第6回「教職員のための外国人留学生就職支援研修会」レポート

1.はじめに

「教職員のための外国人留学生就職支援研修会2023」とは、外国人留学生の日本での就職を支援するために、「教員」「キャリアセンター等の学校職員」「留学生を雇用している企業」「就職支援企業」の4者の情報や知見の共有を目的としたものです。2017年11月に第1回を開催し、今回で6回目を迎えました。

最初の3回は国士舘大学の教室をお借りし、その後は新型コロナウィルス感染予防のため、ZOOMで2回実施いたしました。今回は4年ぶりに再び国士舘大学の教室をお借りし、またZOOMでも会場を中継するハイブリッドでの開催となりました。

今回は、『留学生の就職に必要な「日本語力」とは?』というテーマを設定しました。当日は、留学生が就職するにあたり、必要な日本語とは何かについて、活発な意見交換が行われました。

以下、当日の内容をレポートとしてまとめました。
留学生の就職支援の一助となりましたら幸いです。

【実施概要】
日時:2023年7月8日(土)13:30~17:30
会場:国士舘大学世田谷キャンパス、ZOOM(ハイブリッド開催)
テーマ:留学生の就職に必要な「日本語力」とは?
主催:株式会社ASIA Link

【参加者】
合計64名
・会場出席者    34名
※うち6名はゲスト(企業関係者、元留学生)
・ZOOM出席者 30名

参加者の職種の内訳(ゲスト除く)
・教員   30名
・学校職員 19名
・大学院生 2名
・その他  7名

参加者の所属機関内訳(ゲスト除く)
・大学     35名
・専門学校   11名
・日本語学校  9名
・企業・その他 3名


2.プログラム

(1)キーノートスピーチ(基調講演) 13:30-14:05
「留学生の就職における日本語力の壁とは?」(担当:ASIA Link小野)

(2)ゲストによる自己紹介 14:10-14:30
ゲスト:
・岡谷精立工業株式会社 管理部部長 飯田三枝子さん
・株式会社コスモテック 代表取締役社長 高見澤友伸さん
・株式会社プロントコーポレーション 取締役 鈴木浩之さん
・株式会社Recursive Planning and Administration Manager オクタイ・クルトゥルシュさん(※トルコご出身の元留学生でもあります。当日は企業の採用ご担当と、元留学生、両方の立場からお話しいただきました)
・ミャンマーご出身の元留学生 現在、教育機関勤務
・ベトナムご出身の元留学生 現在、メーカー勤務

(3)インタビューワークショップ 14:35-16:20
ファシリテーター:
立教大学 グローバル教育センター 教育研究コーディネーター 河野礼実さん

(4)教育機関における取り組み事例紹介 16:25-17:15
ファシリテーター:武蔵野美術大学 教授 三代純平さん(専門:日本語教育学)
パネリスト:
・横浜市立大学 キャリア支援コーディネーター 河瀬恵子さん
・横浜市立大学 グローバル都市協力研究センター 日本語担当准教授 鈴木綾乃さん
・奈良先端科学技術大学院大学 教育推進機構キャリア支援部門 特命助教 谷口直也さん
・リンゲージ日本語学校 教務主任・キャリア支援担当 岡田悦子さん

(5)まとめ(担当:ASIA Link小野) 17:20-17:30

(6)交流会、名刺交換会(自由参加) 17:30-18:00


3.キーノートスピーチ(基調講演)

「留学生の就職における日本語力の壁とは?」
(株式会社ASIA Link 小野朋江)

■はじめに
私たちASIA Linkでは、日々留学生と面談を行い、日本企業の経営者や人事担当者とも相談しながら、両者のマッチングを行っています。この仕事をする中で、「就職するために必要な日本語力、働くために必要な日本語力とは何なのか?」という問いを、常につきつけられます。なぜなら、留学生と面談をしていると、「自分の日本語力で面接に合格できるか心配です」「営業職に興味がありますが自分の日本語力では無理だと思います」といった不安の声を多く聞きます。一方留学生と面接をした企業からも「この留学生の専門分野は弊社の業務にマッチしていますが、日本語力が足りず残念ながら不合格としました」「国内の顧客ともやり取りをする仕事なので、もう少し日本語会話力がほしいです」といった声があります。

