子さん
(以下、敬称略)
今回の研修会では、企業の方々にどんどん聞いていこうという、パネルディスカッションを行いました。信頼している企業の方々にお声がけし、みなさん快く参加を決めてくださいました。
当日は、ファシリテーターの河瀬さんから、パネリストの方々に質問を投げかけていきました。以下に要旨をまとめます。
【企業紹介】事業内容・海外へのビジネス展開状況・外国人社員の雇用状況
鈴木:飲食ビジネスをしています。「PRONTO」というブランドが一番多いのですが、ワインのお店や和カフェなど、多業態で運営している会社です。店舗数は国内外300店舗で、正社員300人のうち外国人社員が10人、特定技能が8人います。アルバイトスタッフは3,000人おり、そのうち300人が外国人スタッフです。1割程度が外国籍の方ということで、まさしくこれからインバウンドの対応や海外への出店を含めて、どう世界と向き合うかというのを議論しているところです。
もともとは、外国籍の方をたくさん採用しようという会社ではありませんでしたが、これからグローバルに出店していくぞ、という中で多様性が大事だという考えになりました。毎年、技人国ビザで留学生を一人二人と採用してきた結果、累計で20人ぐらい雇用し、現段階で10人残って10人退職している状況です。退職原因の多くはコロナ禍でした。一方で、ある程度キャリアが上がっていくと「何をしに日本に来て就職したのか」という考えの深さによって、リタイアしている学生も一定数います。
先程のキーノートスピーチでキャリアの話がありましたが、会社としても、外国人社員のキャリアをどうしていくかについて、外国人が日本人に合わせていく流れから、いかにグローバルな視点で日本人側が合わせていくかという逆の制度設計を、改めて考えていく必要があると思います。
300店舗のうち直営店は100店舗で、ほとんどがフランチャイズチェーン店です。一番の本業は、加盟された企業様にスーパーバイジングしていく人材をどう育てるか、というのが我々のコアな仕事となります。
高見澤:当社は工業用粘着テープのメーカーです。携帯電話やパソコン等のディスプレイ、半導体、電子部品に使われています。電子系事業は中国が強いので、我々の売り上げは、日本と中国が半分ずつです。売り上げの中国比率が高まりだしたころから、少しずつ外国人の採用をしています。
日本国内の従業員は全体で40人ぐらいです。中国に工場があり、そこでは150人ほどが働いています。日本で働いている40人のうち、6人が外国人従業員です。就業期間の長さには個人差があります。メインは中国出身の方、その他スリランカ出身の方もいます。
久次米:私は人事担当として、キリングループ全体を見ています。キリンですので、ビールとかジュースとかワインなどの飲料事業に加え、最近では医薬とヘルスサイエンスに力を入れています。プラズマ乳酸菌など、免疫ケアに関わる商品です。海外展開先は世界中です。2000年に入ってからかなり海外展開を進めており、失敗した例もあるのですが、全体の売り上げの3割くらいが海外売り上げになっています。
今日のテーマでいくと、海外工場の現地採用等ではなく、日本のキリングループ本社での採用についてお話します。グループ全体で年間100人ほど採用しますが、その内海外出身の方は10数人です。この比率はもう少し高めていきたいという考えがあります。日本だけで考えていくよりも、世界でやっていくには海外の方の知見がないと厳しいだろうなという考えから、多様性みたいなところはすごく大切にしています。
石山: 当社はコンビニエンス事業をしており、フランチャイズ展開をしています。従業員が6,000人弱います。
店舗数は国内外合わせて24,000店舗、海外は7,800店舗です。加盟店に店舗を運営して頂くという、フランチャイズ展開をしています。本部が様々なノウハウを提供し、その代わりに店舗ロイヤリティとして売り上げの一部をいただくビジネスモデルです。入社をした場合、日本人も外国人も本部に所属し、スーパーバイジングや商品の企画がメインの仕事となります。
海外展開先は、中国、ベトナム、マレーシアを始めとしたアジア各国です。
組織としては、海外事業に対応する部門があるため、外国人留学生の方はこのような部署で働きたいという希望を持って入社することが多いです。
従業員は全体で5,600人ほどいますが、外国籍の方は、110人ぐらいです。出身は中国、韓国、台湾、インドネシア、タイ、ベトナムなどです。毎年100人前後新卒を採用しており、その内外国人の方は10人程度です。
河瀬:【質問1】外国人材の新卒採用をするにあたり、4つの象限のどこに当たるかを教えていただけますか?もし当てはまらないとしても、方向性としてどこにフィットする人材を採用していきたいでしょうか?
