第4回「教職員のための外国人留学生就職支援研修会 ~コロナ禍における留学生の就職支援~」レポート

1.はじめに

外国人留学生の日本での就職を支援するために、「教員」「キャリアセンター等の学校職員」「留学生を雇用している企業」「就職支援企業」の4者の情報や知見の共有を目的とする当研修会。
2017年11月に第1回を開催し、今回で4回目を迎えました。

昨年は7月に都内大学の会場で実施を計画していましたが、新型コロナの感染拡大のためやむなく延期に。今年は何とか開催したいと事務局で企画を練り、初めてのオンラインでの開催となりました。

今回は「コロナ禍における留学生の就職支援」という要素の濃い内容になるのではないかと予想していましたが、実際にはコロナに関わらず、というよりもコロナ禍だからこそ、本質的な「就職」のあり方、「支援」のあり方が見えてきたように思います。

以下、当日の内容をレポートとしてまとめました。
留学生の就職支援の一助となりましたら幸いです。

【実施概要】
日時:2021年7月10日(土)14:00~17:00
会場:WEB開催(Zoom使用)
主催:株式会社ASIA Link

【参加者】
合計93名
*キャリアセンター等の学校職員 35名
(⇒大学26名、専門学校6名、日本語学校3名)
*教員 50名
(⇒大学22名、専門学校12名、日本語学校16名)
*その他の教育関係者 4名
(⇒フリーランス教師、その他機関所属など)
*パネリスト 4名
(⇒外国人社員(元留学生)を雇用している企業関係者)

 

2.プログラム

1.レクチャー 14:00〜14:40
就労関連の在留資格の最新ニュースとコロナ禍における留学生の就職活動状況

2.パネルディスカッション 14:40〜15:30
日本企業における、外国人社員(元留学生)の活躍状況と課題点、採用時の判断基準等について

ー休憩ー

3.パネリストへの質問タイム 15:40~16:00

4.クロストークセッション 16:00〜16:50
テーマ「留学生の就職支援を行う上で、感じている悩みや課題は?」
トピック①:コロナ禍における留学生の就職支援について
トピック②:就職希望の留学生に対する日本語指導について
トピック③:文系留学生に対するキャリア教育・キャリア支援について

5.まとめ 16:50~17:00

以下、順番に内容を掲載します。

 

3.レクチャー

担当:株式会社ASIALink マネジャー 井上洋輔

 


 


 



前回の研修会(2019年6月)で最新情報として伝えた上記2つの在留資格について、この2年間の動きと現状を整理し、留学生の進路としてどう捉えていくかを解説していく。まずは、成り立ちと目的を確認した。


 


 


 


在留資格ができてから約1年経った時点での特定技能の在留資格変更状況を見ると、予想よりも特定技能に変更した人は少なかった。新型コロナの影響が出る前の数字であり、留学生側はインバウンド対応などの技人国での仕事を探すことができ、企業側も技能実習生が来日できていたことから、転職のリスクや手続きのコストが掛かる特定技能での採用を積極的には進めていなかったことが分かる。



政府の人手不足試算である34.5万人から遠い数字だが、前年比でいうと特定技能へ変更した人数は約6倍となった。これからその内訳を細かく見て行こうと思う。ちなみに、特定技能の制度見直しは本来であれば今年(2021年)に行われる予定だったが、新型コロナの影響で来年に延期となった。



実際に特定技能へ変更したルートを見てみると、技能実習生からの変更が8割以上であることが分かる。



特定技能へ変更した人数を分野別に見てみると上位4位までは技能実習生からの変更がほとんどであることが分かる。5位の介護のみ、技能実習制度ができて間もないので、ほぼ全てが試験ルートからの変更。ここには留学生も多く含まれていることが予想される。



留学生で希望する人が多い外食、宿泊の分野を見てみると、新型コロナの影響がはっきりと見てとれる。外食は前年と比べると4倍近くに増えてはいるが、技能実習生から変更した人が含まれており、留学生からの変更かどうかが未知数である。



2020年4月から日本に在留する資格を持っている人であれば、誰でも特定技能の技能試験が受けられるルールとなり、留学生のみの受験者の統計は発表されていないため、留学生がどのくらい受験しているのか分からない。