留学生が就職活動を行う段階になって彼らの前に立ちはだかる、この「日本語力の壁」とは何のか?古いようでいて新しい、シンプルなようでいて深いこの問題を、改めて皆で考えてみたいと思い、今回の研修会のテーマとしました。

本日は、ゲストとして、留学生を雇用している企業の経営者や人事ご担当者、そして現在日本企業で働いている元留学生の方々にも参加いただいています。そこで、本日の研修会では、「日本語力」に対して言語学や教育学の切り口ではなく、働く現場の視点からアプローチしていきたいと思います。私のキーノートスピーチでは、とくに企業側の視点から、「日本語力の壁」を考えてみたいと思います。

留学生の多くは、日本の大学や専門学校などの入学試験に合格し、日本語で勉強しています。生活も日本語です。しかし、いざ就職活動となったときに、彼らの前に日本語力の壁が立ちはだかります。つまり、学生と社会人の間に、この日本語力の壁があるわけです。このとき頭に浮かぶのは、「学生と社会人で何が違うのだろうか?」という素朴な疑問です。

学生と社会人の違いの中に、日本語力が壁となる因子があるのではないか?これから、この因子についてお話ししたいと思います。

■留学生が就職する・働く上で、日本語力が壁となる6つの「因子」
今回、6つの因子をご紹介したいと思います。この「6つ」という数字には、実は意味はありません。今回、この日本語力の壁を考えるにあたり、これまで関わってきた多くの留学生や企業の事例を思い起こし、6つの因子を思いつきました。そのため、因子はもっとあるかもしれません。ぜひ、ご意見・ご批判もいただければと思います。

【第一の因子 立場の違い】
まずは第一の因子です。これは私が最初に思いついた因子で、学生と社会人は立場が違う、という最もわかりやすい因子です。

学生は、学校に学費という対価を払い、教育サービスを受けます。立場としては消費者でありお客様です。一方、就職すると、立場は労働者になります。労働者は企業から報酬をもらい、かわりに労働を提供して企業の利益に貢献します。

日本語力は、学生であっても労働者であっても必要ですが、その日本語力の使用目的は立場とともに変化します。学生生活での日本語力は、学習効果を高めるために必要ですが、その恩恵を受けるのはほかならぬ自分自身です。一方、労働者として働く上での日本語力は、業務遂行の効果を高めるために必要であり、それはもちろん自分のためでもありますが、一義的には雇用主である企業のためです。

成果の求められ方や評価も、学生と労働者では違います。学生は、日本語力が不足していると、授業についていけなかったり、悪い成績を取ったりするかもしれませんが、成果を出すことは必須ではありません。あくまで自分自身の問題です。また、成績として現れる評価も、多くの場合試験やレポートだけで判断されるのではなく、授業態度や本人努力の姿勢、同級生との協力などのプロセスも含めて評価されます。

一方、労働者の立場になると、成果は必ず求められます。そして評価も多くの場合期待される成果を出せているかどうかが重視されます。がんばってるね、だけでは評価されないのです。つまり、学生(お客様)に求める日本語力と、労働者に求める日本語力は違う、ということが言えそうです。

【第二の因子 研修・育成計画】
第二の因子は、研修・育成計画です。企業は、新入社員を採用すると、業務を遂行するための専門知識や技術を身に着けてもらうために教育訓練を行います。企業は研修・育成計画をもとに、予算、スケジュール、教育担当者の人員配置などを事前に考え、準備をします。

しかし、この研修・育成計画には、通常「日本語教育」は含まれていません。外国人社員だけを取り出して、日本語教育のための特別なコスト(時間、人員、外部委託、教材開発など)をかけることは、企業にとって負担であり、リスクでもあります。

実際に、ASIA Linkで留学生を紹介している、ある大手メーカーの人事担当者は、以下のように言っています。

もちろん、留学生を雇用している企業の多くは、留学生への「配慮」はしています。以下のグラフは、日本企業で働いている(働いたことがある)元留学生に、ASIA Linkが昨年実施したアンケート調査の結果です。「あなたが働いている(働いたことがある)日本企業では、外国人社員に対して日本語面のサポートや配慮がありましたか?」という質問に複数回答で答えてもらったところ、55%が「わからない時は丁寧に教えてくれた」を選択し、35%が「わかりやすく/ゆっくり話してくれた」を選択しました。「日本語の研修があった」と答えたのはわずか8%でしたが、一方で「日本語面のサポートや配慮がなく大変だった」と答えた人も12%だけでした。