鈴木:当社の場合、圧倒的に第1象限が多いと感じます。たまに第4象限です。外国人という事を意識している方が多いです。飲食業なので、将来やりたいことが、おもてなしを学んで母国に持ち帰っていずれ自分で母国で飲食ビジネスをやりたい、または、弊社の海外店舗、今はまだ台湾と中国しかありませんが、他にも現在出店のお話をいただいている東南アジアの国の話などをすると、海外現地の指導員になりたい、加盟店を指導したいという方が多いです。必ずしもその考えを持った人に来てもらいたいと考えているわけではないのですが、飲食業界はそういう方が多いのかなと思います。
中途採用の場合は、圧倒的にマトリクスの中の第2象限が多いです。技術(スキル)を持ち当社に来て、例えばポスターなどのデザインのスキルや、店舗を作る設計のスキルなどを活かして入社される方が多いです。このようなケースでは、国籍関係なく、どのような経験をしてきており、どのような技術があり、何ができるかというところを見極めて採用しています。入社された方が外国人だった場合は、たまたま合格した方が外国人だったという結果です。
新卒採用では、第1象限が多いのですが、留学生にははっきり「今あなたの国には店舗がないし、今後出るかもわからない。それでもやりますか」と聞いています。留学生の中には、それなら最終的には自分で店舗開発をしたい、自分で店を出したいという思いの強い方もいて、そういう方で合格しているケースもあります。
河瀬:留学生を新卒採用した際の、最初の配属はどうなるのでしょうか。
鈴木:日本人も同じなのですが、新卒については、本人がやりたいことも聞きますが、まず入口はお店に入り勉強してもらいます。目安は店長になる事を目指します。成長が特に早い方は1年、平均で3年は店舗で学ぶ必要があります。店長になるまでの期間には個人差があり、留学生の中にも6年現場にいるケースもあれば、3年目で次のキャリアということで、海外に関わる仕事をやっているケースもあります。本人が海外に関わる仕事をしたいと言っているのに経理に配属するようなことはしません。本人のキャリア志向と違うことをすると離職につながりますので。あくまでも本人が活きるポストに、そのポストが空いた場合は3~4年で配置する、というやり方をしています。
高見澤:まず前提として、当社はほとんど新卒採用をしていません。以前はやっていましたが、名前を知らない中小企業に学生は応募をしませんので、費用対効果が低いのです。
ただし、第二新卒、つまり2年目3年目の若手の方は(転職市場で)動くので、そのような方を中途採用として迎え入れることは多々あります。
その前提でお話をすると、大きく二つに分かれます。
当社はメーカーなので、一つ目は技術開発の仕事です。このマトリクスで言うと第2象限です。基本的にスキルを見て採用しますので、国籍は関係ありません。技術部には日本人も外国人もいます。いわゆる専門職ですね。このような専門職については、社内で育てていく場合もありますが、基本的には本人の志向によって決まります。
そしてもう一つは「外国人採用」という意味合いでの採用、このマトリクスで言うと第1象限と第4象限ですね。当社の電子業界のお客様は、日本国内だけでなく、中国、韓国、台湾、ベトナム、欧州など多岐にわたります。このような国々とビジネスをするにあたり、社内に海外営業としての資源を持つか、または代理店等を使って外部に資源を持つか、この二択になるんです。市場が大きい国については、基本的に社内に資源を持っておいたほうがいいので、中国・台湾という大きな市場については、社内に資源を保持するために、中華圏の方を採用しています。現在、中国出身の営業職が2名いて、もうすぐ1名増える予定なのですが、採用目的は現地の展開です。
そのような意味では、実は第1象限と第4象限の境は微妙です。採用時には第4象限のように見えても、仕事をしていくうちに第1象限に変化していくこともあります。ただし、1と4どちらの象限であっても、中国出身である強みを活かしたい、という考えは、本人と我々の共通の前提になっています。その強みとは、一つは言語です。当然ながら、現地で営業活動を行うためには中国語が必要です。そしてもう一つは、中国のビジネス文化の理解です。非常に端的に言うと、お客様と友達になれることです。このような側面で、中国人としての特性を活かして活躍してもらう、という考えで採用しています。
