24卒外国人留学生対象 中小企業への応募に関する調査 ~仕事内容・海外展開・会社の雰囲気を重視~

1.はじめに

株式会社ASIA Linkでは、2024年3月卒業予定の外国人留学生(以下、留学生とする)を対象に中小企業への応募に関するアンケート調査を実施した。

中小企業は日本の全企業数のうち、その99.7%を占めている。2022(令和4)年12月に公表された出入国在留管理庁の「令和3年における留学生の日本企業等への就職状況について」によれば、従業員数300人以下の中小規模の企業に就職した留学生は全体の69%を占めており、その数は少なくない。彼らがどのような動機付けで中小企業へ応募したのか、その理由を明らかにすることで、中小企業が採用活動を行う際の一助となることを目的に、調査を実施した。

2.調査概要

・調査期間:2023年9月8日~2023年10月2日
・調査機関(調査主体):株式会社ASIA Link
・調査対象:2024年3月卒業予定の外国人留学生
・サンプリング:ASIA Linkに登録している会員2024年3月卒業予定の外国人留学生479名
・有効回答数:65名
・調査方法:Web上のアンケートフォームのリンクをメール送信

3.調査対象者の属性

・専攻分類:文系 29名、理系 36名
・出身国・地域:中国 27名、ベトナム 10名、台湾 5名、タイ 5名、東南アジア(タイ・ベトナム以外)4名、南アジア 4名、中東 3名、欧州 3名、アフリカ 2名、その他 2名
・最終学歴:大学(学士)33名、大学院(修士課程)22名、大学院(博士課程)5名、その他 5名

4.中小企業への応募理由

本調査では留学生の中小企業への応募理由を明らかにすることを目的にアンケート調査を行った。

アンケートの質問及び選択肢の作成に際しては、日本人学生に対して調査を行った株式会社ディスコ キャリタスリサーチの2022年10月発行「2023年卒 vol.10 10月1日時点の就職活動調査」の第3章「中小企業への選考応募状況調査」(以下、ディスコ(2022)とする)を参考にした。ディスコ(2022)に倣い、本稿においても、中小企業は従業員300人未満の会社と定義している。

また、留学生の中小企業への応募理由の特徴を明らかにするため、日本人学生との比較を行う。株式会社ディスコ キャリタスリサーチの2023年10月発行「2024年卒 vol.10 10月1日時点の就職活動調査」の第3章「中小企業への選考応募状況調査」(以下、ディスコ(2023a)とする)のデータを用いる。留学生と日本人学生の二者の比較を行い、その差異から、中小企業が留学生へのどのようにアプローチするのが適当であるか、その端緒を明らかにしたい。

4-1.中小企業への応募の有無

2024年3月卒業予定の留学生を対象に、中小企業(従業員300人未満の会社)に応募をしたか尋ねたところ、50名より回答が得られた。そのうち「はい」は37名(74.0%)、「いいえ」は13名(26.0%)であった。本調査ではエントリシートあるいは履歴書の提出からを企業への応募とした。

ディスコ(2023a)が日本人学生に中小企業への応募経験について尋ねたところ、「エントリーした」と答えたのは60.1%であった。

4-2.中小企業へ応募した理由

中小企業へ応募したと回答した留学生37名に、応募理由について尋ねたところ、以下の回答が得られた。回答は複数選択可とし、自由記述欄も設けた。

最も多かったのが「やりたい仕事に就ける」17名(45.9%)、次いで「会社の雰囲気がよい」16名(43.2%)、「志望業界の企業だった」16名(43.2%)であった。

ディスコ(2023a)の日本人学生の上位3項目は、「やりたい仕事に就ける」(38.3%)、「会社の雰囲気がよい」(38.3%)、「内定を取りやすそう」(32.3%)であった。

留学生と日本人学生の双方ともに「やりたい仕事に就ける」と「会社の雰囲気がよい」が上位にきており、中小企業へ応募する理由は共通していることが窺える。

大きな違いは、日本人学生は3番目の応募理由に「内定を取りやすそう」(32.3%)が上がっている点である。一方の留学生は「内定を取りやすそう」を選択したのは5名(13.5%)で、応募理由の6番目であった。つまり、留学生は中小企業だから容易に内定が得られる、とは考えておらず、応募動機にはならないことが推察される。

また、留学生は応募理由の同率2位に「志望業界の企業だった」(16名)43.2%が上がっている。一方の日本人学生は「志望業界の企業だった」は8番目の理由で23.2%であった。留学生にとっては、志望業界の企業であることが、中小企業応募の動機付けとして有意に働いていることがわかる。

次に、本調査の結果が、中小企業へ応募した留学生に特有の傾向であるのかを検討するため、株式会社ディスコ キャリタスリサーチの2023年8月発行「2024年卒 外国人留学生の就職活動に関する調査」(以下、ディスコ(2023b)とする)の第6章「就職先企業を選ぶ際に重視する点と希望する働き方」のデータを引用する。この調査では企業規模を限定せず、就職先を選ぶ際に重視する項目を留学生に聞いている。

ディスコ(2023b)の調査結果によると、留学生が就職先を選ぶ際に重視する上位4項目は、「将来性がある」(52.5%)、「給与・待遇が良い」(51.1%)、「有名企業である」(34.3%)、「大企業である」(29.0%)であった。