外国人社員の日本語力について「配慮」はしているが、日本語の研修まではできない、というのが、多くの企業の現実であることが読み取れると思います。

【第三の因子 教育訓練投資の回収】
さきほど私は、外国人社員だけを取り出して日本語教育のための特別なコストをかけることは、企業にとって負担でありリスクでもあるとお話しました。なぜリスクなのか?これが、第三の因子、教育訓練投資の回収の問題です。

以下のグラフは、企業における従業員の勤続期間と教育訓練コストの回収のモデル図です。縦軸が教育訓練コストと従業員の貢献、横軸が従業員の勤続期間です。赤い線は教育訓練コストの変化を示しています。通常、企業は従業員の採用初期に多くのコストをかけて新人教育を行います。そして、勤続期間が経過するにつれて従業員は業務を習得していくため、教育訓練コストは下がっていきます。もう一つの青い線は従業員の貢献の変化を示しています。通常、新入社員は入社したばかりの時期は貢献が低いですが、次第に業務を習得して貢献度が高くなります。T1の時点でコストと貢献は交わり、逆転します。そしてT2の時点でAの面積とBの面積が同じになります。この時点にきてやっと、企業は教育訓練の投資分を回収できたことになるわけです。当然、企業としては教育訓練コストを抑えつつ、従業員に早く貢献してもらえたほうが、つまりT2の時期が早く来てくれたほうが利益につながりますし、長期に定着してくれたほうがBの面積が大きくなり続けるため、同様に利益につながります。

では、日本語教育が必要な外国人社員が入社して、企業が日本語教育のためのコストを上乗せした場合、どうなるでしょうか。以下の図は、教育訓練コスト(赤い線)を高い位置におき、上記の図よりもコストがかかった状態を示しています。

上記の図から、教育訓練コストの回収時期(T2)が、後ろへずれ込んでいることがわかると思います。実際に、ASIA Linkで留学生を紹介して、内定に至らなかった専門商社の人事担当者からは、上記の図にあるようなコメントがありました。

では、日本語力の足りない外国人社員が入社したけれども、特別な日本語教育は行わずに教育訓練コスト据え置いた結果、貢献度が上がるまでに時間がかかった場合は、どうなるでしょうか。以下の図を見てください。

貢献度が上がってくるまでに時間がかかり、同じく教育訓練コストの回収時期(T2)が、後ろへずれ込んでいることがわかると思います。実際に、一時期インド人ITエンジニアを多く採用していたが思うような成果が出ず、現在は外国人社員はN1取得者に限定して採用しているというIT企業の人事担当者から、上記の図にあるような話を聞きました。

このように、企業にとって、採用した従業員の教育訓練コストと貢献のバランスは非常に重要であり、外国人社員の日本語力のレベルは、このバランスに影響を与え、企業にとってリスクにもなり得るのです。

【第四の因子 意図の理解】
これまで見てきた3つの因子は、労使関係の側面から見た日本語力の壁、と言うことができると思います。そしてこのあとお話していく4つ目からの因子は、もう少し本質的な、職業人としての日本語力の壁です。4つ目の因子は、意図の理解です。

以下の図の、面接官と留学生(男性)のやり取りを見てください。いまいちかみ合っていない会話ですね。面接官がなぜこの質問をしたのか、その意図は、この学生の入社後の通勤について聞くことでした。しかし、留学生のほうは面接官の質問の意図に気づいていません。一方、以下の図の右側の留学生(女性)の受け答えを見てください。この留学生は、面接官の質問の意図を考えた上で、面接官が求めている内容に沿って答えています。

提示した事例は少し単純な例ですが、実際に留学生と面談をしていると、こちらの話や質問の意図を考えずに返答してくる、ということは多いです。以下の図の留学生(男性)との面接のような場面では、なかなか意図が伝わらないというのは面接官にとってストレスとなります。

このような時、面接官は以下のようなことを考えます。
「入社後もこういう感じなんだろうな。手間がかかりそう…。」
「外国人だから文脈が伝わらないのかな?」
「日本語の理解力の問題かもしれない?」
実際に、このようなケースでは、面接官からASIA Linkへ、「日本語のコミュニケーションに時間がかかる」「質問の意図と違う答えが返ってくる」というフィードバックが返ってくることもあります。