久次米:キリンの現在の状況としては、マトリクスでいうと上のほうの専門性(第1・第2象限)で採用をしています。当社はこれまで、新卒は日本人・外国人に限らず、この人はチャレンジが出来そうだ、周りを巻き込んで仕事ができそうだというポテンシャルで採用していくという企業でした。
それがここ2年くらいからだいぶ変わってきて、いわゆるジョブ型にシフトしています。例えば、経理の機能、デジタルIT機能、私のような人事の機能など、採用もそうなのですが、すでに中にいる社員も含めて、どの機能であなたは会社でやっていくのか、というのがかなり決められてきている、その方向へシフトしています。
その意味では、日本人も外国人も、このマトリクスでいうと上の象限(第1・第2象限)での採用に変わってきていますし、入社してからもそういう育てられ方をしていくということになるのではないかと考えています。
河瀬:ありがとうございます。大手企業の場合は部門別採用も最近多くなってきている印象です。日本人学生を見ていても、「部門別採用をやっているところにいきたいです」と相談に来る学生が増えています。最初の配属はどのようなお仕事になるのでしょうか。
久次米:外国人の方でいうと、マーケティング、ITデジタル部門、経営企画などです。ただ、やはり現場経験みたいなものは必要だと思うので、少しは、スーパーでビールを売るとか、コンビニエンスストアでジュースを売るような現場経験を積んでもらいたいところはあるのですが、そこまではまだできていないかな、というところです。
河瀬:そうなのですね。一昔前までは、日本企業、特にメーカーの場合は営業からスタートという配属のされ方が主流だったと感じます。今は、それぞれの専門性を高めてもらうことに、新卒の時点からコミットする流れがあるのですね。ありがとうございました。
石山:当社の場合、経営戦略的に近年国内事業の方に重点を置いていたこともあり、外国人採用は行っているものの、企業側が求めているのは第3象限に近いです。一方、学生さんのお話を伺うと、当社が海外にも展開していますので、将来自国に戻って活躍したいという考えの方もいます。第1象限・第4象限ですね。そこは少しギャップを感じることはあります。
ただその中で、当社で海外の仕事に携われなくても、興味がある仕事があるという方は長く定着していかれるのではないかと思います。また、日本語がそこまで流暢ではない方は、比較的第2象限の領域で勝負したいという考えで応募をする留学生が多い印象です。
第2象限について言うと、キリングループさんと同じように、当社も日本人・外国人関わらず、システム分野、デジタル分野等での専門職採用も行っています。外国人の方の応募もあります。
河瀬:【質問2】 新卒採用の面接の際に、その学生のキャリアパス・キャリア志向に関する考え方について、どのように捉えていますか?またどのような質問内容を投げかけていますか。どういう言葉からそれを評価していますか。その際、日本人と外国人で何か違う傾向を感じるかという点も、もし可能でしたら教えてください。
鈴木:難しい質問ですね。私は新卒採用では、最終面接の立ち合いと、そのひとつ前の段階の一対一の個人面接を担当しています。応募者が外国人でも日本人でも、質問内容はあまり大きく変えていません。外国人応募者に対しては、どうして日本の企業で働きたいのかという基本的な質問はします。あとは、なぜこの業界を目指しているのか、何をしたいのかはひととおり聞きます。
これらの質問に対する答えとして、日本人と外国人で大きな違いはありません。しいて言えば、いずれは将来の夢として母国に貢献したいとか、家族をいずれ日本に呼びたい、という答えは日本人にはない部分なので、その方が持っているアイデンティティというか、なぜ日本の飲食業でやりたいかというところは深掘りしています。
ただ、これらの答えに良い悪いは特にありません。メーカーで最初に営業に配属されて現場を学ぶのと同じように、我々サービス業はまず店舗で勤務し、実際にアルバイトを活用しながら飲食業の経営をします。応募に来た方には、その認識があるかどうか、という点を見ています。飲食店でアルバイトの経験があるので応募しました、というふわっとした考えの方は、採用までは厳しいです。
店長というのは小さな経営者のようなものですので、予算がつき、売上利益を会社にコミットしていきます。スタッフ人材を育てて、お客様に直接サービスを提供していきます。