試験の難易度を見てみると、多くの分野で50%を超えている。80%以上の合格率の試験もあるため、「ある程度勉強して受験をすれば合格できる難易度である」ということが分かる。



だが、試験に合格した/できたとしても、実際に特定技能に変更する人は合格者の11.6%に留まっている。4つの理由全てが考えられるが、留学生に限定してみると、おそらく①と②が原因ではないかと考えられる。



外食分野での事例。これまで特定技能で就職した後のキャリアプランを心配していたが、技人国へのステップアップを用意している事例もあり、このようなステップアップが可能であれば、留学生も特定技能での就職を選択肢の一つとして考えられるのではないか。



人手不足は多くの分野ではまだまだ解消されていないが、留学生が希望する分野に関して言えばインバウンドが来なくなった現在、就職はかなり難しくなったと言える。逆に技人国でも特定技能でも就職が厳しくなった留学生が、全く関連の無い分野だが求人のある介護や農業を希望して就職するケースも出てきている。


 



特活46号は、特定活動の在留資格の枝分かれした1種で、46番目に出来たため「とっかつ46ごう」と呼ばれている。



法務省のガイドブックの内容からは「オリンピックのインバウンド対応を期待された在留資格である」ということが分かる。



「通訳翻訳を兼ねたフロントスタッフやタクシードライバー」の事例が載っており、技人国では許可が下りなかった職種での就職が可能となる。



法務省や入管に問い合わせたが、特活46号の申請者数、許可数は公表されていなかった。



同じ時期に法改正をして新設された特定技能の陰に隠れ、あまり注目されていない在留資格のため、社会的な認知度も高くなく、企業が在留資格の存在を知らない場合もある。



レクチャー内のまとめでは「勧めることは難しい」と結論付けたが、後日大学職員の方から特活46号での就職事例を頂き、「むしろ今後積極的に教育関係者から企業へ、この在留資格の存在をアピールしていくべき」との声もあった。確かにこれまで技人国では就職できない職種への就職が可能になるため、N1を持っている大学・大学院生で、企業・留学生双方が就職を希望している場合は、特活46号で在留資格申請も今後検討していく必要がある。



両在留資格のまとめ。やはりどちらも新型コロナの影響が色濃く出ていることが分かった。


 



新型コロナの影響が続いていることを証明するために、就職活動の記録や更新を希望する理由書の提出が求められることが予想される。


母国での大卒者に限り、日本学校でも卒業後に1年間の就職活動を継続できる特定活動の全国展開が期待される。



主に秋卒業の留学生が翌年4月入社する際に許可されていた特定活動。新型コロナの影響で入社が延期になった場合に更新が認められる。



現在何らかの就労関連の在留資格を持っている人が解雇・雇い止めにあった場合、特定技能へ転職を希望するのであれば、「仕事をしながら試験の準備をしても良い」という特例措置。新型コロナの影響に多少無理やり関連付けた特定技能への誘導と見えなくもない。


特定技能への変更希望者以外はこれまで通り、持っている在留資格のまま転職活動ができ、なおかつ期限が切れそうな場合は6ヵ月間アルバイトをしながら転職活動が継続できる。ちなみに内定取り消しになった留学生は「特定活動(就活継続)」に変更した方が良い。特定活動(就労不可)は期限が6ヵ月と決まっているため、更新ができない。



新型コロナの特例措置を一覧にまとめたもの。特定活動(就労可)のみ、特定技能の14分野に限ってだがフルタイムの就労が認められている。



留学生の卒業後の進路を特例措置ごとにフローにしたもの。就労関連に特活46号が含まれているので注意。


 



1.多くのイベントが中止になった。留学生は参加を希望する人が多かったが、企業側は中止せざるを得なかった。
2.多くの企業、留学生が活動を見合わせた。



3.いわゆる体育会系の元気のいい学生の良さが伝わらず、話す内容の論理性が重視される傾向が見られる。
4.日本人学生との接触が減り、就活が始まっていることに気が付いていない留学生や家族の心配が強くなり帰国を考える留学生が増加した。