このような話をすると、「行間を読め、空気を読め、というほうが間違っている」「含意を汲み取るのは日本独特の文化では?」という議論になることもあります。しかし、ここで言いたいことは、「意図の理解」はもっと本質的な思考であるということです。「面接官はなぜこの質問をするのか?」「私はなぜこの勉強をするのか?」「私はなぜこの仕事をするのか?」・・・。このように様々な物事の意図を意識し、考える思考のクセを付けていくことはとても大切だと思います。そして、この「なぜ?」を意識するようになると、面接でも面接官の意図が見えてきます。

上記の図の右側の例を見てください。面接官は一見バラバラな質問をしているように見えますが、この意図を考えてみると、実は面接官は定着するかどうかを心配しているのだ、という意図が見えてきます。そしてこの「意図の理解」は、面接合格のためだけのテクニックではありません。このような思考の積み重ねで、個別具体の事象・経験を「メタ的」にとらえることができるようになります。そして、このような普遍的な本質をとらえる思考力は、幹部候補に期待される思考力でもあるのです。

【第五の因子 話の論理性】
5つ目の因子は、話の論理性です。以下の図の面接官と留学生のやり取りを見てください。面接官は卒論の内容から、留学生の専門分野の中核を知ろうとしていますが、この留学生の答えはとても分かりにくいですね。私たちASIA Linkでも、留学生との面談で卒業論文や卒業研究の内容を質問しますが、とても分かりやすく整理して話してくれる人もいれば、こちらが理解するまでに長い時間がかかってしまう人もいます。

このような場合、論理的に組み立てて話すことができていないことが多いです。私たちは留学生と面談をするとき、「面接官の頭の中を整理してあげるようなつもりで」話すようにアドバイスしています。大きなカテゴリーから、だんだん詳細な内容に下りていくようなイメージです。

実際に、上記の図のように、説明がわかりにくい留学生と面接をした面接官は、以下のような気持ちになります。

「論理的思考力が低そうだなあ」
「説明がすごくわかりにくい。本当に授業を理解できてるの?」
「日本語の会話力の問題かもしれない?」

論理的思考力を育てるのは簡単ではないと思いますが、私たちが留学生と接する中で一つ感じていることは、日本語でしっかり卒論や修論の作成に取り組んでいる学生は、面談をしていても論理的な話し方ができている人が多いということです。ただ一方で、最近は卒論を書かなくても卒業できる大学が増えている印象です。話す言葉よりも、書く言葉は、論理的組み立てがシビアに現れます。日本語で論文を書くというプロセスは、論理的思考力と、日本語で論理的に話す力を育てるのではないか、と感じています。

【第六の因子 対人関係】
最後の因子は、対人関係です。やはり言語力は、人と人とをつなぐコミュニケーションのツールであり、対人関係にとって重要な役割を持ちます。そして、会社という組織で働く以上、この対人関係は重要な因子です。

実際に、入社後の社内外の人々との関係構築のために、留学生の日本語力を重視する企業側からの声は強いです。たとえば、
「この留学生は社内のメンバーとうまくやっていけるだろうか?」
「まわりとうまくコミュニケーションが取れず、社内で孤立してしまわないだろうか?」
「この留学生の日本語力だと、上司や先輩に負荷がかかりそうだなあ」
「この留学生の日本語力で、お客様に失礼な対応にならないだろうか?」
と言った懸念の声です。

企業の面接官は、その留学生が実際に社内のメンバーとして働く様々な場面をシミュレーションして、利害関係者(ステークホルダー)との関係作りに支障がないかどうかも見定めようとしているのです。

以上、留学生が就職する・働くための日本語力の壁について、6つの因子をご紹介しました。働く上でなぜ日本語力が求められるのか。なぜ日本語力が壁となるのか。私からのお話は、今日の研修会の問題提起、話題提供として捉えていただければ幸いです。

それでは、次のプログラムでは、ゲストとして来てくださっている企業の方々、元留学生の方々に各テーブルに入っていただき、教職員の方々から直接たくさん質問していただくワークショップを行います。「日本語力」をめぐって、働く現場では何が起こっているのか。ぜひ現場の声を直接お聞きいただければと思います。

ご清聴ありがとうございました。

★キーノートスピーチに対するご感想(アンケートからお声を抜粋)