プランドイメージの基礎にもつながるとても重要なポジションなので、その職務を全うするつもりがあるかどうかということを面接の中で聞きます。「そこまではやりたくない、私は少し現場を経験したら本部に行きたい」という方は採用していません。
本部に行かせるかどうかは会社が判断することなので、いずれは母国に帰って店舗を運営したいという方の場合には、その覚悟が本当にあるのかどうかを確認しています。そうやって強い気持ちで入社した社員には、入社して現場に入っていろいろ壁にもぶつかりますが、何とか会社としてもその留学生の将来の夢のためにアシストしたいという考えで、メンターをつけて、入社3年目くらいまで伴走していきます。
高見澤:当社の海外営業職の募集は、もともと中国語ができる方しか応募してこないような求人内容です。そのため採用面接では、応募者の方々も自分たちの最大の差別化要因である外国人である点をアピールし、かつ当社もそこを期待して採用します。それ以外は、外国人と日本人で質問内容に差があるか、差をつけているかと言うと、それは全くありません。
また、面接時に本人のキャリア形成、またキャリアに対する考え方を重視しているかというと、決してそうではありません。当社は新卒採用ではないので、なんらかのステップアップのために応募してくる方がほとんどですが、その目的は様々です。今まで地方の田舎のほうで働いていて、東京で働きたいが、都心はハードルが高そうなので東京郊外にある当社に応募するという方もいれば、いままでこういう仕事をやってきたが、コスモテックでこの仕事がやりたいと力説する方もいます。その他にも様々な応募者がいて、応募目的は多岐にわたります。
ただ、一旦採用すれば、教育コストを2~3年払うわけです。その分のコストを払う価値があるか、つまり長く一緒に働けるかどうか、ということを、私たちは面接でよく見ています。
また、私たちは40人の会社なので、一つのチームとして行動しなければならないケースもたくさんあります。そのため、違う表現をすると、40人という小さなコミュニティの中に参加できる方なのかどうか、というのを非常に重視して見ています。キャリアに対する考え方もその一つです。チームメンバーになって一緒に働くつもりがあるどうか、というところは、見ているのかなと思います。
久次米:面接での見極めというところでいきますと、外国籍の方の場合、ちょっと極端な例でいうと国連で3年間ぐらい経験を積んでいましたなど、日本の学生がしていないような経験を積んでいる方もいます。そもそも、自分の国から日本に留学してきて、ここで生活している時点で、良い経験を積まれている方が多いなという印象です。明らかに日本の方とは違うだろうという点はあります。
外国の方のキャリアの価値観については、今日のキーノートスピーチにもあったように、日本にいてもなかなかこれ以上成長できないとか、海外でMBAを取りたい、という方もいると思うんです。しかし、そこを面接で見極めるかというと、たしかにこの人は当社で少し経験を積んだら出ていきそうだなと感じる方もいるのですが、そこを見極めたとて、あまり意味がないというかですね。出ていくのは、キリンに魅力がないからだと割り切っているところもあるので、いかに自社に魅力をつけていくかという方にかなりシフトしています。
石山:当社も、面接での質問において日本人と外国人で差をつけて見ているかというと、それは全くありません。さきほどの久次米さんと同じで、まず日本に来て留学をしているという経験自体を、一般的な日本の学生よりも、私自身は優位に見ています。留学生には、そのような経験や積極性を含め、ご自身のことをしっかり面接でお話しいただければと思います。
キャリアの観点でみた場合には、日本人に対しても外国人に対しても、「なぜ当社なのか」「なぜファミリーマートを選ぶのか」をしっかりと語れるかどうかを見ます。また、「5年後、10年後、どのようなキャリアを描いているのか」を質問で聞いたりします。とりあえず日本で働いて次のキャリアステップに行きたいのか、それとも本当に当社の事業の中身を具体的に5年後10年後語れるかどうか、これはけっこう見ています。
また、プロントさんと同じように、当社も直営店で1年間は店舗勤務があります。やはり現場を知らないといけませんので、販売職ができるかどうかという点も見ます。それから、さきほどの5年後10年後のキャリアにも関わるのですが、本人なりのキャリアの時間軸ですかね。いろいろな経験をたくさんしたいという学生さんもいるのですが、たとえば1年間店舗勤務があったり、一つの部署に配属して、1年や2年ですぐ違う部署に変われるかというとそんなことはなかったりしますので、そのフィット感も見ています。