5.特に観光業界希望の学生は急な路線変更を強いられた。
6.企業・留学生ともに試行錯誤の1年間であった。



2020年を受けて、就活の早期化・晩期化という二極化が見られる。



3.新卒採用枠を縮小する企業や外国人採用自体を取りやめる企業があり、コロナ前とは一変して買い手市場となった。
4.弊社の取引先の商社でも、観光を専攻としていた学生が応募しているという情報もあった。



5.多くの留学生が海外進出している企業へ集中する中、現場では海外へ行けない状況で外国人を採用することができない事態が起こっている。
6.インバウンド、海外進出ともに求人が減少し、留学生の持つ国籍や語学力の強みというアドバンテージが失われてしまっている。この状況は今後2~3年は続くのではないだろうか。



まとめ:この状況下だからこそ、以前にも増して留学生が自分の現在地を知ることができる情報が必要となる。今現在留学生にヒアリングをすると、そもそもコロナ前も可能性がない職種を希望している学生や明らかに希望する職種に対して日本語力が不足している学生がいる。何に時間を費やすのかを判断できる材料を提供することが必要。



その上で、海外ビジネスが復調するまでの間、国内業務で留学生が活躍できるよう国籍や語学力以外の自分の強み・やりがいのある仕事を見つけるサポートをしていく必要があるのではないだろうか。


 


 

4.パネルディスカッション
「日本企業における、外国人社員(元留学生)の活躍状況と課題点、採用時の判断基準等について」

進行役:株式会社ASIALink 代表取締役 小野朋江
パネリスト:日本オートマチックマシン株式会社 取締役 水野朝子さん
パネリスト:ユニプレス株式会社 人事担当者 穴吹龍之介さん
パネリスト:株式会社環境管理センター 取締役 浜島直人さん
パネリスト:株式会社プロントコーポレーション 取締役 鈴木浩之さん
(以下、敬称略)

今回の研修会でも、参加教職員の方々から事前にいただいた質問を、企業の方々にどんどん聞いていこうという、パネルディスカッションを行いました。
どのような企業さんにご参加いただくか、ということについては、ASIA Linkとして以下のコンセプトを大切にしています。
*すでに外国人社員(元留学生)を雇用しており、その方々が社内で活躍している企業。
*今後も留学生採用を考えており、留学生の役割・能力に対して期待をしている企業。
*教職員の方々に対して、採用や雇用の本音の部分(きれいごとだけではなく)を正直に語ってくださる企業の方。

このような観点から、ASIA Linkでお付き合いさせていただいており、信頼している企業の方々にお声がけし、みなさん快く参加を決めてくださいました。
当日は、進行役の小野から、パネリストの方々に質問を投げかけていきました。以下に、パネリストの方々の回答の要旨をまとめます。

【企業紹介】
事業内容・海外へのビジネス展開状況・外国人社員の雇用状況

水野:電子部品・精密機械・圧着機械のメーカー。拠点はアジア圏のほか、ヨーロッパ・北米・中米にあり。国内従業員約400人中、外国人社員は23人、国籍は10か国。1998年に中国出身の機械エンジニアを初めて採用し、その後海外ビジネス展開とともに採用する社員の人数・国籍も増加。外国人社員には、エンジニアとしての活躍のほか、母国やその周辺市場の担当や、日本人社員同様に日本市場も担当してもらったりしています。

穴吹:自動車部品メーカー。自動車用プレス部品の国内最大手で、車体骨格などを作っています。自動車業界が自動運転へシフトする中でも大きな影響を受けない分野。海外拠点は現在9か国、17拠点。海外展開にともない、2014年から外国人社員の雇用を増やしてきました。外国人だからこの仕事、という決め方はしておらず、様々な仕事をしてもらっています。将来は駐在などで母国との架け橋になってもらいたいと思っています。

浜島:環境に関する調査、分析、コンサルタントの会社。例えば、豊洲市場やPM2.5などの調査を行っています。海外については、ここ10年で積極的に展開を進め、現在中国とベトナムに拠点あり。この動きにともない、外国人社員の雇用も次第に増やしており、国内従業員約300人中、現在8名が外国人(中国、ベトナム、ミャンマー、韓国)。外国人社員の仕事は調査、分析、営業、海外進出と4種類あるが、まんべんなく関わってもらっています。