・6つの因子を、労使関係と職業人としての能力、2パターンに分けたことで、よりどの因子がボトルネックとなっているのかケーススタディーに当てはめて考えてみたいと思うようになった。また、この因子を理解することで、より相互理解(留学生は企業側の事情、企業は留学生側の事情)を測れるのでは(少なくともベースになるのでは)と感じた。(大学関係者)

・6つの因子はわかりやすかったが、留学生側だけが頑張らなければならないのか?という点は疑問だった。特に因子4。(大学関係者)

・日本語力の壁を6因子から説明した点。特に、日本語が「できる」学生であっても、意図の理解、論理性といった部分で評価が低くなる可能性がある点に気をつけるべきだとあらためて感じた。(大学関係者)

・研修コストの回収のお話が具体的で興味深かった。意図の理解については、留学生に限らず、日本人学生にも共通の問題。(大学関係者)

・大学生と社会人の違いからの説明で、非常に納得のいくものだった。(大学関係者)

・N1・N2の違いが、単なる日本語力だけの話ではなく、仕事の中に落とし込むとかなり差が出るという点が現実的だった。(大学関係者)


4.インタビューワークショップ

ファシリテーター:
立教大学グローバル教育センター 教育研究コーディネーター 河野礼実さん

6つのグループ(5人程度)にわかれ、前半と後半でインタビューワークを実施しました。企業の方が3名、元留学生の方が3名、それぞれが前半と後半に各テーブルに入り、参加者である教職員の方々より、インタビューを受けてくださいました。ZOOM参加者の方々には中継をご覧いただきました。

1.作戦会議(20分)
参加者は、企業の方と元留学生の方への質問を考えます。

2.前半ターム(25分)
各グループに企業の方、元留学生の方が1名入っていただき、参加者(教職員)よりインタビューをしていただきました。

 


3.休憩(10分)

4.後半ターム(25分)
各グループに企業の方、留学生の方が1名入っていただき、参加者(教職員)よりインタビューをしていただきました。前半に企業の方が入ったグループには、後半は元留学生が入りました。

 

5.インタビュー内容を全体で共有
Padlet(https://padlet.com/)というアプリを使い、会場とZOOM全体で情報を共有しました。

最後は各グループの代表者にインタビュー内容を発表していただきました。

★Padletの内容を一部抜粋して掲載

■企業の方からのコメント
①留学生(外国人)の採用について
・留学生を採用するようになったのは中国マーケットの拡大が目的。20年前に中国出身の方を採用
・もともといる外国人の社員が、新しい外国人の社員を呼ぶ
・経営や経済、マーケティングなどを専攻している留学生を採用することが多い
・個人の資質だけでなく、出身国の市場規模を考慮している
・市場の現地言語ができるなどの利点から外国人を採用する

②留学生に求める日本語力
・採用するか迷う日本語力は、こちらの期待した返事が返ってこないとき
・入社後に必要な日本語力は、「聞く」「話す」で、成長を左右する要因となる
・留学生のみなさんには、日々、日本語を学び、積極的に日本人と話す勇気をもって日本人と話してほしい
・営業担当はN1を取得しており、海外業務をやってもらっている。営業はN1が最低限必要

③留学生が職場に定着するために必要なこと
・採用は誰をパートナーに選ぶか、言語能力ではなく、合うかどうかを重視。ただし、相性は6割外れる。でも、外国人社員の「やる気スイッチ」を探す
・定着するかどうかは会社や既にいる社員との相性で決まる
・地頭や論理性、人の助言へ耳を傾けることができるかどうかも大事なポイント
・外国人特有の部分は少なく、人柄や個性が大事
・会社側は環境を整えていくことが必要
・公平性を担保する。日本人と外国人の区別なく住宅手当、お弁当(豚肉ナシなどの配慮)を準備するなど
・外国人の社員に期待することは、お客さんに寄り添うこと

■元留学生からのコメント
①就職活動について
・日本で就職活動を成功させるには、早く準備を始める必要がある(特に大手企業)
・日本人学生向けの就職ガイダンスは3月だったのに対して、留学生向けは6月だった。早めにサポートしてほしい
・就活中は、日本の企業が何を求めているのかわからなかった
・就職活動をする際、自分がやりたいことを考えておくことが必要
・就職活動のときは、日本語で情報収集をして、大学の就職課やエージェントなどからの紹介を活用
・SPIやWEBテストに関しては大学からのサポートがあった