河瀬:【質問3】 入社後、外国人社員がキャリアを構築する際、生き生きと働いてもらうために何か取り組んでらっしゃることや気をつけていらっしゃることはありますか?組織の見解でも、個人の見解でもけっこうですので、課題感も併せて教えていただけますか。
鈴木: コロナ禍があって最近はちょっとできていませんが、外国人社員の方の特徴として、社長など経営層とコミュニケーションを取りたいという方が多いこともあり、外国人の社員を集めて役員陣と懇親会をしたことがあります。そういう場で、直接経営のメッセージを伝える機会を作るとか、それを意識していたことはありました。
ただ一方で、長く会社の中で勤めるにあたって、入社後の店舗配属の際には、外国人にはやや手厚いフォローが必要です。店舗には、学生アルバイトやパートの方もいます。様々な属性の方と関わる中で、人間関係がうまくいかないケースもありくじける方が多いので、どうコミュニケーション取っていくかというところが課題です。ここは日本人よりも外国人に対しての方が、やや手間をかけなければいけません。通常の新卒にもメンターをつけていますが、外国人社員に対し伴走をどれだけするか、日頃の悩みをどれだけ聞くか、このメンターの役割は重要です。日本人社員と比べると時間も手間も少しかかるのですが、メンター制度は続けています。
それと懇親の機会ですね。飲食業なので、飲食店の雰囲気が好きで当社に来ている方が多いので、年1回なり2回なり、パーティのような機会は頻度を上げて行っています。
河瀬:メンター制度というお話がありましたが、外国人の方から、こんな悩みが出ることが多いということはありますか。
鈴木:本人の言葉の能力にもよるのですが、やや日本語に不安のある方からは、相手(日本人)がなぜ急に怒っているのか、私は悪くないのに、というような相談がよくメンターにあるようです。その際、日本人としてはこういう感覚なのだ、という日本人の心のおももちのようなことを懇切丁寧に説明をします。そのようにして、ああそういう反応なのか、日本人はそう考えるのかと気づく機会を多く持つことで、徐々にコツをつかんでいくことをサポートしています。コツをつかむのは、日本人でも時間がかかりますけれども。
河瀬:言葉の問題と文化のギャップの部分ですね。
鈴木:そうですね。それから、プライベートで母国出身者とだけ付き合っている外国人社員には、日本で働く以上は日本人のいろいろなことを知っておいたほうがいいので、積極的に日本人の方とも付き合っていくことを勧めていると、メンターから聞いています。
高見澤:当社では、おそらく他のパネリストの3社の方々とはまったく違うアプローチになると思います。40名の会社のため、いまこの教室にいる人数くらいの規模です。そのため、私がやっていることは基本的に観察です。
どのように仕事をしているのか、他者とどうコミュニケーションを取っているのか観察をし続け、何か問題が起こりそうなら、解消するためのテコ入れをどこかでします。これを常にやり続けています。これは中小企業ならではのテクニックですね。もうアートの世界です。
それから、当社もフォーマルな制度としてメンター制度は取り入れています。これは日本人も外国人も同じで、外国人特有のものではありません。
河瀬:なるほど、トップからの直接的な働きかけということかと思います。一方で、現場として上司と部下の関係性や先輩と後輩の関係性など、社員さん同士の関係性というものもあると思うのですが、その中で、社員さん同士で自立してやっていただくような、そういう取り組みもあるのでしょうか。
高見澤:社員の自立という観点では、中小企業はいわゆる文鎮型組織であり、一人のトップがいて残りはフラットという関係性になることが多いのですが、中間管理職をどうつくるか、ということは最近意識しています。その中間管理職を育てるために、彼らにどうアプローチするか、上からだけでなく横からも下からもアプローチさせて、自立を促すということも、これまたアートの世界でやっていますね。
やはり、全員に対する教育を直接やっているという感じでしょうね。
河瀬:中間管理職の育成ですね。日本人側をどう啓発していくか、育成していくかというアプローチでもあると思います。ありがとうございました。
久次米:この会社だと成長できるよ、ということは大事にしています。