鈴木:カフェ&バーの「PRONTO」を中心に全国で300店、海外に4店舗(上海、シンガポール、台湾、ハワイ)を展開。サントリーグループの会社。本来なら海外にもう2店舗増えるはずだったがコロナの影響で厳しくなっています。国内正社員300人中、外国人社員は15人くらい。アジアだけでなく欧州やアフリカ出身者も採用。国籍に関係なく日本語がしっかりしていれば採用しています。コロナ前後で飲食業界は採用も含め大きく変化するだろうと考えています。

【外国人社員の現状】
質問1:どのようなメリットを期待して、外国人を雇用しましたか。雇用した結果、実際にそのメリットはありましたか。また、予期していなかったメリットの事例もありましたら教えてください。

水野:期待していたのは海外展開をする上で海外市場の開拓を深堀することと、現地と日本の橋渡しがメイン。期待通りでした。予想外のメリットは、メキシコ人エンジニアが英語を活かして、インド人エンジニアの教育に協力してくれたこと。そして、フィリピン人社員がメキシコ事業の立ち上げに関わってくれたことです。

穴吹:会社のダイバーシティの観点からも、海外拠点で働くことを期待して採用しました。実際に海外拠点に駐在してもらっています。予期していなかったメリットは、外国人社員の学習意欲が高いので、日本人社員にも伝染して良い影響を与えていることです。

浜島:海外展開でのつなぎ役を期待して採用しました。期待通りです。予期していなかったメリットは、周りにいる日本人社員が留学生のハングリーさから良い影響を受けて刺激になっていることです。

鈴木:留学生アルバイトをまとめるリーダーとして、彼らのフォローと教育の役割を期待していました。思っていた以上にやってくれており、マニュアルの作成などは期待以上。予期していなかったメリットは、ここ数年新卒採用してきて、国籍に関係なく優秀な人は優秀だと気付けたことです。

質問2:外国人社員が業務をうまく遂行できなかったり、社内でトラブルがあったりした場合の原因として、日本語能力の低さ、日本の商習慣や文化・考え方との摩擦、それ以外、のどれが多いと感じますか。具体的な事例もあれば教えてください。

水野:アジア出身・南米出身の社員が問題になったことはありません。逆に日本人以上に気を使って悩みを抱え込んでしまうのではないかと思っています。どちらかというと、欧州出身の学生が自己主張が強くてトラブルになるケースがあると感じます。自身のコミュニケーションの取り方を曲げずに相手が受け入れられない方法で伝えてしまい、周りとトラブルになるケースもありました。日本の技術をリスペクトしているか、それとも日本を下に見ているかの違いなのかな?と感じています。

穴吹:私は、日本の商習慣との違いでトラブルがあるのかなと思います。良くも悪くもはっきりと自分の意見をいう外国人社員がいますが、当社はメーカーなので昔ながらの職人の方とのコミュニケーションでうまくいかないケースもあったと聞いています。ただ、海外出身の社員が増えるなかで、社内でも理解が進んでいると思います。

浜島:私も、日本語力の問題ではなく、商習慣や文化の摩擦かなと思います。ただ、これは留学生の側に問題があるのではなく、日本人側がしっかり外国人が分かるように示して行かなければいけないと考えています。会社の問題として捉えています。

鈴木:特に外国人だからという理由でのトラブルはありません。どちらかというと、日本人にも複雑な家庭もあり、これまでの家庭像で考えるとトラブルが起きるケースもあるので、日本人も外国人も関係ありません。ただ、確かに日本と違って、海外は結婚事情が違うケースもあり、外国人社員から「親が結婚を決めたので3ヵ月間帰国する」と突然言われたことがありました。入社後に自分の文化を一方的に主張してしまうと摩擦がおきてしまいます。お互いの歩み寄りが必要だと思います。

質問3:外国人社員は、日本人社員と比べて離職率は高いですか?外国人社員の早期離職にはどのようなケースが多いのでしょうか。雇用側として外国人社員の定着のために工夫されていることはありますか。