先に述べたように、本調査の留学生が中小企業に応募した理由として、最も多かったのは「やりたい仕事に就ける」17名(45.9%)である。一方、ディスコ(2023b)では「仕事内容が魅力的」は14.4%で、11番目の項目であった。中小企業に応募した留学生が「やりたい仕事に就ける」と判断した理由は、大企業の総合職と比較すると、仕事内容や配属先、職場で求められる役割が明確であることが、中小企業への応募動機の一つとなった可能性が考えられる。

注:グラフ内の「勤務地が魅力的だった」について補足する。本調査はディスコ(2022)にを参考に選択肢を作成したが、「出身地・地元に本社がある」の項目は、留学生が日本国内の地域を「出身地」とすることは考えにくいため、「勤務地が魅力的だった」に変更を行った。

4-3.追加の選択肢「海外・グローバルな展開をしている会社だった」について

本調査では、中小企業に応募する理由として、海外進出や海外に拠点があることが、留学生の応募の動機付けになるかどうかを明らかにするため、ディスコ(2022)にはなかった「海外・グローバルな展開をしている会社だった」を選択肢に追加した。

その結果、「海外・グローバルな展開をしている会社だった」は17名(45.9%)が選択しており、「やりたい仕事に就ける」17名(45.9%)と並んで同率1位という結果となった。

仕事内容と同程度に、その企業がグローバルに展開していることが重視されており、すでに海外進出をしている企業や、海外に拠点のある企業は、そのことをアピールすることで留学生の応募を促せる可能性がある。それだけでなく、海外展開の予定や計画があれば、それを留学生に伝えることで応募の動機付けの一つになる可能性があると考えられる。

4-4.中小企業へ応募しなかった理由

中小企業に応募したかの問いに「いいえ」と回答した13名に、中小企業(従業員300人未満の会社)を受けていない理由について尋ねたところ、以下の回答が得られた。

最も多かったのが「安定性に欠ける」7名(53.8%)、次いで「海外で働く機会が少ない」6名(46.2%)、「知名度が低い」5名(38.5%)であった。中小企業は規模が小さいため、大企業よりも海外展開していない、と考える留学生もいたのだと思われる。

ディスコ(2023a)の日本人学生が中小企業へ応募しなかった理由の上位3項目は「給与・待遇がよくない」(49.0%)、「知名度が低い」(41.8%)、「安定性に欠ける」(41.2%)で、条件面での懸念が中心にある、と考察されている。

4-5.中小企業が留学生にアピールする方法について

中小企業がさらに留学生に応募を促すためには、どうすればいいと思うかを尋ねたところ、26名より回答を得られた。回答形式は自由記述である。以下に一部抜粋して記載する。

自由記述による留学生の回答
・外国人社員のキャリアをより明確的にすること。例えばうちの会社に来て何ができる、将来的にはどんな仕事を任せられる、どこに出張できるなど(中国)

・留学生を積極的に採用する意欲をもっと見せて欲しいです。ありふれた選考の流れや質問にこだわらなく、一人一人の学生にちゃんと向き合って、個性を大事に見て欲しいです。(中国)

・違うバックグランドの留学生の多様性を包容できるような職場づくりの経験をもっているかどうか。(中国)

・留学生向けのイベントなどで留学性が働きやすい環境をアピール。(ベトナム)

・企業を探す時、就活サイトで探したけど、目に入ったのは大手企業しかなかった。だから、中小企業の存在がわからなかった。そのため、広告などで留学生に企業のことを知られるようにしてほしい。 (ベトナム)

・日本語だけでなく、英語などの外国語での説明会も実施すべきだと考えます。 (インドネシア)

・多様性を尊重、キャリア支援と成長の機会、国際市場への展開。(ベトナム)

5.まとめ

本調査において、留学生が中小企業に応募した理由は、「やりたい仕事に就ける」と「会社の雰囲気がよい」が上位にきており、日本人学生と応募の動機付けが共通していることが明らかになった。文化的背景は異なっていても、中小企業に応募する際、学生の動機付けとなっているのは、自分にフィットした「仕事内容」と「組織文化・人間関係」であると言えるだろう。特に仕事内容については、大企業の総合職と比較した際に、職種や求められている役割が明確であることが、中小企業への応募の有力な動機付けになるのだと考えられる。

留学生の採用を検討している企業は、仕事内容をよりくわしく説明し、社内の雰囲気をオープンに伝えることで、留学生の応募につなげられる可能性がある。

それに加え、留学生にとっては、その企業が海外展開しているかどうかも、応募の動機付けとなることがわかった。中小企業は海外展開をしていないと考える留学生もいるため、海外に拠点のある企業、海外との取引が盛んな企業、今後海外展開の予定がある企業は、そこをアピールすることで留学生の応募を増やせる可能性が示唆された。

6.参考文献

・株式会社ディスコ キャリタスリサーチ (2022) 「2023年卒 vol.10 10月1日時点の就職活動調査」
https://www.disc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2022/10/202210gakuseichosa_kakuho.pdf

・株式会社ディスコ キャリタスリサーチ (2023a) 「2024年卒 vol.10 10月1日時点の就職活動調査」
https://www.disc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/10/202310_gakuseichosa2024_kakuho.pdf

・株式会社ディスコ キャリタスリサーチ (2023b)  「2024年卒 外国人留学生の就職活動に関する調査」
https://www.disc.co.jp/wp/wp-content/uploads/2023/08/gaikokujinryugakusei_202308.pdf

・出入国在留管理庁(2022)「令和3年における留学生の日本企業等への就職状況について」
https://www.moj.go.jp/isa/publications/materials/10_00013.html

 

★印刷用のPDFは以下からダウンロードできます
24卒外国人留学生対象 中小企業への応募に関する調査(ASIA Link)