今日のキーノートスピーチにもありましたが、入社後3年くらいするとだんだん慣れてきて、本人に成長したという実感も湧いてきて、別の会社にジョブホップしていこうと考える方も出てきます。その時に、また違う事業の部署へ行ってもらったり、違う領域の業務で成長していく機会を提供したりすることで、やる気がなくなって辞めていくことがないようにしたいと思っています。
給与が原因で離職となると仕方がないですね。やはり給与面では欧米企業にはかなわないので。ただ、本人自身が成長できるかどうかは大事にしています。
外国人社員も日本人社員も、少なくとも半年に1回は上司と部下で面談を実施しています。今の仕事の成熟度合い、成長度合い、今後やってみたいことのすり合わせをし、そこをキャッチしていくようにしています。
石山:新入社員で入社した場合、1年程度店舗で勤務をしますので、専属のトレーナーをつけて1週間に1回1on1を行い、成長支援を行います。国籍関係なく行っています。外国籍のトレーナーもおります。
全社的な取り組みとしては、1年に1回上司とキャリアの面談を行っています。この面談の中で、本人の意向の確認や、希望部署を出すこともできるような仕組みを持っています。
また今年度から、本部にキャリアカウンセリング室を設けています。キャリアコンサルタントの資格を持った者と自由に相談できるような環境を作りました。まだ認知が広がっていないのですが、そういう取り組みもスタートしました。外国籍のキャリアコンサルタントはまだいないので、今後はそこも必要かなと思っています。
また、入社後、店舗研修が終わって正式配属になって慣れてきた頃、3年目や4年目ですね、その時期に外国籍の社員も含めてキャリアのプログラムを入れています。その後、30歳、40歳、50歳になったところでも、キャリアデザインを描こうというようなプログラムの提供もしています。
河瀬:パネリストのみなさま、ありがとうございました。四社四様に、様々な取り組みや志があることがわかり、大変興味深かったです。
改めて、パネリストのみなさまに拍手をお願いいたします。
★パネルディスカッションに対するご感想(アンケートより)
・日頃、企業側のお話を聞く機会が多くないためリアルな話は非常にありがたかった。企業規模の違いがあったからこそ、幅広いお話が聞けた。
・企業さんの規模によっても異なるアプローチがあるようだが、どちらも優れた人材の定着に様々な工夫をされていることがわかった。
・企業ごとの取り組みや事例を知ることができ、大変参考になった
・日本人と外国人で特に分けていないというのが意外であるとともに納得できるものだった。
・留学生たちは日本人と同じ土俵に立たされていると実感した。
・それぞれ業種や規模感の異なる企業のトップあるいは人事担当の方のリアルなお考えと社内の制度や雰囲気等を知ることができ、面白かった。学生向けにも企業説明会だけでなく、このようなパネルディスカッションの形で企業の方の考えを知る機会を提供してみたいと思った。
・企業での個別事例と一般論が確認できてよかった。
5.ワークショップ
ファシリテーター:立教大学グローバル教育センター 教育研究コーディネーター 河野礼実さん
ワークショップでは、会場参加者全員(企業パネリスト・教職員)によるグループディスカッションを行いました。「留学生のキャリアデザイン」を大きなテーマに据えつつ、話し合いたいトピックをその場で募集しました。
ワークショップのファシリテーターの河野さんです。
まず、話したいトピックを参加者がそれぞれ付箋に書いて、壁の模造紙に貼っていきます。
次に自分が話したいテーマの付箋の周りに丸のシールを貼っていきます。
多くのシールが貼りつけられたテーマごとにテーブルにわかれ、話し合いが行われます。ファシリテーターの河野さんが短い時間で、テーブルとテーマを決めていきます。
以下のトークテーマとテーブルでおよそ1時間の話し合いが行われました。
①日本語レベルが低い学生の就職サポート(ZOOMで中継をしたテーブルです)
②就活について理解不足な学生たち
③特に留学生に必要なキャリア支援
④特定技能制度の活用方法
⑤産学官連携
⑥就職後のことを見据えた支援
学校教員、学校職員などの支援者と企業関係者が一緒になり、それぞれの所感や課題について話し合いました。
最後に意見の共有タイムです。グループごとに発表していただいた内容を箇条書きで簡単にご紹介します。