②日本語力について
・面接での失敗は、質問と違う答えを言ってしまったこと
・業務上の日本語運用で難しいのは漢字を含めた専門用語
・研究者として一次資料を読む能力、分析力が就職の際に役に立った
・敬語を意識しすぎると変な日本語になるので、丁寧語で話せるようにしたほうがいい
・語学力の前に、本人の持つ基礎的な力があって、その上に日本語がついてくることが大切
・大学院に来る留学生は本来とても優秀で、プライドの高い人も多いが、日本語がうまくできないことで落ち込むことがある。その時に、受入れ企業側に精神的な支援をできる仕組みがあると良い
・企業に言いたいのは、研究のための日本語と仕事のための日本語は違うので、間違えながら身につけていくことは一般的なこと。ただ、留学生は自信をもって日本に来ている人が多く、失敗に落ち込み、帰国する人が多い。間違いの指摘以上に、研修や仕事をしながら日本語が伸びている点を認めてポジティブな声をかけることが必要
・事業拡大のために外国人を採用して、海外の顧客と緊密な関係が作れるのは留学生採用の魅力

③入社後に活躍するには
・日本で生き生き働くためには、自己研鑽を継続すること。また、わからないことがあればすぐに質問できる職場環境
・会社の同僚は優しいが、上司は厳しい。「私は負けないぞ」という努力が必要
・日本人の「遠回し表現」はいらないので、はっきり直接言ってもらいたい。そのように自分から日本人社員に伝えた
・社会人になると学生のように守られないので、自分がしっかりしないといけない

★ワークショップのインタビューワークに対するご感想(アンケートからお声を抜粋)

・企業側1名、元留学生1名に直接インタビューできる貴重な機会となった。個人的にはより実際の事例を学ぶことで、他学や企業側の事情を知る事ができたことは大きな収穫だった(大学関係者)

・参加者の方々が自分の所属機関と異なっていたため、質問の視点が違っていた点、興味深かった(大学関係者)

・モチベーションの高い、とても優秀な元留学生だったので、一般的な留学生とは異なると感じた(日本語学校関係者)

・元留学生の方のお話は日本語はあくまでベースであって、目標・目的・意識・行動力、意志の強さが就職を左右すると感じた。企業の方のお話からも、最終的には「人」と「人」とのつながりであることが感じることができた(大学関係者)

・本学にはキャリア支援が必要な修士・博士学生も多いため、オクタイさんのお話は大変参考になった。大学としては、学生を社会に送り出して終わりという部分もあるが、卒業後、実際に管理職として働きながら感じられる部分・課題についてお聞きすることができ、有益な時間となった(大学関係者)

・今回はZoomで参加。各グループでどんな質問、回答があるのか、よく見えるツールを活用いただき、臨場感も感じられよかった。また、最初は音声が聞こえなかったが、途中からマイクを当ててくださって、よく聞こえるようになった。お手配ありがとうございました。(大学関係者)


5.教育機関における取り組み事例紹介

ファシリテーター:武蔵野美術大学 教授 三代純平さん(専門:日本語教育学)

ファシリテーターである三代さんの司会のもと、パネリストの3名の方々が順番に所属校の留学生に対する就職支援・日本語支援について紹介してくださいました。以下に、当日の資料を掲載します。

パネリスト:
・横浜市立大学 キャリア支援コーディネーター 河瀬恵子さん
・横浜市立大学 グローバル都市協力研究センター 日本語担当准教授 鈴木綾乃さん

 

パネリスト:
・奈良先端科学技術大学院大学 教育推進機構キャリア支援部門 特命助教 谷口直也さん

 

パネリスト:
・リンゲージ日本語学校 教務主任・キャリア支援担当 岡田悦子さん

★教育機関における取り組み事例紹介について(アンケートからお声を抜粋)

・大学における留学生支援として、キャリア支援窓口、国際交流部門、教員の相互連携が重要であることをあらためて感じた。個人支援に力を入れることが大変であっても、取り組んでみたい。(大学関係者)

・日本語学校での就活事例がもっと聞きたかった。大学にはキャリアセンターがあり、そこで学生サポートや企業とのつながりが作れていることがわかり、うらやましいと思った。(日本語学校関係者)