水野:当社の場合、外国人社員のほうが離職率が高い印象があります。特にASEANの方は家族とのつながりが強いので、帰国されるケースが多いです。2名いた当社のタイ人社員は、コロナや家族の事情で帰国しました。ここは当社でも工夫したいと思っているところです。もう一つの離職理由として、成長スピードについて外国人社員本人の期待と会社のスピード感が合わないケースもありました。これは、会社として考えている社員の中長期的なトレーニング期間について、しっかり留学生にも理解してもらわないといけない苦い経験でした。

穴吹:当社も、日本人社員に比べると外国人社員の離職率は高いです。日本人に比べ、見切りをつけるのが速い印象です。これは年齢の影響もあるかもしれません。留学生は一般的に日本人より入社時の年齢が高いので、独身寮に長くいられなくて辛いとか、結婚を機に母国へ帰るなど、ライフステージが上がることによる離職が日本人社員よりも早く訪れます。当社では寮などの工夫もしているところです。

浜島:当社では、特に外国人社員の離職率が高いという印象はありません。これまで離職した外国人社員のケースでは、結婚による転居での離職や、他にやりたい仕事が見つかっての転職など、明確で前向きな理由がある印象です。

鈴木:幸いなことに当社ではまだ外国人社員は辞めていません。むしろ日本人社員の方が辞めます。社風が外国人に合うのかもしれません。外国人採用を始めて10年ですが、当初採用した社員が日本人配偶者がいる方だったので日本に根付いているのだと思います。最近採用した外国人社員も何とか頑張ってくれています。面倒見が良いというところが残ってくれている理由かなと思っています。

【外国人留学生に求めること、採用に際して見ている点】
質問4:留学生を採用する際、彼らの日本語力についてどのように考えていますか。N1、N2という基準は重視しますか?求める日本語のレベルや、面接のときに日本語のどのようなポイントを見ているか、教えてください。

水野:当社の場合、営業担当者は日本の工場とのやりとりがあるのでN2程度は必要です。エンジニアの場合はあまり気にしていません。入社後にN5を取った人もいます。必要があれば入社後に日本語教育をする場合もあります。日本語があまり話せない方との面接は、英語で行ったり、日本語と英語を混ぜながら行ったり。面接で見ているのは、コミュニケーション能力です。言葉が分からなくても、伝えようという熱意を持っている人を選んでいます。

穴吹:日本語力は重視しています。日本の拠点で働いている間は公用語は日本語なので、面接では日本語でのキャッチボールができるかを見ています。N2しかないから必ずしも採用しないかというとそうではなく、入社後もフォローしています。漢字圏の留学生と非漢字圏の留学生で、採用に大きな影響はありません。

浜島:入社の段階である程度の日本語力は求めています。N2でもコミュニケーションが取れる人もいますし、N1でもできない人もいるため、面接では実際のコミュニケーション能力を見ています。グループ面接の際、中国人留学生は押しが強い傾向があり、他の国籍の留学生が発言できないこともあるので、そこは気にしつつ採用活動をしています。日本人学生のグループ面接に留学生が混ざることもありますが、そのようなケースの留学生は大抵日本語力が高いので、留学生だから不利になるということはありません。

鈴木:N1、N2などは気にしていません。まずは一般のお客様としっかりコミュニケーションが取れるレベルかどうかを見ています。ただ、最終的に留学生を採用する目的は国際業務やマーケティングなので、接客以上の仕事を考えると、やはり日本語力は一定以上を求めます。敬語は気にしません。日本人もできないので。お客さんとのコミュニケーションはキャッチボールなので、面接でレスポンスが遅かったり、質問に合わない回答をする留学生は心配になります。

質問5:留学生を採用する際、日本語能力以外に、どこを評価ポイントとして見ていますか。日本語能力は弱くてもこの能力が高ければ採用する、など、留学生に内定を出す際に重きを置いているポイントがあれば教えてください。

水野:当社の場合はメーカーなので、真面目さ、誠実さ、努力ができること、成長意欲を見ています。職務内容に合うかどうかの専門性や適性も見ています。それから、日本語能力が弱くても、コミュニケーション能力が高いかどうかを見ます。つまり、言葉が分からなくても、伝えようという熱意を持っている人を選んでいます。