①日本語レベルが低い学生の就職サポート(ZOOMで中継をしたテーブルです)
・グループの7人中5人の方が日本語学校の教職員で留学生の就職支援をしている
・初級レベルからなかなか伸びない学生への就職指導が難しい
・特定技能ビザによる就職支援の是非、技術・人文知識・国際業務ビザが取得できなければ帰国させる、という方針のままでいいのか
河野さん:日本語学校や専門学校は2年間しかなく時間が限られている。日本語の勉強に加えて就職活動をするというのは大変なことだと思う。
②就活について理解不足な学生たち ※企業の方にもご参加いただきました
・学生の三分の二は「日本で働ければいい」、三分の一は「帰国をする」(大学も日本語学校もそのような割合)
・サービス業(観光・飲食・ドラッグストア)でアルバイトしてそのまま正社員雇用されるケースも多い
・学生は母国の就職活動のロールモデルと日本の仕組みが違うと理解するまでに1年ぐらいかかったりする
・大学の場合、留学生に特化したカリキュラムになっていないので理解を深化させられない難しさがある
河野さん:留学生向けのキャリアデザインの授業を担当したことがあるが、学生が来てくれないといったことがある。情報を届けて、そこにいくメリット、そこに行かなければ困ること、フックがないと留学生が波に乗れないことがある。やってよかったことはキャリアセンターと留学生が対応している部門と連携して、就職活動の流れを一年生の段階でインプットしたりするのはよかったと思っている。
③特に留学生に必要なキャリア支援
・留学生の就職の意識づけへの対策
・「帰国」や「進学」を選んで就職をあきらめてしまう留学生も少なくない
・キャリアや日本文化に関連する授業を行う
・個別相談で全学生と面談したり、外部委託をして就職活動のガイダンスを行ったりしている
河野さん:(留学生のボランティアスタッフのCさんを呼んで)留学生として、こんな就職支援があってよかった。こんな支援があるといい、ということはありますか。
留学生Cさん:キャリアセンターが、まず自己PRなどを添削してくれて書類選考が通過できた。とても助かった。留学生の中には同国人で集まって、日本語が全然話せない人もいる。それはキャリアセンターの問題ではないと思う。
④特定技能制度の活用方法 ※企業の方にもご参加いただきました
・日本語学校としては就職率をアップさせたい。技術・人文知識・国際業務の在留資格は一部の優秀な人は取得できるが、そうではない学生もいるので、特定技能制度を活用していければと考えている
・本人の希望とマッチする会社に入らないと、すぐ挫折して辞めてしまったり、転職となってしまうので、はじめのヒアリングは学校側できちんとする必要がある
・よくあるのは「何でもいいから日本で働きたい」「特にこだわりはない」という人。彼らを支援するのはすごく難しい
・多額のお金をかけて日本に留学するのだから、なぜ日本に留学するのか、なぜ日本で働きたいのか、留学時点で整理しておいてほしい
・日本語教師の仕事は日本語を教えることなので、就職支援はサブ的なものになってしまう
河野さん:「とにかく日本に行きたい」だけではその後の定着も難しい。人手不足業界では特定技能が助けになる人材なので、今後もさらに議論される分野だと思う。
⑤産学官連携 ※企業の方にもご参加いただきました
・企業の方から大学との連携の難しさがある。企業側からすると、大学組織のどこにアプローチをすればいいのかわからない。官公庁としては中小企業の採用の大変さをどう解消していくのか、といった課題がある。大学などの教育機関としては留学生に仕事理解、企業理解、業界理解、日本で働くイメージを持てるように企業に協力をしてほしいが、企業にとっては採用に結びつかないならメリットがない、ということになってしまう。それぞれの立場が違うので連携の難しさはある
・連携することで企業側が採用できたり、教員が話しても響かないことも企業の方に話していただくことで学生の目が輝くこともある。連携にはメリットもある
・学校は入学段階から、学生をどう育てて、どう社会に送り出していくのか、という課題がある
河野さん:産学官で話し合い、つながりができてよかった。誰が話すかはとても大きな問題。私が授業で話したことは「へえ」と学生に受け流されてしまうが、学生は企業の人から聞くと「企業の人が先生と同じ話をしていた」と言って納得して帰ってくることがある。
⑥就職後のことを見据えた支援 ※企業の方にもご参加いただきました