・横浜市立大学のようにキャリア支援関連の方と日本語教員の方とが密に連携されている機関はレアケースで、多くの場合、各署が独立している傾向があることを再認識。理想的な姿を念頭に置いて地道に努力する必要がある。(大学関係者)

・各大学の取り組みの具体例は大変興味深く、一つ一つの取り組みが深い話なので、機会があれば、もっと時間を使って伺いたい内容だった。例えば、メンバーが希望した内容を分科会でディスカッションするような感じも良いかと。(専門学校関係者)

・他学の事例を共有頂き、それぞれの取り組みや課題を理解できたことは非常に勉強になった。また「コーディネーター職がどうしても個人のスキルに頼る属人的な部分が否めない」「ある程度システマチックに分業出来るのか?」という点は、一つの正解は無く、有期職員の専門性に頼っている日本の大学事情を考えると、今後も大きな課題となるかと改めて思った。(大学関係者)

 


6.まとめ

(株式会社ASIA Link 小野朋江)

本日は、「留学生が就職する・働くために必要な日本語力とは?」というテーマについて、様々な立場の方と一緒に、この問題を考えることができたと思います。
私からの冒頭のキーノートスピーチでは、企業の視点からお話しましたので、最後にもう一度企業の視点から一言添えてまとめとしたいと思います。私自身も経営者として社員を雇用しています。おそらく雇用する側の想いとして共通しているのは、「社員にハッピーになってもらいたい」ということです。うちの会社のメンバーになってくれたからには、仕事を通じて成長してほしいし、活躍してやりがいを感じてほしい。「この会社に入って良かった」と思ってほしい。
今日参加してくださった企業関係者の方々も、同じ想いの企業さんばかりです。入社してくれた留学生には、ハッピーになってほしいのです。そしてそのためには、業務を行うため、活躍するための日本語力が必要であることも、また事実です。
日本語力の問題については、これからも一緒に考えていくことができましたら幸いです。

お忙しいところ、ご来場いただき、またZOOMでご参加いただきまして、ありがとうございました。また、来年、みなさんと活発な議論ができればと思います。

★研修会参加のご感想(アンケートからお声を抜粋)

・就職前の留学生にとってビジネス現場はどうしても想像の域を越えないといった問題と常に向き合わざるを得ないのが現実だが、少しでも教育領域と企業領域がより密にリンクさせることができるとよいと考えている。(大学関係者)

・様々な立場の方からお話を伺えて、大変参考になった。留学生を支援する仕組みを周囲をどう巻き込んで作っていくかを自分自身の課題として取り組んでいきたい。(大学関係者)

・キャリアコンサルタント的視点では、留学生の就活中、入社後のメンタルケアに興味を持った。日本語や面接などの「失敗」が続くと日本人学生よりも自信喪失の落ち込みが深いように思う。逆に、何かのきっかけで「自信をもつ」事が出来れば、反動で非常にポジティブに作用し、学生自身がもっているポテンシャルの高さがより引き出される事が分かり、メンター、キャリアコンサルタント、入社後の指導係などのサポートの重要性を感じた。(大学関係者)

・最後にフロアの方がおっしゃっていた、「やさしい日本語+日本人側の英語力向上、歩み寄りによって外国人がもっと働きやすい環境を作れる」というのが印象的。それを目指すための取り組みを、今日参加しておられた方々といっしょに目指していけるような場があればぜひ参加したい。(専門学校関係者)

・就職支援と日本語教育は表裏一体。しかし、大学という組織の中では授業は授業(教員)、就職支援はキャリアセンター(事務)、という縦割りがまだまだ強固。日本語の教師とキャリア支援の事務系スタッフとのコラボが上手くできていることが真に外国人留学生にとって有益な支援を実現させる大前提なのだと感じた。背中を預けれる相棒が必要だと痛感した。(大学関係者)

・留学生の方が日本の企業はフィードバックが少ないと言っていたのが印象に残った。日本語だけでなく満足して仕事を続けていくための支援のヒントになると感じた。また、優秀な人材であるのに日本語力の問題で日本企業に定着できないという現状を、教育機関と企業側が共有し、共に問題を解決していこうとする姿勢が必要だと思った。(専門学校関係者)


(文責:株式会社ASIA Link 小野、小川)


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