穴吹:当社もメーカーなので、理系であれば大学・大学院で技術に関わる研究をしていることは評価ポイントとして見ています。文系なら、多言語を話せることもポイントになります。それだけでなく、水野さんがおっしゃったようなコミュニケーション能力も大切です。

浜島:当社も同じく、コミュニケーションの姿勢を見ています。また、当社の場合は環境の仕事をしているので、自分の国の環境を良くしたい、という気持ちの強さも重要です。

鈴木:大前提として、飲食業・サービス業が好きかどうか、という職業選択の理由を重視しています。また、接客だけでなく、食品衛生などリスク管理を軽視する人は選べません。なぜ外食を選んだのか?外食で働く上で気を付ける所に気が付いているかどうかを重視しています。

質問6:留学生の自己PRの指導に悩んでいます。彼らは、語学力以外の自己PRとして、アルバイトやサークル活動の経験しかないケースがほとんどです。〇〇コンクール1位とか、〇〇協会会長をやっていたというような輝かしい経験がない場合、企業に対して何をアピールすればよいのか悩みます。企業から見て、どのような自己PRが響くのでしょうか。留学生が合格しやすい自己PRのポイントがあれば教えてください。

水野:会社によって求めるタイプが違うと思います。輝かしい経歴を求める企業にそのような経歴がない人はそもそも合いません。背伸びして入っても入社後に苦しいだけです。企業はそれぞれHP等に経営理念が書いてあるので、それに合わせた自分の深堀りをすると良いと思います。例えば、私がこれまでの面接で印象に残った人の中に、学生時代に新聞配達をずっと続けて頑張っていた人や、小学校では人見知りだったが色々な工夫をして販売で成功した話をしてくれた人がいました。地味であっても自分が誇りに思っていることを整理して、ストーリーとして話てくれるといいと思います。その中に、その人の価値観が見えてくる。その価値観が会社と合うと良い結果になると思います。

穴吹:留学生はアルバイトをしながら学校に通っている人が多いので、どうしてもそれ以外に活動できることが少ないのかもしれません。ただ、私が見てきた留学生は、その状況下でも色々な経験をしてきた人がいました。それを話してもらえれば、輝かしい経験でなくても大丈夫です。

浜島:当社もその人のストーリーを見ています。特に、苦労したことを乗り越えたストーリーを大切にしています。また、留学生の中には現地の大学を卒業してから日本で大学院に通っている人もいます。複数の専攻を勉強しているので幅があることも、アピールになります。

鈴木:当社のエントリーシートでは、これまでの経験をあまり聞きません。それよりもその人自身の価値観と会社に対する貢献を見たいです。そのため、将来何がしたいかを重視しています。これまでの経験を聞く場合には、成功よりも失敗体験を聞きます。失敗をどう克服してきたか、今後の人生でどう改善しようとしているのか、という方が今後の仕事に関わってくると思うからです。これまでの成功体験よりも、これからどう生きていくのかを話してくれた方がその人が見えます。

【コロナ禍における留学生採用について】
質問7:コロナによって、留学生採用を含む自社の採用方針にどのような変化があったか教えてください。日本人学生と留学生の就職率に大きな差が出たという大学もあります。コロナ禍で留学生採用のニーズが下がっているのか、または採用基準を厳しくした結果留学生が合格しにくくなっているのか、その点も見解がありましたら教えてください。

水野:当社では特にコロナ前後で採用方針は変更していません。ただ、冒頭のレクチャーにもありましたが、最終選考以外はオンラインでの面接になりました。それによる不利益を受けた留学生もいるのではないか?と感じています。

穴吹:当社では、他の多くの企業同様にコロナの影響は少なくありません。そのため、今年度の新卒採用は全体的に枠が減っています。留学生のニーズ自体が減ったという訳ではありません。

浜島:当社では、コロナの影響で、新たな海外展開をする上での留学生の採用の二―ズは下がりました。次はミャンマーへの展開を考えていたので、コロナだけの影響ではないのですが。その他の現場で働く職種に関しては採用意欲は下がっていません。