・学生は学校のキャリアセンターやキャリア支援の制度を使っていない
・大学1・2年生への指導と、3・4年生への指導は異なる
・同国人で情報をやりとりして、就職活動がうまくいっていないケースが見られる
・産官学で連携して留学生を支援していくことが求められている
・就職後、メンバーシップ型になじめず、ギャップが生じているケースがある
・留学生が社会人になってから、キャリアカウンセリングや相談できるところが必要ではないか
河野さん:なじめないとき、制度はあるけれど、ソフト(心)の面で距離ができてしまっていることがある。制度を作るだけでなく、仕組み、ソフト面に働きかけていく必要がある。
★ワークショップに対するご感想(アンケートより)
・様々な立場の方と意見交換でき、今の自分にできることについて改めて考えることができた。
・様々な立場からの意見が聞けたので視野が広がった。連携の必要性を強く感じた。
・学校、都、企業の現状認識ができて良かった。
・オンライン参加者へ配信いただいたグループ①のディスカッションの内容はある意味、切実な現実を巡って日本語学校側と大学のスタンスの違いが浮き彫りになっており、色々と考えさせられた。
・留学生が、セミナーを実施しても参加率が良くないことや、個別相談に来るように促しても学生が来ないのは、言語面でうまく相談できないため、二の足を踏んでいることなど、意識できていなかった点の気づきを得られた。
・オンラインだとやはり参加が難しかったが、①グループの話が聞けて参考になった。
・スタイルと進行が素晴らしかった。
ワークショップ後に、名刺交換会を実施しました。たくさんの出会いがありました。
★教職員研修会に対するご感想(アンケートより)
・日本語会話力がおぼつかない留学生に日本の就活について説明したり、自己PR指導が充分にできない。学科教員、日本語課程教員との情報共有・連携が重要と考える。
・このように様々な教育機関、企業が集まったセミナーは初めてで、大変勉強になった。日本語学校からの就職は日本語力や学生の真剣度も様々なため、難しいが皆さん同じような感想をお持ちだとわかり、安心した。
・大学のキャリアセンターに勤務しており、内定がゴールではないが、留学生については日本の就活についての知識を与える講座ばかりで、キャリアデザインの部分にじっくり焦点を当てた講座はできていないのが現状。学科の先生とも協働で、低学年のうちから授業に組み込んでじっくり考えて言語化することを繰り返す必要があると感じている。
・企業側参加者の顔ぶれが多岐にわたっており、貴社の人脈の強さを感じた。そして、外国人留学生を受入れる企業の姿勢についてはメンターを配置する等のソフト面から人事評価制度自体をグローバル化対応する等まで、企業側の対応も規模や業態によって様々であることわかり、興味深かった。
・就職後を見据えたキャリア支援の必要性を改めて感じたので、今後どのように留学生と関わっていけばよいか、深く考えていきたい。
・ただ職を得るだけではなく、求職者一人ひとりがキャリアビジョンを描いた上で選択していくことは大事だと思いつつも、なかなか日頃の就職サポートで丁寧に関わりきれていなかった。改めて大事にしなくてはいけない部分だと再認識した。
最後までレポートをお読みいただき、ありがとうございました。
また、当日国士舘大学の会場までいらしてくださった方々、Zoom中継にご参加いただいた方々もありがとうございました。企業パネリストの方々にもご協力を感謝します。そして、直前にパネルディスカッションのファシリテーターをお願いしたにも関わらずご快諾くださった河瀬さん、いつも企画の段階から関わり、当日は楽しいワークショップも運営してくださる河野さん、会場の心地よい場づくりにご尽力くださる横須賀さんにも、心より感謝いたします。
来年も7月頃の実施を予定しています。みなさまのご参加をお待ちしています!
↓ZOOM中継を担当した小川と、ボランティアスタッフの留学生Cさん♪↓
(文責:株式会社ASIA Link 小野、相馬、小川)
教職員研修会の事前アンケートの結果はこちらより、ご覧いただけます。
■留学生の就職支援をしている教職員の方々に聞きました ~キャリアデザインを意識した指導方法と課題について~
■「外国人留学生のキャリア」をめぐる教職員アンケート調査 ~留学生と教職員に認識の差~
■ASIA LinkのWEBサイトはこちらです。
■留学生の求人情報は「留なび」をご覧ください。