鈴木:コロナ禍で飲食業は非常に厳しい状況です。プロントのチェーンも売り上げは半分になっています。儲からないので人は採用できません。これは留学生だから採用しないのではなく、日本人採用も同様です。ただ一方で、コロナ前後で留学生に期待する役割は変わると見ています。具体的には、コロナ前の留学生採用はオリンピックが一つのキーワードでした。しかし今後はDX化が進んでくるので、合理的な視点が必要になってきます。接客ができる人材だけでなく、経営的な視点を持つ人材が必要になってくる。これは海外人材の方が合理的な視点を持っていたりします。接客する人材から、経営を構築する人材へとニーズがシフトすると考えています。

【参加者からの追加質問】
質問8:母国で他業種の職務経験がある留学生に対して、採用時はどうみられますか?特にメリットがありますか?また、待遇はプラスになりますか?

水野:当社の業務とまったく関係のない仕事経験の場合は、メリットにならない可能性が高いです。少しでも関連があれば、例えば、貿易事務の経験がある留学生が海外営業職に応募する場合は、若干プラスはあります。基本的には、職務経験が他業種であると、待遇も含めメリットがないと思います。

穴吹:当社も同じく、関係のない職務経験はメリットになりません。職務経験と関係がある部門であれば、面接の時に関連性を伝えてもらえればメリットになります。ただし、新卒枠であれば待遇は変わりません。

浜島:当社では、ベトナム拠点との繋ぎをしてもらっているベトナム人社員が、日本への留学前に現地の日系企業で職務経験があります。ただ、現職と職務経験の関連は採用時には意識していませんでした。実際に仕事をしてもらう中で、現地での職務経験がプラスに働いている部分があると感じるようになりました。そのため、今後の採用においては、若干母国での職務経験も見るかもしれません。

鈴木:そもそも新卒採用とキャリア採用の視点が違うので、やってきた内容によります。やってきた業種が別であっても、その仕事内容が能力として評価できる場合は考慮します。たとえば、マーケティングの仕事の経験がある人から、当社との関連性が見いだせればメリットとなり得ます。

質問9:新卒と言っても年齢が30歳以上、など、新卒採用に乗れない留学生が結構います。転職市場だと卒業の時期が合わず、難しいです。少々年齢が高くても新卒採用して頂けるのでしょうか?

水野:当社の場合、業界が特殊で育成に時間がかかることもあり、新卒で30歳以上の採用は難しいです。母国で職務経験があって、日本へ留学後にもう一度専門分野の勉強をし直して、さらに日本語を身につけた方であれば採用対象になりますが、新卒としてではなく中途採用で見ます。

穴吹:当社も新卒採用としては30歳以上は難しいです。大学院で研究を積んでこられて専門性が高い方であれば、20代後半で新卒採用の実績がありますが、そういった理由が見られない場合は対象になりません。

浜島:年齢制限を設けている訳ではないのですが、社内の同じ年齢の社員と比較してどうか、ということは見ます。年齢が高くなればなるほど、求める能力は高く期待しますので。

鈴木:当社も年齢制限は設けていませんが、年齢がどうこうというよりも30歳になるまでに何をしてきたかということを見ます。本人も、同世代の上司や先輩に囲まれる環境に耐えられて、さらにそこに追いつく努力ができるかどうかが大切です。

 

5.クロストークセッション
「留学生の就職支援を行う上で、感じている悩みや課題は?」

毎回、教職員研修会でワークショップのファシリテーターを担当してくださっている河野礼実さん(山梨学院大学 特任講師)。今回も、参加者が主体となって意見交換・情報交換ができるワークショップを企画したいと、ASIA Linkメンバーと一緒に何度も話し合いを行いました。例年は会場で参加者が5~6人のグループになり、1時間半をかけて行うワークショップですが、今回は100人規模のオンライン実施で、ワークショップの所要時間も50分と例年の約半分。難しい条件の中、3つのトピックに分かれて話し合う「クロストークセッション」という形式で、行ってみることにしました。

過去のワークショップでは「留学生の就業力」を主題にしてきましたが、今回はオンラインのため一つのテーマを掘り下げることは難しいと考え、「留学生の就職支援を行う上で、感じている悩みや課題は?」という大きなテーマで参加者の事例を少しでも共有する時間にしました。
参加申し込みのみなさんから悩み・課題を事前アンケートで募った結果、以下の3つのトピックに決定。研修会当日はZoomのブレイクアウトルームに分かれて25分間の話し合いを行いました。
トピック①:コロナ禍における留学生の就職支援について
トピック②:就職希望の留学生に対する日本語指導について
トピック③:文系留学生に対するキャリア教育・キャリア支援について

各トピックのブレイクアウトルームには、それぞれファシリテーターと書記がついて、進行を行いました。ファシリテーターは、トピック①を小野、トピック②を奥山、トピック③を河野が務めました。
トピックで出た内容は、以下の書記作成の資料をご覧ください。

トピック①コロナ禍における留学生の就職支援について(書記:相馬)

トピック②就職希望の留学生に対する日本語指導について(書記:井上)

トピック③文系留学生に対するキャリア教育・キャリア支援について(書記:土屋)

 

6.まとめ

昨年始まったコロナ禍は、留学生をこれまで以上に弱者にしてしまったと感じます。慣れない海外生活の中でのリモート授業、母国へ一時帰国もできない寂しさ、一人暮らしの中での感染への不安、そして就職活動での苦戦。

ただ、その一方で、留学生の底力を見ることができた1年でもありました。
自分の語学力を強みにしていたある留学生は、企業の面接に落ち続ける中で、「語学力以外に企業が自分を雇うメリットは何か」という本質的な問題に正面から向き合うようになり、内定が決まりました。
また、日本語力が弱かったある理系留学生は、面接の際に自分の日本語での説明不足を補うために、研究内容の説明資料や実験の写真などを用意して面接に臨み、内定につながりました。

コロナ禍は、日々の物事への取り組み方や、個々人の人間力があらわになるという点で、私たち就職支援者にとっても、様々な気づきや学びがあったと感じます。
この状況はしばらく続きそうですが、留学生一人一人が持つ本来の力を引き出しながら、就職支援に取り組んでいきましょう。

本日はご参加ありがとうございました。
みなさん、またいつかリアルでお会いしましょう!

 

7.参加者の方々からの感想を一部ご紹介します

【レクチャーについて】
*新設された「特定技能」「特定活動46号」の詳細と取得状況がわかり、大変参考になった。
*コロナ禍での在留関連特例措置について、細かく説明を聞けたので理解が深まった。
*職業柄知っている情報だったが、改めて整理して文字化していただくことで、認識が深まった。

【パネルディスカッションについて】
*自分の認識が正しかったところは自信になり、そうではなかったところについても勉強になった。
*企業の採用側の話を聞けたことが大変良かった。特に自己PRに関する点は、学生の自信につながるようなエピソードの掘り起こしが大切だと再認識できた。今後の支援にもぜひ活かしていける内容だった。
*採用後の企業の取り組みを聞き、今しなければいけないことが洗い出された。

【クロストークセッションについて】
*様々な立場の方に様々な視点から情報が聞けて良かった。色々と行き詰っていたが、ヒントを得られた。
*企業の方のみならず、大学のキャリアセンターの方、海外の方のお話も伺うことができ、オンラインの大規模イベントならではの醍醐味を感じた。
*参加者の部門それぞれの留学生支援の取り組みについて、もう少し深堀した情報交換が欲しかった。

【全体についての感想】
*基本的な情報から、企業の本音も聞けてよかった。日本語学校目線も欲しかったと思う。
*Zoomの利点を活かした研修会だった。コロナの影響を聞くことができたことが良かった。
*先ずは次回、対面でできることを期待。多様な方と話せるクロスセッションは特に良かった。それぞれの活動された経験・ノウハウを共有し、点から面に深められると効果が大きいと感じた。
*専門学校生は大学よりも更に就職が難しいので、その現状や今後の対策についての話を私からもできるとよかったと思う。
*大学、専門学校、日本語学校、それぞれの立場の違いを踏まえ、話が伺えたら、もっと良かった。大学卒留学生をイメージした話になっていたように思う。
*コロナ禍における支援のあり方について、深く考える機会となった。

(文責:株式会社ASIA Link 小野、井上)